マンションリサーチは、東京23区に所在する売出価格平均8000万円以上のマンションに関する調査結果を9月11日に発表した。調査は2020年1月期~2026年7月期までの期間、市場に流通している既存住宅の売り出しデータを系統的に取得・解析し、統計的調整を経て算出したもの。


マンション購入を検討する際、「買い時はいつなのか」という議論がしばしば交わされる。その際、「買い時」が「マンション価格がいつ下落するのか」という問いとほぼ同義で捉えられるケースも少なくない。現在は価格が高いため待った方がよい、金利上昇によって今後価格が下落する可能性がある、景気が悪化して価格が下がるタイミングを待つべきだ、といった考え方だ。

しかし、現在の市場環境では、価格下落の時期だけを軸に購入時期を判断することは難しい。マンション価格は、金利や景気といった価格を押し下げる要因だけでなく、賃金や物価、土地価格、建築費など、価格を押し上げる要因も同時に作用して形成されているためだ。

例えば、金利が上昇すれば住宅ローンの返済負担が増え、同じ年収の購入者でも借入可能額が小さくなる。その結果、購入できるマンション価格の上限が低下し、住宅価格には下落圧力がかかる。また、景気が悪化して所得や雇用環境が悪化すれば住宅需要が弱まり、中古マンションの在庫が増えれば売主間の競争が激しくなることで、価格調整が起こりやすくなる。

一方、日本の住宅市場には価格を押し上げる要因も存在する。名目賃金や物価の上昇に加え、土地価格や建築資材、人件費などの上昇が続けば、マンションの供給コストも高くなる。デベロッパーにとっては、土地の取得費用や建築資材、設備、人件費、設計費などのコストが上昇するなか、過去と同じ価格水準で新築マンションを供給することは難しい。

新築マンションの価格が高止まりすれば、中古マンションにも影響が及ぶ。
新築では予算が合わない購入者が中古を選択することで、中古マンションへの需要が生まれ、価格を下支えする要因となるためだ。

また、名目賃金の上昇も無視できない。もちろん、賃金が上昇すればマンション価格も上昇するという単純な関係ではなく、金利上昇によって住宅ローンの借入可能額が低下すれば、賃金上昇による購入力の改善が相殺される可能性もある。しかし、物価や賃金が上昇する経済環境では、住宅価格にも上昇圧力が生じるため、金利上昇だけを理由に「将来的にマンション価格が大きく下落する」と判断するには注意が必要だ。

こうした市場環境では、マンションの「名目価格」と「実質価格」を分けて考えることも重要になる。マンション価格が大きく下落しなくても、その間に物価や賃金が上昇すれば、マンション価格の実質的な負担感は相対的に低下する可能性がある。反対に、マンション価格が10%下落したとしても、同じ期間に物価がそれ以上に上昇すれば、実質的な価格水準が低下しているとは限らない。

つまり、住宅市場における「価格調整」は、マンション価格そのものが大幅に下落する形だけで起こるわけではない。物価や賃金が上昇する一方でマンション価格の上昇率がそれを下回ることで、実質的な価格調整が進むケースも考えられる。

そのため、今後のマンション市場を見る際には、「マンション価格がいつ下がるのか」だけではなく、「マンション価格の上昇率が物価や賃金の上昇率を上回るのか、それとも下回るのか」という相対的な視点が重要になる。インフレと名目賃金の上昇が続けば、マンション価格が名目ベースでは下落しないまま、実質ベースでは調整が進む可能性もある。

さらに、仮に将来的にマンション価格が下落したとしても、価格下落まで待つことが必ずしも購入者にとって有利になるとは限らない。
価格が下落する一方で住宅ローン金利が上昇すれば、購入価格の低下によるメリットがローン負担の増加によって相殺される可能性がある。また、物価や建築費が上昇し続ければ、新築価格が大きく下落しないまま中古市場の価格が横ばいで推移することも考えられる。

こうした複数の要因が絡み合うため、「いつ買うか」という時間軸だけでマンションの購入時期を判断することは極めて難しい。むしろ重要になるのが、「何を買うか」という視点だ。

