世界100の国・地域で生きる100人の日本人に、ライター・おかけいじゅんがインタビュー! 日本を飛び出て外国に移住したきっかけや、気になる現地での生活事情を深掘りする。
(本記事は『世界へ飛び出た100人の日本人』より一部を抜粋し、再編集したものです)
『アナ雪』観てたら泣けてきた、中学教員時代
――日本では中学校で音楽の先生をしていたんですよね?はい。大学の教育学部音楽コースで歌を勉強して、そのまま地元・栃木県の中学校で働きはじめました。
――辞める決め手はなにかあったんですか?
「もう辞めよう!」って思ったのは、職員旅行だったかな。当時は合唱部の顧問をしていて、ある年に職員旅行のリーダーになったんです。でも、部活の合宿と職員旅行の日程が重なってしまい、「私は部活で旅行には行けないけど、旅行プランだけ立てます」って、校長に許可を得たんですね。でもある日突然、校長に「へっぽこ合唱部は放っておいて、職員旅行を全うしろ!」って怒られて。「は? 許可とりましたよね? そもそもなんで生徒のための活動を職員旅行のために自粛するんだよ!」って腹が立って。
でも、周りの先生も「校長の許しがなければ厳しい」って言うし。そのとき、「私はついていけないな」って思ったんです。あと、ちょうど同じ時期に『アナと雪の女王』を観たんです。それも決め手になったかな。
――あの『アナ雪』ですか?
そうです。映画館でエルサが「ありの~ままの~姿見せるのよ~」って歌ってるのを観て、「それに比べて、私は全然ありのままじゃない!」って、もう号泣ですよ。
マンガみたいな恋愛を求めて
――教員を辞めて、なぜ海外に?学生時代から興味があったワーキングホリデーに行こうと思って。あと、教員時代は全然恋愛ができなかったので、海外でマンガみたいな恋愛を体験するのがいちばんの動機でした。
――正直な動機ですね(笑)。とはいえ、ワーホリで行く国には選択肢がいくつもありますよね。なぜノルウェーに?
学生時代にオーストリア留学をしていて、そのころにノルウェーを一人旅したことがあったんです。そこで目にしたノルウェー人男性が、みんなめっちゃかっこよかった(笑)。「やばい! この国どうなってるんだ!」ってくらい。それ以来、いつかノルウェーに住んでみたいって気持ちがあったんです。
そしたら、ちょうど教員を辞めるタイミングでノルウェーのワーホリが開始されたので、「あ、ロマンスが私を呼んでいる!」って思いました(笑)。あと、意図してませんでしたが、ノルウェーは『アナ雪』の舞台でもありますしね。でも、英語に自信がなかったので、フィリピンで英語を学んで、オーストラリアでワーホリをして、ノルウェーへ行きました。
――そして、いまのノルウェー人の結婚相手と出会ったと。
はい。現地在住の日本人が開催しているお茶会で出会いました。話すうちに「この人すごいおもしろいな~」と思って、出会った翌日には「今日遊びに行っていいですか?」って連絡してました(笑)。その次に会ったときには「好きです。9カ月つきあってくれませんか?」って伝えてましたね。
――すごい速さ(笑)。9カ月というのは残りの滞在期間?
そうです。「ひとまずあと9カ月いることは決まってるから、そのあとはどうなるかわからないけど、あなたとはつきあいたい」って伝えたんです。それが交際のはじまりですね。
国民総出のパレード
――ノルウェーでは最初、吹奏楽の先生をしていたそうですね。そのきっかけは?ノルウェーの憲法記念日に行なわれる、国民総出のパレードですね。そこでものすごい数の吹奏楽団を見て、「ノルウェーでなら吹奏楽の先生になれるかも」って思ったんです。もともと日本で音楽の教員になったのも、吹奏楽部の顧問をやりたかったからですが、私が配属された学校には吹奏楽部がなかった。
――憲法記念日のパレードは、どんな感じなんですか?
