日本一ソフトウェアが2026年7月30日に発売した『ほの暮しの庭』は、農業や畜産、釣り、狩りなどを行いながら、住民たちと交流を重ねて暮らしていくスローライフゲームです。

しかし、本作が発表当初から大きな話題を集めていた理由は、単にスローライフゲームだったからではありません。
その背景には、多くのゲームファンに興味を抱かせるだけの理由がありました。

■『夜廻』チームが挑んだ、意外な新境地
本作が発売前から大きな注目を集めていた最大の理由は、『夜廻』シリーズの開発チームによる新作であることが明らかだったためです。

『夜廻』シリーズは、「夜に潜む恐怖」をテーマにしたホラーアクションゲームとして人気を博しました。昼間は何気ない街並みが、夜になると異なる顔を見せ、闇の向こうに不気味な気配を感じてしまう──そんな原初的な恐怖をゲームとして表現し、多くのプレイヤーに強烈な印象を残しました。

卓越した演出力や心に深く刻まれる物語も高く評価され、『夜廻』シリーズは日本一ソフトウェアを代表する人気シリーズへと成長。そんなチームが送り出す作品がスローライフゲームだと聞けば、「本当に普通のスローライフゲームなのか?」と身構えて、そして注目してしまうのも当然でしょう。

しかも、その予感は見事に的中しました。後に公開された情報によって、『ほの暮しの庭』には明確なホラー要素が存在することが判明します。舞台となる彼ヶ津村には「午後11時以降外出禁止」という掟があり、夜になると人ならざる者たちが闇を徘徊。『夜廻』で培われた「夜に潜む恐怖」というテーマは、本作でも確かに受け継がれていたのです。

とはいえ、「スローライフ」と「ホラー」という異色の組み合わせは、期待と同時に不安も生みました。『夜廻』ファンからすればスローライフ部分の完成度が気になりますし、スローライフゲーム好きからすればホラー要素がどこまで前面に出てくるのか心配になるところでしょう。


本作は物語性も強く、詳しく語ればネタバレに直結しかねません。そこで今回は、PS5版をプレイした体験をもとに、『ほの暮しの庭』がどのようなゲームなのか、その手触りについてお届けします。

■暮らしを支える、豊富な生産要素
まず、結論から言えば『ほの暮しの庭』のスローライフ要素は高いレベルで充実していました。

『夜廻』チームの新作という先入観から、「ホラーが本体で、スローライフは雰囲気作り程度なのでは」と思う人もいるかもしれません。しかし実際にプレイしてみると、その印象は良い意味で裏切られました。

主人公はある事情によって、山間の辺鄙な集落「彼ヶ津村」で暮らすことになります。そして住居と庭を貸し与えられる代わりに「村の役に立つ」よう求められました。こうして始まるのが、農業中心の生活です。

農業要素だけを見ても内容はかなり本格的で、多くの作物を育てられる「畑」、畑に手を加える「畝」、米などを育てられる「水田」と、農作物を育てる選択肢は序盤から豊富です。また、栽培できる作物も野菜だけに留まらず、麦や果実、花など種類が数多くありました。

さらに、収穫して終わりではなく、育てた作物は加工することができます。漬け込んで「漬物」にしたり「醸造」でお酒を造ったりと、加工品を生み出すことが可能です。
生産者として糧を得るだけでなく、加工者としての顔も持てるため、二足の草鞋を履くような仕事ぶりも楽しめます。

畜産では、序盤からニワトリ、牛、羊を飼育でき、それぞれ卵やミルク、羊毛といった素材を得られます。そしてゲームが進めば、飼育できる動物の種類も増えていき、さながら小さな牧場を経営しているかのような感覚も味わえます。

■スローライフ定番の「利便性」も充実
農業や畜産だけでなく、伐採して木材を確保したり、石切り場で鉱石を採掘することもできます。また、こうした素材をもとに、DIYによるクラフトも楽しめます。柵や床板を設置して庭を整備することもできますし、鉱石を利用して農具の強化も可能です。

この農具強化は、スローライフを楽しむ上で非常に重要です。例えば、畑が6マス程度なら問題ありませんが、60マスを超える規模になれば作業時間は大きく膨れ上がります。1マスずつ水やりをしていては、それだけで時間がかなり取られますし、それが毎日となると気も重くなることでしょう。

しかし、農具を1段階強化するだけで、水を撒くジョウロは1マスから縦2マスへ、畑を耕すクワは1マスから4マスへと一気に効率が向上します。さらに高性能な農具もありますし、自動で散水してくれるスプリンクラーなども登場するため、ゲームを進めることで作業の負担は大きく軽減されていきます。

また、細かな利便性にも気が配られています。
例えば作業台の周囲に収納箱を設置しておけば、収納箱内のアイテムもそのまま素材として利用可能です。わざわざ所持品へ移し替える手間がなくなり、クラフト作業をスムーズに行えます。

こうした遊びやすさへの配慮も含め、『ほの暮しの庭』のスローライフ要素からは、「同ジャンル作品をよく研究している」という印象を受けました。農業の奥深さ、加工の豊富さ、作業効率化の仕組みなど、広がりと快適さのバランスが良好です。

さらに、農業や畜産に加え、弓や罠を使った「狩り」、タイミングを見極めて釣果を得る「釣り」など、糧を得る手段がいくつも用意されています。彼ヶ津村で日々を送るため、どのような手段を取るのか。スローライフらしい選択肢の多さが、『ほの暮しの庭』でも楽しめます。

『夜廻』シリーズで高く評価されたビジュアル表現も健在で、四季折々の村の風景は美しく描かれており、高い没入感で楽しめる本作は、本格的なスローライフゲームとして十分な満足感を与えてくれます。

