韓国のタイヤ大手ハンコックタイヤ・アンド・テクノロジーは2026年7月21日、現代ロテムと共同開発した「無人消防ロボット」向けに、次世代非空気入りタイヤ「アイフレックス(i-Flex)」を新車装着用として供給すると発表した。タイヤ内部に圧搾空気を保持しないエアレスタイヤは、パンクの危険を完全に排除できる未来技術として世界的に研究が進められてきたが、量産車両や防災機器への標準装備は極めて稀である。
今回の供給決定は、研究段階にとどまっていた技術を災害現場で活動する実用機へと組み込んだ画期的成果として注目を集めている。

その他の写真:イメージ

 背景には、過酷な火災現場における消防士の安全確保という深刻な課題がある。韓国消防庁によれば、過去10年間で1802人の消防士が殉職または負傷を余儀なくされている。特に地下駐車場や大型物流倉庫の火災では、500度から800度に達する高熱や有毒ガス、建物崩落の危険が伴い、人間の侵入は困難を極めた。こうした状況を打開するため、消防庁と現代自動車グループ、現代ロテム、現代モービス、ハンコックタイヤが連携し、人間の代替として最前線に投入できる次世代防災プラットフォームの構築に着手した。

 ハンコックタイヤは2010年からエアレスタイヤの研究開発を継続し、2022年の防衛産業展示会「DX KOREA 2022」では、現代ロテムの多目的無人車両「HR-シェルパ」に「アイフレックス」を装着して公開した。今回供給される消防ロボットは、このHR-シェルパを基盤に最新の電子制御と消火装備を統合したものである。車体には高圧水噴射装置やAI視野改善カメラを搭載し、さらに自らを冷却する散水装置を備えることで、周囲温度が800度に達する環境でも内部温度を約50度に維持しながら毎時50キロで走破できる性能を実現した。

 この走破性能を支えるのが「アイフレックス」である。従来のゴムタイヤは火災熱や金属片で破裂する危険が高いが、アイフレックスは空気を保持しない構造を採用。生物模倣技術(バイオミミティクス)を取り入れ、蜂の巣状やアーチ型の細胞構造を複合させることで、車両重量を支えつつ衝撃を吸収する仕組みを構築した。外側アーチが突起物からの衝撃を緩和し、内側アーチが振動を制御する二重構造により、瓦礫を踏み越えても破裂せず、空気圧管理も不要となった。


 世界の競合他社もエアレスタイヤ開発を進めてきた。ブリヂストンの「エアフリー」やミシュランの「アプティス」などが代表例だが、これらは主に乗用車や小型EVでの普及を目指している。しかし公道規制や高速走行時の耐熱性、乗り心地などの課題が参入障壁となり、多くのプロジェクトは実証段階にとどまっている。これに対し、ハンコックと現代ロテムは「低速・無人・防災」という特殊環境に用途を絞り込み、乗り心地や法規制の壁を回避しつつ、絶対的な走破性を最優先する戦略で先行実用化を達成した。

 今後、この無人消防ロボットは韓国国内の主要消防本部に順次配備され、地下空間や化学工場など高危険度火災現場で初期消火や救助活動の先陣を切ることが期待される。聯合ニュースは、この事例が防災装備導入にとどまらず、防衛・自治体インフラを含む無人モビリティ分野全体でエアレスタイヤ実用化を加速させる呼び水になると伝えている。産業界と政府機関が一体となり迅速に技術を実用段階へ引き上げた韓国のエコシステムは、フィジカルAIや無人化技術が急伸する世界市場においても強い存在感を示すだろう。ハンコックタイヤは消防ロボットで得られた走行データを基に、過酷環境で稼働する各種無人車両や次世代モビリティへの適用範囲を拡大し、未来型タイヤ市場での主導権を確実に握ろうとしている。
【編集:af】
編集部おすすめ