【増田俊也 口述クロニクル「茶の間を変えたコメディアン 欽ちゃんのぜ~んぶ話しちゃう!」】#26


 作家・増田俊也氏による連載、各界レジェンドの生涯を聞きながら一代記を紡ぐ口述クロニクル。待望の第2弾は、「視聴率100%男」として昭和のテレビ界を席巻したコメディアンの萩本欽一氏です。


  ◇  ◇  ◇


増田「二郎さんとたまに電話したり、2回しか食事しない時にそういうドラマが生まれた。おそらくしょっちゅう会ったりすれば」


萩本「何でもないんだけど、奥さんが初めて、楽しそうな夫である坂上二郎を見たつって」


増田「57歳にして初めて見たわけですもんね」


萩本「奥さんが二郎さんが夢中にしゃべってる姿見て、こういう人と結婚したかったんだって思うぐらい」


増田「30年以上一緒にいたのに初めて見たと」


萩本「そうそうそう。もう夢中だったって。あんなにしゃべんない男がどんだけうれしかったか。だから欽ちゃんが電話したら、リハビリやると思うよって」


増田「それ聞いて、今コント55号の当時の映像を見ると、確かに二郎さんうれしそうなんですよね。コントやりながら、萩本さんにツッコまれるとうれしそうに反応してるっていうのは、もう好きでたまらなかったんじゃないですか」


萩本「これも誰にも話してない話があるんだけど…」


増田「はい」


萩本「二郎さんが亡くなる前、最後にね、旅の番組があってね。東北(秋田)の方にね、俺と一緒に旅をするゲストを二郎さんにしたいなって話になったの。俺は『うん、二郎さん、大丈夫よ』って言ったんだけど、事務所がダメだっていうの。『どうしたの?』って聞いたら『電話したら奥さんがテレビに映るみっともない坂上二郎を私も見たくないと。だから出したくないって言ってる』と。『異常なぐらい奥さんは怒って、どんな言い方をされても、出ませんって言ってた』って。もうちょっと、ね、まともに目も開けられないくらい衰弱してると」


増田「そんなに……」



「必死こいて歩いてる二郎さんが愛おしかった」

萩本「俺はね、それ聞いて『あ、そう、分かったよ』って直接電話したの。

それで奥さんと話したの。『テレビ、断ったんだって?』『欽ちゃんわかって。ちょっとひどいの、本当に何もできない。最後に坂上二郎の恥ずかしいところを見せたくないんです』って。『うん、気持ちわかるな。すっごくわかる。でも奥さん、一言言っていい?』って俺言ったの。『二郎さんは奥さんの二郎さんじゃないんですよ。僕の二郎さんです』って電話を切った。パチンと。すぐに電話が来た。『ごめん、欽ちゃん。
私の二郎さんだと思ってたけど、欽ちゃんの二郎さんだったんだね』って言った時はね、かなり心にグッときた。のちにその番組の数字ね、すごく良かった」


増田「二郎さん、出演されたんですね」


萩本「出たの。二郎さん、もう本当に何もできなかった。できなかったけど…」


増田「ファンに対しては本当に大きなプレゼントですよね」


萩本「うん。最後のラストシーンでね、雪の中をとぼとぼと2人だけで歩いた。ディレクターにはね、こういう寒いところ来てさ、最後のシーンをどうしたいか、あなたの理想だけ教えといてって。畑と沼があって、その真ん中をずーっと2人で歩いている後ろ姿が絵になりますね、できれば雪が降ってくれるといいですねなんてね。でも、そんなものはさ、相手は自然だからね。そんなうまくはいかないよ」


増田「ですよね」


萩本「そうしたら……ラストシーン、2人で歩きだしたら、雪が降ってくるの。ばぁーって。うん。自然もなんか応援してくれた感じ」


増田「そうですね」


萩本「うん。

だから俺、なんにもしゃべんなかった。2人でとぼとぼ歩いて。なんか言おうかなと思ったんだけど、あまりにもね……、二郎さん必死こいて歩いてる姿が何ともね、愛おしいというかさ。言葉はいらなかった」(つづく =火・木曜公開)


▽はぎもと・きんいち 1941年、東京都生まれ。高校卒業後、浅草での修行を経て、66年にコント55号を結成。故・坂上二郎さんとのコンビで一世を風靡した。その後、タレント、司会者としてテレビ界を席巻し、80年代には週3本の冠番組の視聴率がすべて30%を超え、「視聴率100%男」の異名をとった。社会人野球「茨城ゴールデンゴールズ」の初代監督、2015年には73歳で駒澤大学仏教学部に入学するなど挑戦を続け、25年10月にスタートしたBS日テレ「9階のハギモトさん!」は今年4月からSEASON3に突入した。


▽ますだ・としなり 1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。

12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。


編集部おすすめ