世界中で親しまれているデニム。誰もが一本は持っている身近なアイテムでありながら、その一方で、希少なヴィンテージデニムには数千万円で取引されるものも存在する。
かつては作業着として生まれたデニムが、なぜそこまでの価値を持つようになったのか。そして、多くのコレクターを魅了し続ける理由とは何なのか。
日本最大級のヴィンテージ総合プラットフォーム「VCM」代表・十倍直昭さんに、ヴィンテージデニムの基礎から現在のマーケット、そしてこれからの楽しみ方まで話を伺った。
「今の技術では作れない」生地と色落ちが醍醐味
――まず率直に、ヴィンテージデニムの魅力はどこにあるのでしょうか。現行品とは何が違うんですか?
ひと言で言えば、「生地」と「色落ち」の違いです。
ヴィンテージデニムと現在のデニムでは、生地の質感や色の落ち方に明確な差があります。もちろん現代のデニムにも素晴らしいものはたくさんありますが、当時の生地が持つ風合いや、長い時間をかけて生まれた色落ちは、簡単に再現できるものではありません。
そこに希少性やコンディション、サイズなどの要素が加わることで、ヴィンテージデニムならではの価値が生まれているのだと思います。
例えば、この「ファースト」と呼ばれるデニムジャケットを見ていただくと分かりやすいのですが、生地の質感や色落ちの表情には、現代のデニムとはまた違った魅力があります。
もちろん今の技術も非常に高いのですが、当時の素材や製法、そして長い年月を経て生まれた風合いまで含めると、同じものを再現するのは簡単ではありません。
――なぜ、今の技術でも作れないのでしょう。
理由はいくつかあります。
一つは、当時と現在では素材や製法、さらには生産背景そのものが異なることです。環境基準や製造方法も時代とともに変化しているため、当時とまったく同じ条件でものづくりをすることは難しくなっています。
もう一つは、長い年月を経て生まれる経年変化です。ヴィンテージデニム特有の色合いや風合いは、着用や洗濯、保管環境など、何十年という時間の積み重ねによって生まれたものです。
現代の技術で近い表現を目指すことはできますが、その時間まで再現することはできません。私はよくワインやウイスキーに例えるのですが、熟成によって生まれる価値は、どれだけ技術が進歩しても一朝一夕には作れない。それと似ていると思っています。
スキニー全盛の「氷河期」を超え、知識がマーケットを広げた
――ヴィンテージデニム市場は、この数十年でどう変化してきましたか?
日本では1990年代に一度、大きな古着ブームがありました。木村拓哉さんをはじめ、多くの著名人がヴィンテージデニムを着用したことで、その価値や魅力が広く認知されるようになったんです。
一方で、2000年代に入ると、エディ・スリマンが手がけたDIOR HOMMEの影響もあり、スキニーを中心とした細身のシルエットがファッションの主流になります。その流れの中で、ゆとりのあるヴィンテージデニムは以前ほど注目されなくなり、市場全体も落ち着いた時期がありました。
その後、2010年代後半頃から、オーバーサイズのトレンドとともに再びヴィンテージへの関心が高まり、さらにコロナ禍では「実物資産」としての価値にも注目が集まるようになります。
一般的にはこの流れを「第2次古着ブーム」と表現されることもありますが、私自身は一時的なブームというより、ヴィンテージというカルチャーがより広く定着した結果だと感じています。
――かつてのブームと現在との大きな違いはどこですか?
