2026年8月24日、オランダのハーグに拠点を置く国際刑事裁判所(ICC)をめぐり、国際社会に大きな緊張が走った。世界中で起きる恐ろしい戦争犯罪や重大な人権侵害を裁くために作られたこの組織で、日本人として初めて最高責任者である所長に就任したのが赤根智子氏である。
彼女の就任は日本国内でも誇らしいニュースとして大々的に報じられたが、その裏側で、ICCが抱える決定的な暗部と巨大な壁が、アメリカのドナルド・トランプ大統領の動きによって白日のもとにさらされることとなった。世界中の人々が信じてきた「正義の裁判所」という看板の陰にどのような真実が隠されているのか。専門家の分析をもとに解き明かしていく。

その他の写真:イメージ

まず、国際刑事裁判所(ICC)とはどのような組織なのかを整理しておく必要がある。ICCは2002年に設立された常設の国際裁判所であり、個人の行った戦争犯罪や集団殺害などを裁くことを目的としている。世界120以上の国と地域が加盟し「世界の正義の砦」として期待されてきた。赤根智子所長は、日本の検察官や法務省幹部を務めた経歴を持つ法律のプロフェッショナルであり、高い手腕と公正な姿勢が評価されて最高位の座に就いたのである。

しかし、この崇高な理想を掲げるICCに対し、激しい批判の刃を向けたのがトランプ氏である。トランプ氏は「アメリカの主権を脅かす存在だ」としてICCを激しく非難してきた。トランプ氏が問題視しているのは、ICCが自国の国民や同盟国の関係者に対して捜査を行おうとすることだ。アメリカはICCを作るための条約(ローマ規程)に加盟していない。それにもかかわらず、アフガニスタンでの米軍の行動や同盟国イスラエルの指導者に対してICCが捜査や逮捕状の請求を行うことに対し、トランプ氏は強く反発した。


トランプ政権は過去に、ICCの検察官や関係者に対してアメリカへの入国を禁止するビザの停止や、国内資産を凍結する制裁措置を発令した。一国の裁判所職員が超大国から犯罪者のように扱われて制裁を受ける展開は、世界中に衝撃を与えた。「アメリカの兵士や国民を守る責任は自分たちにあり、海外の裁判所に勝手に裁かれる筋合いはない」という主張だ。この強いアメリカ第一主義に基づく姿勢が、ICCという組織の根本的な脆弱性を暴き出すこととなった。

専門家は、トランプ氏の動きによって浮き彫りになったのは「国際法の限界」だと指摘する。ICCは世界共通の法律のように見えるが、実際には超大国と呼ばれる国々が参加していない。アメリカだけでなく、ロシアや中国、インドといった主要国が未加盟である。つまり、世界で最も強い影響力を持つ国々が加入していない裁判所が、本当に「世界の裁判所」と呼べるのかという根本的な疑問が存在する。

さらに問題なのは、ICCには被告人を捕まえるための警察や軍隊が存在しない点である。ICCが逮捕状を出しても、対象者が自ら裁判所に来るか、加盟国が自国で拘束して引き渡さない限り、裁判を開くことすらできない。実際に、ロシアのプーチン大統領やイスラエルのネタニヤフ首相に対して逮捕状が出されたものの、彼らが非加盟国を訪問しても捕まることはなく無視されているのが現状だ。その結果、強い相手には命令を聞かせられず、力を持たない国ばかりが裁かれるという偏りが生まれてしまう。


こうした激しい政治の荒波のただ中に立たされているのが赤根智子所長である。赤根所長は「いかなる圧力にも屈せず、法律と証拠に基づいて公正に仕事を進める」と決意を語っている。しかし、彼女が置かれた環境は過酷である。ロシア政府はプーチン氏への逮捕状に激怒し、赤根氏らを指名手配リストに載せるという露骨な圧力をかけている。いつ身の危険が及ぶかわからない恐怖と戦いながら、超大国からの政治的圧力に耐えなければならない。

また、日本政府にとってもこの問題は頭の痛い事態である。日本はICCに対して最も多くのお金を支払う最大の資金拠出国であり、赤根氏という日本人のトップを支える立場にある。その一方で、日本はアメリカと安全保障条約を結ぶ同盟国でもある。もしアメリカとICCが致命的な対立に陥れば、日本は双方の板挟みとなり、非常に難しい外交判断を迫られる。正義を応援したい気持ちと、現実の安全保障という現実の間で身動きが取りにくくなるのである。

専門家は、トランプ氏が突きつけた批判を単なる暴論として切り捨てることはできないと分析する。トランプ氏は、国際社会が目をつむってきた「正義の裏にある現実」を引きずり出したに過ぎないからだ。
世界の平和という綺麗な言葉の影で、実際には大国の利害関係や政治的な都合が優先されている事実を、彼の行動が証明してしまった。裁判所という形をとってはいるが、力のある国には手が出せない現実は、裁判の公平性という理念を揺るがしている。

私たちが住む現代社会において、ルールに基づいて平和を守る取り組みは不可欠である。しかし、大国が同意しないルールはどれほど正しく見えても空虚なものになってしまうという教訓を、今回の騒動は教えている。赤根所長が率いるICCが、大国からの猛烈な風圧に耐えて真の公平性を保てるのか、それとも政治の道具にされてしまうのか。ただ「日本人がトップになった」と喜ぶだけでなく、その陰で起きている権力闘争と世界の現実を見つめ直す必要がある。
【編集:af】
編集部おすすめ