レビュー

服を選ぶだけなのに、なぜこんなにも疲れるのだろうか。
SNSを開けば「若作り」「センスがない」「TPOを考えろ」と誰かの服装が批判され、自分自身も街中やオフィスでつい他人のファッションを評価してしまう――。

本書は、その息苦しさと圧力の正体を鮮やかに言語化してくれる一冊である。
著者の平芳裕子氏は、『東大ファッション論集中講義』などの著作でも知られる、ファッション文化論を専門とする研究者だ。学術的なバックグラウンドを持ちながらも、その語り口は驚くほど平易で読みやすい。
本書では、「パーカーおじさん」や「カジュアルおばさん」といったSNS上の論争を入り口に、「何がダサいを決めるのか」を考察していく。とりわけ興味深いのは、人は服装によって個性を表現したいと思う一方で、「みんなと同じでいたい」という欲望も同時に抱えている、という指摘だ。それゆえ私たちは、「自分らしさ」を求めながら、流行も追わずにいられないのだ。
「ダサい」が道徳的な意味を帯び始めているという分析も印象的だ。「それはダサい」という言葉には、態度や振る舞いに「常識がない」「みっともない」というニュアンスまで含まれている。だからこそ、人はファッションが「ダサい」と言われると、自分自身まで否定されたように感じてしまう。
本書は、服が好きな人はもちろん、「なぜ他人の目がこんなにも気になるのか」と感じている人にもぜひ読んでほしい。読み終えたあとには、「社会の中でどう生きるか」「他人とどう関わるか」という問いの答えが見つかるかもしれない。

本書の要点

・私たちは、好きな服を自由に選んでいるつもりでも、実際には他者の視線や社会的期待を強く意識している。


・ファッションには、「みんなと同じでいたい」という同調欲求と、「自分らしくありたい」という差別化欲求の両方が同時に存在している。
・スーツは「社会人らしさ」や「信頼感」を象徴する服装として機能してきた。そのため、カジュアルなパーカーで仕事をすることは、従来の価値観への抵抗として受け止められることがある。



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