【増田俊也 口述クロニクル「茶の間を変えたコメディアン 欽ちゃんのぜ~んぶ話しちゃう!」】#30


 作家・増田俊也氏による連載、各界レジェンドの生涯を聞きながら一代記を紡ぐ口述クロニクル。待望の第2弾は、「視聴率100%男」として昭和のテレビ界を席巻したコメディアンの萩本欽一氏です。


  ◇  ◇  ◇


増田「常田久仁子*さんとは本当に出会いですね」


※常田久仁子(ときたくにこ):1927年東京生まれのテレビプロデューサー。1952年に文化放送に入社、1958年にフジテレビに移籍。代表作に『お昼のゴールデンショー』(1968-72年)、『コント55号の世界は笑う!』(1968-70年)、『ラブラブショー』(1970-79年)、『欽ちゃんのドンとやってみよう!』(1975-80年)、『アイ・アイゲーム』(1979-85年)、『TVプレイバック』(1985-89年)など。2010年没。


萩本「そうでしょ。常田さんでもう一つで言うとね。優れてないってのをさらけ出すのがすごかった。当時、常田さんが私にこう言ったの。『私、文化放送にいたのよ。ラジオでドキュメンタリーやってたの。それで、フジテレビにはそういうことを作れるやついないからって言われてフジテレビ来たの。フジテレビでもずっとドキュメンタリーをやると思ったのよ。

そうしたらさ、会社でストがあってね、その先頭に立って腕章つけて、前線で戦ったのよ。そしたら笑い(バラエティーの部署)の方に異動させられた。笑いってのは、飛ばされた人が来るとこなのよ』って言ってね。『あら、いけない。これ内緒ね、あんた絶対いっちゃダメよ』なんて言うんだよ」


増田「会社と戦ったら飛ばされた」


萩本「私、常田さんのその言葉で初めて気づいたんですよ。『笑いって飛ばされた人が来る場所なんだ。いまひどいところにいるわけだ。これは面白い』って思った」


増田「なるほど。逆に運が巡ってくると」


萩本「そう。これは期待したいなと思って。『常田さんでお願い』って」


増田「〝男にする〟っていう慣用句ありますよね。〝女にする〟んですよね、常田さんを」


萩本「そうそう。

私の番組、その後もずーっと常田さんだったんですよ。私が年をとってから常田さんに聞いたの。『何で欽ちゃんの面倒をずっと見てくれたの?』って。そしたら『私はね、本当は笑いの人が嫌い』って言った」


増田「へえ」



二朗さんは触ってた(笑)

萩本「『何で嫌いなんですか?』って聞いたら、面白いの。もう今だから言っちゃうけど『お笑いの人は〝おはようございます〟って挨拶するとき、どうしてお尻触るの? 私、納得できなかった。触らなかったのあなただけだよ』って。俺、触らなかったんで良かったんだよ。根性がないから良かったんだよ。お尻触る根性がないの」


増田「二郎さんは触ったんですか」


萩本「二郎さん完全に触ってるよ(笑)。だって常田さん、二郎さんと番組やってないもん(笑)」


増田「二郎さんは俳優に行ったんですね」


萩本「俺、聞かないけどね。でも今、気づいたよ。あれ? 二郎さんも触ったのかな? 二郎さん、おはようってやって、やりそうだもんな(笑)。

セクハラだとかね、そういうことはもうやめた方がいいのは当たり前なんだけど、それはそれで問題が出てくるね」


増田「どういうことですか?」


萩本「やらない人がどんどん出世するでしょ」


増田「そりゃそうですね(笑)」


萩本「だから、全部やめちゃうと、誰がいいやつだかわかんないじゃない。俺が冗談でもやらないのは、それはやっぱり、最初にストリップ劇場に入ったのが良かったんだね。ストリップ劇場では、絶対的に女の人のほうが格上だから。きつく言われましたから。おまえらはも覗きみてえなもんだから、女に何か手でも出したらただじゃおかないって。即刻クビだって」


増田「踊り子さんに手を出すなと」


萩本「はい。口も利いたらいかんと。彼女たちはずっと上のランクにいますから」


増田「それも運ですね。最初にストリップ劇場に勤めたっていうのは」


萩本「はい。ですから女の人は偉いところにいるんだって。そこから出てきたから」


増田「お尻なんか触れないですね」


萩本「とんでもないよ。触ったら、支配人に『あの子、触るのよ』と言われたら、即刻クビの世界だからね」


増田「なるほど」


萩本「知らず知らずにいい教育があったんだね」(つづく =火・木曜公開)


▽はぎもと・きんいち 1941年、東京都生まれ。

高校卒業後、浅草での修行を経て、66年にコント55号を結成。故・坂上二郎さんとのコンビで一世を風靡した。その後、タレント、司会者としてテレビ界を席巻し、80年代には週3本の冠番組の視聴率がすべて30%を超え、「視聴率100%男」の異名をとった。社会人野球「茨城ゴールデンゴールズ」の初代監督、2015年には73歳で駒澤大学仏教学部に入学するなど挑戦を続け、25年10月にスタートしたBS日テレ「9階のハギモトさん!」は今年4月からSEASON3に突入した。


▽ますだ・としなり 1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。


編集部おすすめ