市場全体の価格動向を予測するだけでなく、購入を検討している個別のマンションが、現在の価格水準で実際に市場からどのように評価されているのかを見る必要がある。その際に注目したい指標の一つが、マンションごとの「在庫の流動性」だ。

マンション市場では、同じエリアや価格帯、築年数が近い物件であっても、在庫の動きが大きく異なることがある。あるマンションでは売り出された物件が比較的早く成約して在庫が減少する一方、別のマンションでは新たな売り出しが積み上がり、在庫が継続的に増加することもある。

在庫が増加している場合、現在の価格水準では供給されている物件を購入者が十分に吸収できていない可能性がある。もちろん、相続や住み替えなど、価格とは直接関係しない事情で売却物件が増えるケースもあるため、在庫が増えたことだけで価格下落を断定することはできない。

ただし、一定期間にわたって在庫が増加し続けているのであれば、現在の売出価格と購入者が感じている物件価値との間に乖離が生じている可能性がある。売主が希望価格で売り出しても購入者が現れず、次の売り出しが追加されることで在庫が積み上がり、最終的に売却を進めるため価格調整が行われるという流れも想定される。


一方、在庫が一定、あるいは継続的に減少しているマンションでは、現在の価格水準に対して購入者が一定の価値を認めている可能性が高い。価格を大きく下げなくても成約するのであれば、売主が値下げする必要性は低く、価格水準も維持されやすい。需要に対して供給が限られているマンションでは、売り出し物件が市場に出るたびに購入希望者が現れ、価格が維持されるだけでなく、条件によっては上昇する可能性もある。

マンション購入を検討する際は、市場全体の価格がいつ下落するかを予測することに加え、個別のマンションについて、売り出し物件がどの程度の期間で成約しているのか、在庫が増えているのか減っているのかを確認することが重要になる。

上記の地図では、シンボリックな高価格帯マンションについて、在庫の推移をマンション単位で可視化。

赤プロットは在庫減少傾向、すなわち流動性が高いマンション、黄プロットは在庫が概ね横ばいで流動性が標準的なマンション、青プロットは在庫増加傾向にあり、流動性が低下しているマンションを示している。これをマンション単位で確認することで、同じエリアや同じ価格帯に属しているマンションであっても、実際の市場における売れ行きには明確な違いがあることが分かる。

さらに、赤、黄、青の各プロットについて販売終了までの値下げ率を比較すると、より明確な傾向が確認できる。

特に青プロット、つまり在庫が増加傾向にあるマンションでは、販売終了までに行われる値下げ率が相対的に高くなっており、在庫の積み上がりと価格調整が同時に発生している。

一方、赤プロットや黄プロットでは一定のばらつきがあるものの、値下げ率は比較的小さく、概ね横ばい、あるいは微増という傾向がある。

これは、在庫が増加しているマンションほど「現在の価格では売れない」という市場からのシグナルを受けやすく、その結果として成約に至るまでに価格調整を必要とする傾向があることを示唆している。

この結果から、マンション購入において「市場全体が上がるのか下がるのか」を予測するだけでなく、市場全体の中で「どのマンションが選ばれているのか」を見極めること。
「買い時を探す」のではなく、「買ってはいけないマンションを避ける」ことが重要になる。

市場全体が上昇している局面であっても、すべてのマンションが同じように上昇するわけではなく、逆に市場全体が停滞あるいは下落する局面でも、流動性の高いマンションは価格を維持する可能性がる。つまり、今後のマンション市場では「市場全体の方向性」と「個別マンションの強さ」を分けて考える必要がある。

「価格が下がったら買おう」と待っていても、金利や物価まで含めれば、そのタイミングが本当にお得とは限らない。それよりも注目したいのが、検討しているマンションそのものの“売れ行き”。売り出し物件が増え続けていないか、どの程度で成約しているかなど、「市場全体」ではなく「そのマンション」を見ることが、物件選びではますます重要になりそうだ。
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