【お笑い界 偉人・奇人・変人伝】#299


 稲川淳二さん


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「怖いね~怖いね~」でおなじみの稲川淳二さん。「おはようございます、おはようございます!」「お疲れさまでした、お疲れさまでした!」と普段の会話でも繰り返すのが稲川流でした。

「夏といえばTUBEと稲川淳二」と言われるようになりましたね、とお伝えすると「そんなそんな、ありがたいことです、ありがたいことです」と最敬礼されました。


 怪談のネタは全てご自分の体験なのかと聞くと「全部、私の体験談ならどうにかなってますよ!」と笑っていました。体験談、創作、それに「ファンの方から、こんな話があります、伝わってます」というお便りを頂き、ストーリーテラーとして展開されているそうです。


 公開収録の時のこと「お待ちかねの稲川淳二さんに怖い話をお願いしたいと思います」とMCが紹介すると大拍手。スタジオの照明がだんだん暗くなっていくと、それだけで小さい悲鳴が上がり、真っ暗になって稲川さんに下からのスポットが当たり、顔が浮かび上がると「キャー!」という悲鳴があちこちであがりました。


 まだ話が始まっていない段階で、お客さんが聞く準備万端で、稲川ワールドにどっぷりと漬かっているのがよくわかりました。講談師のようにはっきりした滑舌でもなく、話に大きな緩急があるわけではありませんが、ボソボソと話される言葉がかえって“聞き逃すまい”と、全身を耳にして集中して聞いてしまうので、それほど大きな落差ではない声のトーンにも「キャー!」と大きく反応し、その反応を聞いて、周囲の緊張感が一層高まっていくのです。


 観覧席の後ろで、お客さんを見ていましたが、明らかに全身に力が入って、ちょっとした声のトーンの違いにも肩をすぼめたり、振るわせたりしているのがわかります。また稲川さんの間が絶妙で、一息あけたり、逆にたたみかけて話したりすることで、どんどん、お客さんの気持ちを掴んでいくのがわかりました。客席の真後ろに立ってみましたが、気配を感じて気づく人は誰ひとりいないほど、稲川さんのとりこになっていたのでした。


 関心を集めるのは声を張るだけではない、これぞ自身の強みを生かした、唯一無二の芸。うまい漫才や落語と同じで、自分の世界に引き込んでしまうテクニックがありました。

ライトに浮かび上がった姿は怪談の語り部そのものでした。


(本多正識/漫才作家)


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