大きな違いは、SNSの発展によって、ヴィンテージに関する情報へ誰もがアクセスしやすくなったことです。
以前は雑誌や専門店を通じて、一部の人だけが深く知っている世界でしたが、今はYouTubeやTikTokなどを通じて、年代やディテール、相場感まで知ることができます。
その結果、「なぜこのデニムには高い価値がつくのか」を理解できる人が増え、マーケットの裾野が大きく広がりました。
現在、希少なヴィンテージデニムは、単なるファッションアイテムにとどまらず、コレクションピースとして世界的に評価される存在になっています。実際に近年は、非常に希少な一本が高額で取引され、記録的な事例として話題になることもありました。
もちろん相場である以上、価値が常に上がり続けるとは言い切れません。ただ、本当に希少性の高い個体に関しては、今後も一定の評価を保ちやすいのではないかと感じています。
永遠の王道「501」、そして都会的な「ブラックデニム」の台頭
――現在、特に人気が高いのはどのモデルでしょうか。
やはり、まずはリーバイスの「501」だと思います。ヴィンテージデニムを語るうえで、501は外せない存在です。そこから少し細身のテーパードシルエットである「505」や、フレアシルエットの「517」など、時代やスタイルに応じて人気のモデルも広がっていきます。
リーバイスが特別な存在である理由は、デニムの歴史そのものと深く結びついているからです。リーやラングラーと並んで「世界三大デニムブランド」と呼ばれますが、その中でもリーバイスは、ヴィンテージ市場においてひとつの基準のような存在になっています。
――リーバイス以外や、最近になって評価が変わったものはありますか?
ここ数年で特に注目を集めているのは、ブラックデニムです。以前はヴィンテージというよりレギュラーアイテムとして扱われることが多かったのですが、都会的で取り入れやすいスタイルとの相性の良さから人気が高まり、それに伴って相場も大きく上昇しました。
また、デニムの楽しみ方自体も変化しています。以前はジャストサイズで穿くのが主流でしたが、最近では、ジャストサイズだけでなく、あえて大きめのサイズを選び、ベルトで絞って楽しむスタイルも少しずつ広がってきています。同じ501でも、サイズの選び方ひとつでまったく異なる表情を楽しめるようになったのは、近年の大きな変化だと感じています。
さらに近年は、「ボロ」と呼ばれるダメージやリペア跡のある個体にも注目が集まっています。
以前は、コンディションの良い個体ほど価値が高いという考え方が一般的で、ダメージはマイナスに捉えられることも少なくありませんでした。もちろん、その価値観は今でも変わりません。
一方で近年では、リペア跡やダメージも、その一本だけが持つ個性やストーリーとして評価されるようになり、特に若い世代を中心に人気が高まっています。
現代のブランドでもダメージや色落ちを加工で表現することはありますが、ヴィンテージには実際に当時の労働者が長い年月をかけて着込んできた背景があります。
価値を見極める「3つのポイント」
――ヴィンテージデニムに興味を持った方が、「これは価値があるかもしれない」と見分けるポイントはありますか?
リーバイスであれば、まずチェックしていただきたいポイントがいくつかあります。
代表的なのは、右バックポケットに付いている赤いタブです。現行品の多くは「e」が小文字ですが、ヴィンテージには「E」が大文字の、いわゆる「ビッグE」が採用されている年代があります。
ただし、復刻モデルにもビッグEが使われているものがあるため、それだけでヴィンテージと判断できるわけではありません。ほかのディテールとあわせて確認することが大切です。
もう一つは、裾を裏返したときに見える生地の端、いわゆる「セルビッチ(耳)」です。
特に1980年代前半頃までのリーバイスには、「赤耳」と呼ばれる、白い生地の端に赤いラインが入ったセルビッチが使われているものがあります。もちろん、それだけで価値が決まるわけではありませんが、ヴィンテージかどうかを見分ける代表的なポイントの一つです。
また、ボタンの裏側に刻印された数字やアルファベットも重要な手がかりになります。
例えば「6」や「J」といった刻印が入っているものがあり、製造された工場を判別するための情報として知られています。赤タブやセルビッチなど、ほかのディテールとあわせて見ることで、おおよその年代や仕様を判断することができます。
私たちから見ると、一本のデニムには年代や仕様、作られた背景など、本当に多くの情報が詰まっています。そうした違いが少しずつ分かるようになると、ヴィンテージデニムはもっと面白く感じられるはずです。
もちろん、最初から何十万円、何百万円もする一本を選ぶ必要はありません。1~2万円、あるいは5万円前後でも魅力的なヴィンテージはたくさんあります。
まずは気軽に一本手に取って、その背景やストーリーも含めて楽しんでいただけたら嬉しいですね。











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