第2次世界大戦では、当時日本領だった台湾から約20万人が従軍した。そのうちシベリア抑留を経験した人は少なくとも19人いたことが判明しているが、正確な人数は依然不明のままだ。戦後、シベリアから台湾に戻った元日本兵は、当時の中華民国政府から「潜在的な共産党のスパイ」と見なされ、警察から監視された他、その多くが自身の経験を語らず、沈黙を強いられたばかりか、共産党やソ連に批判的な教育を受けた子・孫世代との間に認識の隔たりが生じたとされる。
台湾史に関するドキュメンタリーを多く制作してきた許監督。だが、国民党政権が続く中で、小学校から大学まで、中国史や中国の地理を学んできた。転機になったのは2003年ごろに公共テレビ(公視、PTS)で台湾史に関する番組の制作に携わったことだ。多くの出来事を深く知らないことに気付き、仕事の傍ら、自分のために台湾史への理解を深めた。また仕事を通じて積極的に社会運動に向き合う人たちを見て、「彼らの考えを外国人を含む多くの人に伝えたいと思った」。
シベリアに抑留された台湾人元日本兵の存在を知った時は驚いた。戒厳令の解除後、台湾人元日本兵自体の研究は多くされているが、南洋に向かった人々と比べ、シベリアに抑留された人々の記録はほとんどなく、「どういった理由でシベリアに行ったのか」、「なぜその存在が知られていないのか」といった疑問が生まれ、調査を始めた。その後、事実が明らかになるにつれ、「台湾人元日本兵の中で空白の部分を、自身の力で補いたいと思った」。
撮影は台湾だけでなく、日本やロシアでも行い、写真や手紙、録音テープ、断片的な記憶を拾い集め、帰還までの道のりをたどった。
現在台湾が置かれた状況を見れば、台湾人元日本兵の諸問題について政府間の外交ルートで解決するのは困難だと考えている。だが、民間の力には希望がある。作品の上映を通じて、より多くの観客がシベリア抑留を経験した台湾人元日本兵の存在を知ったり、自分の先祖が戦争の被害に遭い、心と体に傷を負っていないか考えたりしてほしいと望んでいる。多くの人が関心を持つことで大きな変化につながればと願う。
また、観客には家族の記憶が自分自身にとって重要であることも分かってほしいと考えている。自身が家族の記憶を伝える側になった際、父親や祖父らがどんな経験をしてきたか理解していなかった場合、記憶が途絶えてしまう。そうなった場合、家族としての共通認識がなくなってしまうと思うからだ。
シベリアに抑留された台湾人元日本兵は、自分ではない誰かが始めた戦争に参加し、人生が大きく変わった。今後万が一戦争がわれわれに近づいた場合に、政府や強力な権力を持つ国家の決定をどう見るか、考えられる力を持ってほしいと願う。
シベリア抑留経験者に関する作品の制作は一段落したが、今後も台湾人元日本兵に関して調査・研究したいとする人の支援を続けるつもりだ。新たに情報が見つかったり公開されたりすることもあり、これまでとは違った分析ができるとも考えている。
(齊藤啓介)








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