【スージー鈴木のゼロからぜんぶ聴くビートルズ】#111


『ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)』(1968年11月22日発売)⑪


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■『ハニー・パイ』


 2枚組CDのディスク1(LP時代のA・B面)収録曲を先に紹介しているが、今回は「ハニー・パイ」つながりということで、まずディスク2(LPのD面)収録のこの曲を取り上げたいと思う。


 それにしても、この『ハニー・パイ』や、すでに紹介した『マーサ・マイ・ディア』など、1968年という激動の時代と隔絶したようなポップソングを作るポールの感覚はどういうものだったろう。


 オノ・ヨーコと知り合い、ますます先鋭化していくジョンとのバランス感覚が働いたと思うのだが、その結果、アルバム全体の陳腐化、経年劣化を遠ざけたと思う。


 セミプロのジャズマンだった父親の影響を素直に表出させた楽しい曲。


 ここで感心するのはポールのボーカルだ。『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』など「1967年のビートルズ」にありがちだったサイケデリックな強いディレイがかからない、生声に近い録音。8トラックということで音質も良いこともあり、結果、実に魅力的な発声やビブラートを堪能できる。【オリジナル記事で試聴する


 特にイントロのボーカルなんて、何げなく歌っているはずなのだが、もう、たまらない。若い頃、何度聴いたことだろう。


■『ワイルド・ハニー・パイ』


 こちらはLPのA面5曲目。名前は似ているが『ハニー・パイ』とはまったく別の曲。


 録音に参加したのは、ポールたった1人。全編同様のスタイルで録音されたファースト・ソロアルバム『マッカートニー』(70年)に収録されていても、まったくおかしくない。


 しょせんは1分に満たない曲なので、目くじらを立てることもないのだろうが、まぁ正直、あってもなくてもよい曲。

いや古今亭志ん生風にいえば「なくってもなくっても」いい曲だ。


 なので、また同じことを言うが、こんな曲や『レボリューション9』を入れる隙間があるのなら、『ホワイト・アルバム』でお蔵入りになったジョージの『ノット・ギルティ』を入れてあげたれよ、と言いたくなる。
『ザ・ビートルズ・アンソロジー3』(96年)収録の『ノット・ギルティ』は「テイク102」! 何と100回以上録音しているのに……。


 と思ったら、この『ワイルド・ハニー・パイ』、ジョージの妻、パティ・ボイドが気に入ったことで『ホワイト・アルバム』収録が決まったとのこと。何と敵は身内にあり! 「パティ、ギルティ(有罪)」。 


▽スージー鈴木(音楽評論家) 1966年、大阪府東大阪市生まれ。昭和歌謡から最新ヒット曲まで幅広いジャンルの楽曲を、社会的な視点からも読み解く。主な著者に「中森明菜の音楽1982-1991」「大人のブルーハーツ」「日本ポップス史 1966‐2023」など。半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。日刊ゲンダイの好評連載をまとめた「沢田研二の音楽を聴く1980-1985」、最新刊「日本の新しい音楽1975~」は大好評。ラジオDJとしても活躍。


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