【スージー鈴木のゼロからぜんぶ聴くビートルズ】#90


 アルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』(1967年5月26日発売)⑧


■『フィクシング・ア・ホール』


 またまたポールの曲。創造性が止まらない。

このアルバム屈指の地味な曲でも、創造性があふれ出して歌詞に向けられる。


「雨が漏れてくる穴を直しているんだ」「ドアの割れ目を直しているんだ」「この部屋をカラフルに塗っているんだ」──世界で最初で最後、唯一無二の「リフォーム・ロック」の誕生だ。


 思えば、駐車違反ロックの『ラブリー・リタ』、家出記事ロックの『シーズ・リーヴィング・ホーム』と、「どんなモチーフでもロックにしてやる」というポールの作詞家としてのチャレンジが、このアルバムのひとつのテーマだったのだろう。【オリジナル記事で試聴する


■『ビーイング・フォー・ザ・ベネフィット・オブ・ミスター・カイト』


 作詞のチャレンジに加えて、さまざまな効果音の導入もアルバムのテーマとして大きかった。


 この曲でよく知られているのは、遊園地で使われるスチームオルガンの演奏が入ったさまざまなテープを切り刻み、つなぎ合わせたという逸話だ。


 演奏芸術から録音芸術への転換、発展。


 今となってはデスクトップでちょちょいと出来るのだろうが、当時、必死で手作業を強いられたエンジニアのご苦労を考えるとゾッとしてしまう。


■『グッド・モーニング・グッド・モーニング』


 こちらも動物の鳴き声の効果音がたっぷり。あとジョンが当時好んだ「拍子変え」も多用されていて、ところどころ「今何拍子なのか」が分からなくなってしまう。演奏するのも大変だったのではないか。


 個人的に好きなのは、この曲から、次の『サージェント・ペパーズ~(リプライズ)』への移り方。実にかっこいい。

今聴いてもゾクゾクする。


■『ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー』


 アルバム唯一のジョージの曲。『リボルバー』では3曲も入っていたのに、ここではこの1曲だけ。そのせいか『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』と並ぶ5分台の長尺。


 歌詞もタイトルからして哲学的。また、まだロック成分が残っていた前作『リボルバー』(66年)の『ラヴ・ユー・トゥ』を超えて、もうまんまインド音楽という感じのメロディー。ただインドの楽器とストリングスがコラボすることで、他にはない音になっているのだが。


 ここも個人的には、エンディングの笑い声が「インド、インドはいいけど、もうちょっと冷静になれよ」と、ジョージを冷やかしている感じで好きだ。


▽スージー鈴木(音楽評論家) 1966年、大阪府東大阪市生まれ。昭和歌謡から最新ヒット曲まで幅広いジャンルの楽曲を、社会的な視点からも読み解く。主な著者に「中森明菜の音楽1982-1991」「大人のブルーハーツ」「日本ポップス史 1966‐2023」など。半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。

日刊ゲンダイの好評連載をまとめた「沢田研二の音楽を聴く1980-1985」、最新刊「日本の新しい音楽1975~」は大好評。ラジオDJとしても活躍。


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