2026年6月25日、IM MENはパリ5区の文化施設セジュール(Césure)で、2027年春夏コレクション「竹翳礼賛 ― In Praise of Bamboo Shadows ―」を発表しました。

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© ISSEY MIYAKE INC. / Photography: Carlo Scarpato (GoRunway)

今シーズンの起点となったのは、竹そのものではなく、竹が生み出す“翳”です。
波のように揺れる輪郭。重なり合う線。交錯する地と図。光を受けて現れながら、次の瞬間には形を変えていく影。IM MENは、実在と不在のあわいを漂う気配や、そこから生まれる感覚の揺らぎを、衣服として立ち上げています。それは竹を装飾的なモチーフとして引用することではありません。日本や東アジアの工芸に宿る陰翳、構造、時間の感覚を、現代の素材と技術によって再構築する試みです。

竹そのものではなく、“竹の気配”をまとう
コレクションの着想源となったのは、デザインチームがパリ装飾芸術美術館で目にした、竹をモチーフとする東洋の工芸美術でした。

水墨画に描かれた、霞の向こうに広がる竹林。着物の型染めに用いられる型紙が映し出す、枝や葉の複雑な重なり。そこには、対象を明確な輪郭で固定するのではなく、光や空気、見る者との距離によって絶えず変化させる美意識があります。IM MENが衣服へと翻訳したのも、竹の形ではなく、その周囲に漂う謎めいた感触や静かな優美さでした。


IM MEN 2027年春夏コレクション──「竹翳礼賛」が描く、輪郭と気配のあいだ
© ISSEY MIYAKE INC. / Photography: Carlo Scarpato (GoRunway)

会場には黒い竹と影が織りなす、架空の風景が広がりました。透ける幕の向こうでは、霞んだ人影が行き交い、近づくにつれて少しずつ輪郭を現します。MDSデザインチームとグラフィックデザイナーの長嶋りかこによる空間は、衣服を見るための背景ではなく、コレクションの思想を身体で経験する装置として機能していました。

IM MEN 2027年春夏コレクション──「竹翳礼賛」が描く、輪郭と気配のあいだ
© ISSEY MIYAKE INC. / Photography: Carlo Scarpato (GoRunway)

人が衣服をまとって空間を移動するたび、影と身体、竹と人の輪郭が重なり、ほどけていく。そこでは何が実体で、何が投影された像なのかという境界さえ、曖昧になっていきます。

表面を飾るのではなく、素材に陰翳を宿す
今季を象徴する「BAMBOO SHADOWS」は、長嶋りかこが竹の影から着想して制作したパターンを用いたシリーズです。竹繊維とオーガニックコットンで織り上げた布地に、日本の染色技法である「色泣き」を用いて捺染。顔料や染料がわずかににじむ性質を生かし、焦点の定まらない竹の影のような、仄かな輪郭を浮かび上がらせています。

IM MEN 2027年春夏コレクション──「竹翳礼賛」が描く、輪郭と気配のあいだ
© ISSEY MIYAKE INC. / Photography: Filippo Fior (GoRunway)

ダブルフロントと大きなドルマンスリーブを備えたコートは、ピークドラペルから連続するフードをかぶることで、身体全体が竹翳のパターンに包まれます。ここで柄は服の表面に置かれた図像ではありません。身体の動きによって伸び、重なり、形を変える影そのものとして存在しています。

IM MEN 2027年春夏コレクション──「竹翳礼賛」が描く、輪郭と気配のあいだ
© ISSEY MIYAKE INC. / Photography: Filippo Fior (GoRunway)

一方、「BLOOM NYLON」では、紙のような張りを持つ高密度ナイロンに染料をかけ流し、笹や花びらを思わせる鮮やかな色彩を表現。
タックを重ねた襟は、『竹取物語』のかぐや姫がまとう十二単から着想されています。豊かなボリュームが身体を包み込み、色彩そのものをまとうような感覚を生み出しました。

IM MEN 2027年春夏コレクション──「竹翳礼賛」が描く、輪郭と気配のあいだ
© ISSEY MIYAKE INC. / Photography: Filippo Fior (GoRunway)

水墨画の静かな濃淡から、花や若葉を思わせる生命力に満ちた色彩へ。今季のIM MENは、竹をめぐる複数の時間と感情を、一つのコレクションの中に共存させています。

竹の構造を、衣服の構造へ
「BAMBOO BLEACH」は、職人が一着ずつ手作業で抜染加工を施したデニムシリーズです。縫い目や衣服の構造線にあえて地色を残すことで、水墨画に描かれた竹のような繊細な濃淡を形成。一般的なデニムより細い糸を用いることで、視覚的な重厚感とは対照的な、軽やかな質感に仕上げています。

IM MEN 2027年春夏コレクション──「竹翳礼賛」が描く、輪郭と気配のあいだ
© ISSEY MIYAKE INC. / Photography: Filippo Fior (GoRunway)

竹細工の「ござ目編み」をジャカード織りで表した「BASKET JACQUARD」では、竹ひごが交互に組み合わされる構造を、立体的なテキスタイルへと変換しました。一枚の長方形の布に最小限の切り込みを入れ、身頃と袖を形成するブルゾン。その構造を応用した、裾へ向かって絞られるボリュームパンツ。端部を縁取るパイピングには、竹細工の縁巻きが参照されています。重要なのは、伝統的な竹細工の外見を再現しているのではないということです。


IM MEN 2027年春夏コレクション──「竹翳礼賛」が描く、輪郭と気配のあいだ
© ISSEY MIYAKE INC. / Photography: Filippo Fior (GoRunway)

竹を編むこと。節によって強度を生むこと。薄く裂かれた素材が交差し、面や立体を構成すること。IM MENは、竹や工芸が持つ成り立ちを読み解き、衣服のパターンと構造へと置き換えています。

