連日の猛暑の中、熱中症対策として、外出やスポーツの際に塩分タブレットやスポーツドリンク、経口補水液を常備する家庭が増えています。「この暑さの中で、万が一のことがあってはいけない」。
そんな思いから、外出時や運動時に熱中症対策グッズの一つとして持ち歩くことは、今や当たり前の光景になっています。お子さんがいる場合、持たせないことに不安を感じる保護者も少なくないでしょう。しかし、その「当たり前」が子どもや私たちの虫歯リスクを高めている可能性があるとしたら――。

 熱中症対策はもちろん大切ですが、取り入れ方によっては歯への負担が大きくなることもあります。そこで今回、熱中症対策と虫歯リスクの関係について、『もう二度と歯医者の治療がいらなくなる3つの習慣 歯を失わないための本気の予防法』(KADOKAWA刊)の著者で、歯科医師の前岡遼馬先生に話を聞きました。

「ほぼ砂糖の塊です」熱中症対策のつもりが、虫歯の原因に? 夏...の画像はこちら >>
「歯医者が教えたがらない真実をすべてお伝えします!」をモットーに、情報発信を続ける前岡先生。YouTubeチャンネルの登録者数は16万人を超え、著書や動画を通して歯の新常識を発信しています。夏の熱中症対策についての前岡先生の見解とは。

塩分タブレットは「ほぼ砂糖の塊」

「ほぼ砂糖の塊です」熱中症対策のつもりが、虫歯の原因に? 夏の外出“定番アイテム”に歯科医が警鐘
画像はイメージです(以下同)
――熱中症対策として、塩分タブレットやスポーツドリンクを持ち歩いたり、子どもに持たせている家庭が増えています。熱中症対策をする一方で、虫歯にもつながりそうで、使用のバランスが難しいと感じています。

前岡遼馬先生(以下、前岡):
まず虫歯リスクの前に、そもそも塩分タブレットのような商品は、ここ数年で急に出てきたものなんですよね。昨今の猛暑を受けて、「汗で失われた塩分を補うために、熱中症対策として摂りましょう」という流れで広まっていますが、数年前までは、あのような商品自体ありませんでした。そう考えると、「塩分タブレットは本当に必要なものなのか」というのが僕の率直な感覚です。


――たしかに、ここ数年で急速に広まった印象があります。

前岡:
あの大きさのタブレットの中身はほとんどが砂糖です。そこに申し訳程度に塩分をはじめとしたミネラル成分が入っているのが実際のところです。商品パッケージの裏側にある成分表示を見ていただきたいのですが、タブレット1粒に、角砂糖1個分くらいの糖分が含まれているものもあります。

そのため、熱中症対策によかれと思って塩分やミネラルを補給しているつもりでも、実際には必要な塩分やミネラルはそれほど摂れず、大量の砂糖を知らず知らずのうちに口にしている、という状況なんです。

「ほぼ砂糖の塊です」熱中症対策のつもりが、虫歯の原因に? 夏の外出“定番アイテム”に歯科医が警鐘
砂糖
――効果があると思って持ち歩いたり、子どもに与えていた親としては少し衝撃です。

前岡:
毎日のように酷暑というニュースが流れていますから、「もしものことがないように」という気持ちで購入する方の心情はよくわかります。特にお子さんがいる家庭では、「夏の必需品」「スポーツ時の必須アイテム」のような扱いになっていますよね。むしろ、「これを持たせない親ってどうなの?」という空気すらあるように感じます。

でも実際は、必要なものを補う以上に砂糖の塊に近いものを頻繁に口の中へ入れているわけですから、虫歯リスクを高めてしまいます。もちろん安心材料にはなるのかもしれませんが、実際のメリットはそれほど大きくなく、少なくとも歯の健康という観点からはマイナス面しかありません。

麦茶に少量の塩を溶かして飲むのが一番理想的

――オーエスワン(OS-1)などの経口補水液はどうでしょうか。経口補水液であれば、虫歯リスクをおさえながら熱中症対策ができますか?

前岡:
こちらもぜひパッケージの裏側を見ていただきたいのですが、経口補水液の主な原材料は、水、ブドウ糖、食塩です。
イメージとしては、「甘さ控えめのスポーツドリンク」に近く、スポーツドリンクの上位互換のような位置づけです。

「経口補水液」という名前やあの透明な見た目から、なんとなく処方薬のような、熱中症対策に科学的根拠のある特別な飲み物という印象を持つ方も多いと思います。でも実際は、スポーツドリンクの仲間だと思っていたほうがいいでしょう。

スポーツドリンクも経口補水液も飲みやすいように甘めに作られています。実質的には、砂糖水にミネラルが少し入っているようなものを飲んでいる状態なので、虫歯リスクという意味では注意が必要です。もちろん、脱水症状があるときや医療機関から勧められた場合には、経口補水液は非常に有効です。ただ、「普段の水分補給」として日常的に飲むことは避けた方が良いでしょう。

――では、虫歯リスクを考慮したうえで、夏場の水分補給のために何を飲めばいいのでしょうか?