「ノルウェーにこんなに人がいたんだ!」っていうくらいの人出です(笑)。しかも、老若男女が伝統衣装を着るので、国民総出のコスプレパーティみたいでおもしろいですよ。男性はスーツの人もいますが、女性はほとんど伝統衣装を着てます。みんな14歳で衣装をつくるらしく、それを着るんですね。
――ちなみに、仕事はすぐに見つかったんですか?
英語やノルウェー語で音楽を教えたことがなかったので、大変でした。まずは、ノルウェーの求人サイトから履歴書を送りまくって、面接では「『タッタタタ~』じゃなくて『タッタラタ~』です」みたいに、英語ではなく歌でなんとかニュアンスを伝えていました(笑)。そのうち、トロンボーンのインストラクターの仕事がなんとか決まりました。一つ決まって経歴ができると、それ以外の仕事への門戸も開き、代理の先生や指揮者などの仕事ができるようになりましたね。
日本の縦割りってすごい!?
――生徒を指導するなかで、日本との違いは感じましたか?日本は基礎を大切にしますよね。サッカーなら、まずはパスやシュートを練習して、試合は最後の1時間だけ、みたいな。吹奏楽でも、最初に基礎練習をじっくりしてから、曲を演奏します。でもノルウェーでは、子どもでも大人でも、ウオーミングアップは15分くらいで、「はい、じゃ曲やりまーす」っていうスピード感なんです。
――実践重視なんですね! 生徒の雰囲気も違いますか?
全然違います。「日本の縦割りってすごいんだなぁ」って思ったことがありますね。私は以前ノルウェーの小学生を教えていたのですが、教室に先生がいないと練習ははじまりません。
でも、一度ノルウェー人の同僚と日本の小学校の吹奏楽部を訪ねたとき、教室に先生がいなくても、6年生が前に出て「はい、1、2、3、4!」って練習をはじめて、めちゃくちゃびっくりしました。生徒間でも縦割り構造があるからできることだと思いますが、ノルウェー、少なくとも私のクラスでは無理ですね。子どもたちにヒエラルキーが全然ないので、リーダーも決まりません。先生がいなければ崩壊なんです(笑)。
日本では言わなかった言葉、日本とは違う家族観
――逆にノルウェーで「すごい!」と思ったことは?同調圧力が全然ないですね。周りの目を気にしなくてもいい。日本は「世間体」重視ですが、ノルウェー語では「世間体」を意味する言葉すら、パッとは思い当たらないですね。
――たとえば、「そろそろ結婚しないの?」とかも……?
全然言われないですよ。親に「孫欲しいな~」って言われるくらいはあるかもですが。
子どもにも、英語でいうと「You choose(あなたが選んで)」みたいな言い方をすることが多いです。日本での教員時代には子どもにも、英語でいうと「You choose(あなたが選んで)」みたいな言い方をすることが多いです。日本での教員時代にはあまりこういうことは言わなかったですね。
――そのほか、ノルウェー生活で驚いたこととかありますか?
子ども向けの吹奏楽のレッスンが終わったときに、「私、この子の母親です」って一人の女性がAという子を迎えに来たんですね。そして、その後すぐに別の女性が来て、「Aの母親ですけど、子どもを迎えに来ました」って言われて、え!? やばい! さっきの母親は別人で、Aは誘拐されたのかも! って、パニックになって……。そしたら、その二人目のお母さんが「私セカンドママなんで、心配しないで」って。
――なるほど。二人は同性パートナーで、両方母親だったと。
そうなんです。ノルウェーでは同性婚が実現していて、子どもも持てます。
夢だったマンガに関わる仕事に転職
――現在はマンガの講師として働いているんですね。はい。永住権を取る前は就ける職業に縛りがあったり、ビザの関係上ある程度の収入がないと滞在できなかったりしたので、1日に吹奏楽のレッスンを3校ハシゴするときもあって、正直キツかったです。でも永住権が取れて縛りがなくなったので、マンガ講師に転職しました。
もともと子どものころはマンガ家になるのが夢で、いまは講師をしながらノルウェー生活についてのエッセイマンガを国内向けに描きはじめました。いつか日本でも単行本を出すのが目標ですね。
<文/おか けいじゅん 写真提供/まさよ(「Norway Manga Class」)>
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