プリーツに刻まれた、竹のリズム
プリーツにも、竹の形態と成長のリズムが現れます。「BAMBOO PLEATS」は、谷折りを反復することで、竹が連なって立つ姿を表現したハンドプリーツシリーズです。柔らかさの中に適度な張りを持つ生地が、歩くたびに開閉し、立体的なシルエットを保ちます。

IM MEN 2027年春夏コレクション──「竹翳礼賛」が描く、輪郭と気配のあいだ
© ISSEY MIYAKE INC. / Photography: Filippo Fior (GoRunway)

「NODE PLEATS」が着目したのは、竹の節です。植物が伸びていく途中に現れ、一定の間隔でリズムを刻みながら、しなやかな竹の強度を支える節。その自然な起伏や輪郭を、手仕事によるプリーツへと翻訳しています。竹をプリントするのではなく、竹が立ち、しなり、成長する仕組みを服にする。そこには、三宅一生が掲げた「一枚の布」という思想を受け継ぎながら、素材と身体の関係を絶えず更新してきたIM MENの姿勢が表れています。


IM MEN 2027年春夏コレクション──「竹翳礼賛」が描く、輪郭と気配のあいだ
© ISSEY MIYAKE INC. / Photography: Filippo Fior (GoRunway)

「BAMBOO SHEATH」では筍の皮を手描きの筆致で表現し、その繊維の流れや光沢、生命力を抽象的な線へと変換。幾重にも重なる筍の皮の構造は、布が身体へ巻きつくようなパンツのドレープとして現れます。

IM MEN 2027年春夏コレクション──「竹翳礼賛」が描く、輪郭と気配のあいだ
© ISSEY MIYAKE INC. / Photography: Filippo Fior (GoRunway)

また「VOID COTTON」は、ポケットを取り除いた“空白”から新たな輪郭を生み出すシリーズです。欠けた部分の奥に身体や別の衣服がのぞくことで、新しいレイヤーが立ち上がる。ここでも、存在するもの以上に、存在しない部分が服の形を決定しています。

IM MEN 2027年春夏コレクション──「竹翳礼賛」が描く、輪郭と気配のあいだ
© ISSEY MIYAKE INC. / Photography: Filippo Fior (GoRunway)

影を封じ込めるように、構造をヴェールの内側へ
足元には、MDS(三宅デザイン事務所)とアシックスが共同開発する「ISSEY MIYAKE FOOT」の第二弾モデル「SORTIE VEILED」が登場しました。

ISSEY MIYAKE FOOTは、人間の足を研究し、日常へ新たな視点をもたらすフットウェアを提案するプロジェクトです。今回の「SORTIE VEILED」は、IM MENの2027年春夏コレクションで初披露されました。

IM MEN 2027年春夏コレクション──「竹翳礼賛」が描く、輪郭と気配のあいだ
© ISSEY MIYAKE INC. / Photography: Salvatore Dragone (GoRunway)

発想の核にあるのは、靴に不可欠な構造要素の一部を、一枚の生地という“ヴェール”の内側へ封じ込めること。通常はパーツごとに裁断され、縫い合わされ、表面に現れる補強材を、分断のない単一のレイヤーへ統合しています。機能を完全に隠すのではなく、布の内側からその存在を静かに浮かび上がらせる構造です。それは、竹翳を通して実在と不在の境界を探った今季のコレクションとも深く共鳴します。


IM MEN 2027年春夏コレクション──「竹翳礼賛」が描く、輪郭と気配のあいだ
© ISSEY MIYAKE INC. / Photography: Salvatore Dragone (GoRunway)

見えないけれど、確かに存在するもの。表面には現れなくても、全体の輪郭を支えているもの。影や空白、内側に封じられた構造が、服と靴の双方を形づくっています。ベースとなったのは、1980年代にアシックスを代表したマラソンシューズ「SORTIE」シリーズ。革新的なマラソンシューズへの挑戦という精神を受け継ぎつつ、全体をワントーンに整えることで、スポーツの文脈だけに限定されない佇まいへと再解釈しました。

IM MEN 2027年春夏コレクション──「竹翳礼賛」が描く、輪郭と気配のあいだ
© ISSEY MIYAKE INC. / Photography: Salvatore Dragone (GoRunway)

スニーカーとしての快適性や可動性を保ちながら、日常の装いに自然に溶け込む。2027年春に、Tender Yellow/Sand Taupe、Cedar Brown/Maroon、Black/Graphiteの3色で発売される予定です。

輪郭が揺らぐとき、衣服は気配になる
「竹翳礼賛」は、竹を描いたコレクションではありません。水墨画の霞。型紙が生む枝葉の重なり。竹細工の構造。筍の皮。
節のリズム。そして、光の変化とともに絶えず形を変える影。IM MENは、竹をめぐる形態や技術、記憶を読み解きながら、それらを素材、染色、織り、プリーツ、パターン、空間、フットウェアへと展開しました。そこにあるのは、対象を明確に示すデザインではなく、見る者の感覚によって初めて像を結ぶ表現です。

IM MEN 2027年春夏コレクション──「竹翳礼賛」が描く、輪郭と気配のあいだ
© ISSEY MIYAKE INC. / Photography: Carlo Scarpato (GoRunway)

服と身体。図と地。光と影。実在と不在。

その境界が揺らぐとき、衣服は単なる物体ではなく、そこに誰かがいることを知らせる“気配”へと変わります。

IM MENが2027年春夏に提示したのは、日本文化の意匠を引用したワードローブではありません。陰翳や余白の中に美を見出してきた感性を、現代の衣服としてもう一度問い直すことでした。
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