前岡:
一番おすすめなのは麦茶です。ノンカフェインですし、ミネラルも含まれています。梅干しを食べるのと一緒に麦茶を飲んだり、少量の塩を麦茶に入れて溶かして飲むのが理想的ですね。お茶であればいくら飲んでも虫歯になる心配はありません。昔から日本には夏に麦茶を飲む風習があるわけなので、ぜひ改めて積極的に飲んでもらいたいです。


「ほぼ砂糖の塊です」熱中症対策のつもりが、虫歯の原因に? 夏の外出“定番アイテム”に歯科医が警鐘
麦茶、夏
自販機やコンビニでもラインナップの多い緑茶や紅茶、コーヒーなどはカフェインを多く含むので利尿作用が強く、脱水を招きやすい特徴があります。そのため、水分補給をしているつもりでも尿で出てしまって体内に水分が残っていない状況になりやすいので、夏場は特に飲み過ぎに注意が必要です。

麦茶はティーバッグを煮出して作る方がミネラルも多く溶け込むのでおすすめです。経口補水液や緑茶などと比べてもコストも低くて優秀ですが、地味なのでなかなか広まっていないのが勿体ないところです。

――夏場の栄養補給としてクエン酸を摂ろうと、お酢のドリンクを飲む方も多いと思います。酸は歯に悪いイメージがありますが、「クエン酸」も歯に影響がありますか。

前岡:
クエン酸のような弱い酸でも、頻繁に摂れば歯の表面は少しずつ溶けてしまいます。ただ、朝や食事のタイミングで1杯飲む程度であれば、そこまで神経質になる必要はありません。

注意してほしいのは、デスクに置いて少しずつ何度も飲むような飲み方です。冷蔵庫に常備して、水分補給代わりに口にするのも、歯にとってはよくありません。酸に触れている時間が長くなるほど、歯へのダメージは大きくなってしまいます。

「昔からずっと行われていること」が熱中症対策と虫歯予防に

――夏場の熱中症対策と虫歯予防について、各家庭で心掛けるべきことを教えてください。


前岡
:熱中症対策も虫歯予防も、一貫して言えるのは「Less is more」という考え方です。塩分タブレットや経口補水液だけでなく、マウスウォッシュや機能性歯磨き粉など、「これを足せば安心」とうたう商品はどんどん増えています。でも、本当に大切なのは、何かを足すことではなく、正しい知識を持って当たり前のことをきちんと続けることなんです。

その「当たり前」のヒントは、昔の人の暮らしにあります。昔の人は、和食で自然に塩分を摂り、麦茶で水分補給をしながら夏を乗り切っていました。もちろん温暖化によって昔より暑さは厳しくなっていますが、基本となる考え方は今も変わらないと思います。

――たしかに、熱中症対策も虫歯予防も何かを買うことで解決をしていることが多いです。

「ほぼ砂糖の塊です」熱中症対策のつもりが、虫歯の原因に? 夏の外出“定番アイテム”に歯科医が警鐘
0323_子ども公園②
前岡
:はい。あとは、気温が35℃を超えるような日に、子どもを外で遊ばせないことも大切な熱中症対策です。実際、子どもも35℃を超えるような暑さで「外で遊びたい」とはあまり言わないはずです。私の病院の近くに小学校があるのですが、そこでも「今日は気温が高いので、お昼休みは外で遊ばせないでください」という放送が流れるくらいです。

スポーツも同じです。
もちろん現実には難しい面もありますが、熱中症になるような暑さの中で、塩分タブレットや経口補水液を飲んで乗り切ろうとするのではなく、練習時間や活動内容そのものを大人がチェックすることが必要だと感じています。まずは、当たり前のことをきちんと生活の中に取り入れることから始めてほしいと思います。

========

麦茶をこまめに飲む、和食中心の食事でミネラルと塩分を摂る、そして気温が高い日は無理に外で遊ばせない。買い足した特別なアイテムに頼るのではなく、昔から続く生活習慣を大切にすることが、熱中症対策と虫歯予防を両立させるカギになりそうです。

前岡遼馬(まえおかりょうま)
前岡歯科医院院長。北海道大学歯学部卒。室蘭市の日鋼記念病院歯科口腔外科にて研修後、様々な事情から2014年に実家のある愛知県一宮市に戻り、父の医院を引き継いで最年少で開業。歯科衛生士が在籍しない医院として院長がすべての治療と説明を行う、ワンオペ医院として経営を続けている。著書に、『もう二度と歯医者の治療がいらなくなる3つの習慣 歯を失わないための本気の予防法』。

<取材・文/大夏えい>

【大夏えい】
ライター、編集者。大手教育会社に入社後、子ども向け教材・雑誌の編集に携わる。独立後は子ども向け雑誌から大人向けコンテンツまで、幅広く制作中。

編集部おすすめ