子育てをテーマにした官民共創イベント「こそだてバル」が2026年8月21日、東京都新宿区のDNP市谷加賀町ビルで開かれた。主催は赤ちゃん本舗、共催は大日本印刷(DNP)、後援は東京都。
基調講演に立ったのは、東京都の小池百合子知事だ。港区の清家愛区長、江東区の大久保朋果区長、品川区の森澤恭子区長も加わり、会場には子育てに関わる官民60社以上が参加。子どもを産み育てたいと思ったとき、現在の社会にはどんな壁があるのか。
育児休業の愛称は「育業」に 小池都知事「言葉が変われば意識も変わる」小池知事の演題は「叶えたいを支えたい 人が輝く東京の実現に向けて」。2つの言葉を略した「カナササ」がキーワードだ。
1989年の合計特殊出生率が戦後最低の1.57まで落ち込んだ「1.57ショック」をきっかけに少子化が社会の課題として意識され、以来、国会では議論が重ねられてきた。小池都知事は、
「この議論ばかりしているのはNATOだ。北大西洋条約機構ではなく、No Action Talk Only。話しているうちに、もう30年以上が経ってしまった」
と語った。
東京都では、妊娠・出産から子育てまでの切れ目のない支援を柱に据えてきたと説明し、少子化対策の歩みと成果を振り返った。就任直前に8466人だった都内の待機児童は339人まで減少(いずれも都の集計)。保育料の無償化や高校授業料の負担軽減を挙げ、都内では出生数が10年ぶりに増加へ転じ、婚姻数も増えたことにも言及した。
企業に向けたメッセージにも時間を割いた。都は育児休業の愛称を「育業」と改め、「ワークライフバランス」ではなく「ライフ・ワーク・バランス」という呼び方に変更。育休を申し出るときに「すみません」から入る空気を変えるためだ。小池都知事は、
「言葉が変われば意識も変わる。意識が変われば行動も変わる」
と熱く呼びかけた。
都の調査では、都内企業の男性の育児休業等取得率は61.2%まで上昇。都庁の男性職員に限れば99.3%だという。
また、育業について経営の視点からも指摘した。育業の拡大は業務を見直す機会になり、職場の協力体制も強まる。これは、企業が選ばれるかどうかの基準にもなると力を込めた。そのうえで「働く人とその家庭を支えるとともに、企業の成長力を高めることにつながる」と述べ、最後に「カナササ」を全国的なムーブメントにしたいと呼びかけた。
区長3人が語った自身の育児 哺乳瓶を煮沸した鍋を前に「茫然」続くトークセッションには、小池知事とともに都内の女性3区長が登壇した。
江東区の大久保区長が話したのは、第1子育児での経験。当時は男性の育休取得がほぼゼロで、育児を実質的に一人で担っていた。1日に14回のミルク。レンジ消毒の道具はあったが、使うと手抜きになるという思い込みがあり、大きな鍋で哺乳瓶を煮沸し続けたという。大久保区長は、
「沸騰する鍋を前に茫然としてみたり、夕日が落ちてくると悲しい気持ちになってみたり」
と当時を振り返る。孤独な育児が母親の負担になることを、身をもって知った。
港区の清家区長が挙げたのは、自身が新聞社に勤務していた頃の体験談だ。周囲には「子どもを産んだら仕事ができなくなる」と言われ、社会の無理解を痛感。区長就任後は少子化対策本部を自ら率い、「港区こどもまんなか宣言」を掲げ、「実家のような地域社会」を目指している。
品川区の森澤区長は、夫の海外転職に伴って正社員を辞めた経験を持つ。帰国したとき、子どもは0歳と2歳。再就職を目指すも働き口はなかなか見つからなかったという。
「まだまだ社会は、子育てしながら働くことに冷たい。制度も仕組みも整っていない」
と話す。同区が力を入れるのは行政からのアウトリーチだ。0歳児家庭に育児用品を届ける「見守りおむつ定期便」について、森澤区長は、
「同じ支援員が毎月届けに行き、そこで話を聞く。何か困っていることはないかと尋ねる」
と述べ、施策の目的は品物を届けることだけではないと説明した。
最後に3人は、目指す子育て環境を一言ずつ挙げた。
清家区長は「子どもを中心に笑顔が広がる社会に」、大久保区長は「社会全体で温かく子育てを見守る世の中を」、森澤区長は「子育てへの寄り添いと支え合い」。3区長が語った経験は異なるが、そこには、子育てを一つの家庭だけで抱え込ませないという共通した思いがあった。
妊娠前の不安、最も多かったのは「仕事」「育業」、仕事との両立、育児の孤独――。では実際に、子どもを持つことを考える人は何に不安を感じているのか。
主催の赤ちゃん本舗が開会あいさつで示したのも、同じ問題意識だった。少子化の議論は、「なぜ、子どもを産まないのか」という問いに偏ってきたのではないかと問題提起する。
そこで同社は、実際に子育てをしている母親に「なぜ、子どもを産んだのですか」とアンケートを実施。最も多かった答えは「家族を持ちたいと思ったから」。子育ての中でネガティブな気持ちは「ない、または少ない」と答えた母親が7割にのぼる。
一方、子どもを持つ前にもまだ不安が残る。妊娠前の不安を尋ねた別の調査で、最も多かったのが「仕事」の38.5%。次いで「お金」「親としての自信」が並ぶ。
キャリアと育児のトレードオフ、復職へのプレッシャー......「仕事」をめぐる不安は、小池都知事が「育業」を通じて変えようとする職場の課題とも、3区長が経験から語った子育ての壁とも重なる。
赤ちゃん本舗はこれらを、産み育てる幸せを覆い隠す「バリア(条件)」と位置づける。こうしたバリアは、1社や1つの自治体だけで取り除けるものでもない。
同社は、企業や行政が知見を持ち寄る場として「こそだてのあたらしいつながりをデザインするコンソーシアム(仮)」を9月以降に立ち上げる。この日の参加者にも、順次声をかけていく方針だ。

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