2026年7月14日から17日にかけて、中国の瀋陽市内で発生した一台の電気自動車(EV)を巡る事案が、大きな波紋を呼んでいる。中国証券報、上海証券報、新浪財経などの現地メディアが報じたところによれば、走行中のBYD製SUV「唐(Tang)」のリアモーターアセンブリーが、冠水した道路の走行中に脱落したという。
SNSで拡散された動画では、高圧ケーブルで車体とつながれた状態のモーターが、濁った水の中を引きずられる衝撃的な光景が映し出されていた。

その他の写真:イメージ

 この事案に対し、BYD側は直ちに公式見解を発表した。同社は各社の取材に対し、「冠水路の走行中に車体底部が外部から激しい衝撃を受けたことによる脱落であり、通常走行で自然に外れたものではない」と説明し、製品自体の構造や品質に起因する問題であることを全面的に否定した。さらに、同社の公式顧客サービスも「水中の見えない障害物との強い衝突が原因であり、非品質問題である」と強調し、設計上の欠陥を疑う声を退ける姿勢を鮮明にした。

 しかし、このメーカー側の説明に対し、SNS上では納得感を得られず、逆に懸念を深める声が後を絶たない。自動車の安全性や信頼性を問う投稿が散見され、ユーザーからは以下のような指摘が相次いでいる。

 まず、衝撃の度合いに対する疑問がある。「モーターが脱落するほどの衝撃であれば、車体は大破し、走行不能になるはずではないか」という声だ。次に、冠水路に対する防御力の低さを指摘する。「浸水エリアは走行環境として想定内のはずだが、底部の構造がこれほど脆いのは設計に問題があるのではないか」という不安がある。また、責任の所在について「外部要因のせいにする前に、なぜ走行中に部品が分離する設計になっているのかを説明すべきだ」と、メーカーの対応を疑問視する投稿も多い。さらに、「BVD」という誤記を通じた比喩や、既存の大手メーカーと比較して、いざという時の耐久性に不安を感じるという意見も根強い。
こうした投稿は、単なる感情的な非難ではなく、技術的な構造への疑念や、メーカーの誠実な対応を求める切実な声として多くの共感を集めている。

 整備業界の専門家らは、この議論に冷静な視点を加える。専門家は「駆動モーターは強固な支架や固定具で底部に固定されているが、深刻な衝突があれば外殻やケーブル、電池などが損傷するリスクは否定できない」と指摘する。また、冠水路ではマンホール蓋の欠落や路面陥没といった水面下の障害物が見えにくく、底部を強打するリスクは確かに高い。しかし、今回のようなモーター脱落という事態は極めて異例であり、取り付け構造の強度や保護性能についての議論は不可避だという見方が強い。

 中国EV市場を牽引するBYDだが、今回の事案が消費者の安全意識に影を落とす可能性は否定できない。当該車両の詳細な検査結果は未公表であり、メーカーの主張が事実だとしても、現状では消費者の不安を払拭するには至っていない。自動車という、高い安全性が求められる製品において、消費者が求めるのは「品質に問題はない」という弁明だけではなく、透明性の高い検証結果と、過酷な状況下でも乗員を守り抜くというメーカーの強固な姿勢である。

 今後の焦点は、メーカー側が今回の事案を「外部要因」という一言で処理するのか、それとも再発防止に向けて設計の改善や耐久試験の再評価を行うのかという点に移っている。急速に普及するEVにおいて、今回のようなトラブルへの対応は、メーカーの真価を問う試金石となるだろう。信頼とは一朝一夕で築かれるものではなく、一つひとつの事案に対する誠実な向き合い方の積み重ねによってのみ維持されるものである。今回の騒動を通じて、自動車業界全体が改めて「安全性」という不変の価値について考える契機となることが求められている。

【編集:af】
編集部おすすめ