■『夜廻』譲りのホラー体験
そんな『ほの暮しの庭』を唯一無二の存在にしているのが、根底に流れるホラー要素です。

舞台となる彼ヶ津村は山間部にある小さな集落で、住民の人数も多くはありません。そんなささやかな世界だからこそ、村の秩序を守るために「掟」が存在するのでしょう。しかし、この「掟」そのものが大きな問題でした。


「村のために協力せよ」「見知らぬ者に近づくな」といった掟は、まだ理解できます。しかし、「他人の秘密を暴くな」という、ある種のマナーとも言える姿勢をわざわざ掟に組み込むのは、逆に「よほどの何かがあるのでは」と邪推してしまいます。

また、「村を出てはならぬ」はやり過ぎのように感じますし、「山からの声に応えるな」まで来ると、ホラー要素に直結しているとしか思えません。

こうした「掟」にまつわる展開へと、プレイヤーは向き合うことになります。例えば、先ほど触れた「午後11時以降外出禁止」という掟が生まれた理由は、深夜の彼ヶ津村に「怪異」がうろつくためです。

「怪異」も多種多彩で、道を塞ぐ者もいれば、敵意をむき出しにして襲いかかってくる者もいます。単に驚かせるだけでなく執拗に追跡してくる怪異も多く、それぞれ対処法が異なるため新たな怪異に遭遇するたびに緊張感が走ります。

時には、怪異に追われて逃げ惑う先に別の怪異が立ちはだかる──といった場面もあり、しばしばパニック寸前に追い込まれたことも。「何をしてくるのか、そして何が起きるのか分からない」という未知の恐怖は、『夜廻』シリーズとも相通じる卓越したホラー要素と言えるでしょう。

■本当に恐ろしいのは、得体の知れない「不穏」な気配
しかし、『ほの暮しの庭』における重要なホラー要素は、怪異との遭遇だけではありません。怪異による直接的な恐ろしさとは対照的に、彼ヶ津村に広がる「正体不明の不穏さ」もまた恐ろしいものでした。

住民たちは基本的に、親切で友好的です。
主人公のような「外部から来た人間」を排斥するような態度も、ほとんど見せません。

恐ろしいのは、村に住む住人ではなく、彼ヶ津村そのものです。「掟」を強いる圧力も不気味ですが、本質的に問題なのは「掟」そのものではなく、なぜその掟が生まれたのか──という点にあります。

先ほど紹介したように、「午後11時以降外出禁止」という掟は、蔓延る怪異と出くわさないための防衛策だと判明します。このように、掟となるに至った理由があると考えると、この村に秘められた「得体の知れない謎」が、形をとらぬ恐怖としてまとわりついてきます。

己の罪を「なかったこと」にして欲しいと呟く者、「呪いのようなもの」として鎖で封じた箱を部屋に置く者、「もう少しだけ、時間をください……」とひとり願う者など、住民たちが一瞬見せるその姿に、測り知れない謎や闇が隠されているように感じられ、静かに息を飲むこともしばしば。

そして特に気になるのが、当時の新聞にも掲載された「相次ぐ異常死」です。わずか1週間で7人も死亡するという出来事が、彼ヶ津村でかつて起きていました。その出来事は今も住民たちに深い影を落としており、その断片だけがこちらに伝わってきます。

こうした出来事が「怪異」と結びついているのか否かは伏せておきますが、夜ごとの異変に加え、社会的にも認知されている事件も絡み合い、オカルトとサスペンスの両面から、『ほの暮しの庭』の物語を盛り上げていきます。

スローライフの穏やかな日常と、村全体を覆う不穏な空気。この対比こそが、『ほの暮しの庭』最大の魅力と言えるでしょう。


■幅広いユーザーに「三方よし」な『ほの暮しの庭』
『ほの暮しの庭』は、スローライフ好きのユーザーにも応えるポテンシャルを持ち、『夜廻』ファンが求めるホラー体験にも十分応えてくれる作品でした。

しかも両者を融合させたことで、平穏な日常に不穏な気配が漂い、ともすれば作業感に陥りやすい毎日のワークにピリッとしたメリハリが生まれます。

また、従来のスローライフゲームは、プレイヤー自身が目標を見つけて遊ぶ作品も少なくありません。しかし本作には、「掟」という明確な謎があり、それを追い求めるという動線が分かりやすく示されています。そのため、スローライフゲームの経験がない人でも、物語に導かれながら遊びやすい作品になっていると感じました。

強いて難点を挙げるなら、一通りのシステムが解放されるまでかなり時間がかかります。要素が豊富な作品だからこそですが、チュートリアル的な要素が終わるまでまとまった時間を要します。そのため、序盤を乗り切る心構えがあった方がいいかもしれません。

それでも、『夜廻』チームが培ってきたホラー演出の手腕と、スローライフゲームの作り込みが融合した本作は、楽しくて遊び甲斐があり、不穏で先が気になります。

『夜廻』チームの実力が発揮された奥深いホラー体験、十分仕上げられたスローライフパート、新規ユーザーにも遊びやすい展開と、まさに「三方よし」な『ほの暮しの庭』。「恐怖」と「生活」が共存する唯一無二の体験を味わいたいなら、本作はまさにうってつけです。

『ほの暮しの庭』は、ニンテンドースイッチ/スイッチ2/PS5/PC(Steam/Windows)向けに配信中。価格は9,020円(税込)です。(ニンテンドースイッチ版のみ7,920円(税込))

詳しくは、公式サイトをご確認ください。
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