7月15日、大阪。バレーボールネーションズリーグ(VNL)予選ラウンド第3週、日本は首位で日本ラウンドを迎えていた。

その第1戦で迎え撃ったのが、世界ランキング2位で、パリ五輪準々決勝で「パリの涙」と呼ばれる逆転負けを喫したイタリアだった。

 その一戦、髙橋藍(24歳)は、アスリートとしての神気を漂わせていた。滞空時間の長い跳躍で、相手の指先まで見極めながら最善の軌道を選び、人生をかけるように腕を振った。0コンマ何秒という作業のなか、3枚ものブロックがつくことがあったが、構わずに打ち抜いた。

【男子バレー】髙橋藍がイタリア撃破で見せたたくましさ 「パリ...の画像はこちら >>
「今大会は、フルセットで負けていない」

 髙橋はそう言うが、このイタリア戦も、日本はセットカウント3-2でしぶとく勝利を収めた。同時に決勝ラウンド進出も決めた。かつてないほど、接戦を制するたくましさがあった。それを体現しているのが、髙橋だと言える。

 イタリア戦の髙橋は、両チーム最多の26得点を記録している。背面ショットは独創性に溢れ、バックアタックは迫力十分、2本のサービスエースも決めた。攻撃だけではない。ディグ(スパイクレシーブ)も世界最高峰のリベロである山本智大に次ぐ7本を成功させ、効果率は75%と驚異的な数字を叩き出した。

昨年来の徹底的な肉体改造でアジリティとパワーを同時に上げたが、攻守にわたって大車輪の活躍だった。

 この試合でもうひとつ特筆すべき点は、セットを重ねても輝き続けたタフさにある。

 イタリアはフルセットを想定した老獪な戦い方で、1、2セットはギリギリまで攻めたサーブを打ちながらも、そこまで成功率は高くなかった。しかし、3セット目後半からはサーブをアジャストさせ、ミドルブロッカーの高さを武器にブレイクを狙うのが戦略だったと言える。パリ五輪ではそれで大逆転勝利を演じており、この日も第3セット後半からサーブがフィットしつつあった。

 その流れを要所で断ち切ったのが髙橋だ。その勝負強さはやはり際立っていた。

 たとえば、日本は第4セットを23-25で失ったが、終盤、髙橋は見事な巻き返しを見せている。21-24からクロスに打ち込み、3枚ブロックを相手に2点を決め、あと一歩まで追い上げた。その諦めない気概こそが、ファイナルセットで5-5から勝ち越す一撃につながった。ブロックを浴びても、次はやり返すようにクロスに打ち込み、マッチポイントとなる15点目も自らもぎ取った。

【五輪のイタリア戦を「見返すことはない」】

「大事な1本を決めきれるか。

仲間がいてこその得点ではあるんですが......」

 髙橋はそう言って、続けた。

「今回、代表はセッターが代わりましたが、どのセッターが来るかもわからなかったので。まずは自分自身が"どんなボールでも決めきれる力を身につけるのが必要"と思ってやってきました。それは、サントリー(サンバーズ大阪)でのシーズンでもこだわってきたことですね。どんな状況でも決めきることを求めてやってきたし、これからさらに求めていかないといけないと思っています」

 その結果、この1年で髙橋は次元の違う選手になっている。世界トップクラスから世界のトップへ。一流選手は強い相手と戦うことで才能が触発されるものだが、彼は山脈のようにそびえるイタリアのミドルブロッカーを相手にすることで、インスピレーションを得たようだった。対策されると、たいていは勢いが失われるものだが、髙橋は技を改善させた。

「(試合後半は)相手の高さがあって、自分も疲れが出たのか、打点が下がっていたので、モニターを使いながら、リプレーでボールがどこを通過していたのか、冷静に分析して。そうやって4セットかけてやってきたことを、あとがない5セット目で出せたかなと。1本を止められた感覚は自分のなかに残るので、次に打点を上げるのか、コースを広げるのか、うまく対応しながら......」

 髙橋の才能はその適応力にある。ただ、不思議なほど試合後には引きずらない。

おかげで、余計な迷いなく次の戦いに挑めるのだ。

 昨年行なったインタビューで、髙橋とパリ五輪の話をしたことがあった。

――パリ五輪では敗退後、コートで涙を流す姿がありました。あれ以来、泣いたことは?

 そう質問を向けると、彼はこう答えていた。

「ないですね。オリンピックでしか泣かないと思います。オリンピック出場を決めたときも感情が溢れましたし、本大会でイタリアに負けたときは悔しかったですが......」

 そこで、イタリアに大逆転で敗れた試合を見返したかと聞いた時だ。

「見ていません。あの試合は頭で覚えていて、それで十分。わざわざ見返すことはないと思います。負けた試合も勝った試合もあまり見ないですね(笑)。このプレーをこうしたらよかった、とか、こういう決め方できたんだ、って考えるのはプラスもあるかもしれないけど......。

"たら、れば"を考えたくないです。自分はいつも先を見ておきたい」

 敗北のイメージなど、彼には必要ないのだろう。明朗で前向きな野心で、勝利をイメージし、敵を全力で叩き潰す。その明快さが勝負強さにつながっている。

「日本が勝っていくためには、自分も含めて石川(祐希)選手、西田(有志)選手、宮浦(健人)選手、4人が大事な場面で決めきれるか。それが必要だと思っています。(トスが)上がってくれば自分は決めるし、決める自信を持つのが大事。(ロラン・)ティリ監督も『全員がボールをほしがるように。大事な場面で引かずに、自分たちから攻めていけるようにしよう』と言っていますが、本当にそうだなって思います。自分自身が決めきるんだ、この試合を終わらせるんだ、というマインドでやっていますね」

 VNLの戦いは続く。7月16日は昨年の世界バレーボール選手権で不覚をとったカナダと対戦、続いてベルギー、アルゼンチンと戦う。すでにファイナル進出を決め、VNL初優勝も照準に入った。

 すべては2年後のロス五輪に向けた試金石だ。
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