―[インタビュー連載『エッジな人々』]―

ひとりで生きること、俳優として生きていくこと、そして、母として生きていくこと――。前田敦子が俳優仲間に語った、本音の言葉がある。
現在を見つめ、まだ見ぬ未来まで、あっちゃんが、今の気持ちをありのままの思いを語った。
前田敦子、1児の母として「子供は完全に生きがい」…仕事現場に...の画像はこちら >>

ひとりで生きる、覚悟と本音

「こんなにも面白い人がいるのか──」

 俳優・(※1)小野寺ずるは、(※2)舞台『ポルノ』で共演した約2か月の稽古期間、ほぼ毎日、前田敦子と時間を共にした。気づけば、稽古場で彼女ばかりを目で追っていたという。

 世間は前田敦子を“スター”や“カリスマ”と呼ぶ。けれど、目の前にいたのは、そんな言葉では語り切れない女性だった。

「お金とか、安定した生活とか、私はそういうことで満足できる性格ではない。だから、こう生きているのかもしれない」

 稽古場でふと漏らした、その一言が忘れられない。共演をきっかけに人間性まで語り合うようになった小野寺が、“あっちゃん”の現在地に迫る。

──(※3)’21年に個人事務所を立ち上げてから、ずっと一人でマネジメントを続けています。ブランディングを含め、一人で全部の仕事をこなすのは、やっぱり大変じゃないですか?

前田:事務所にいた頃は、現場が終わったら私の仕事も終わり。でも今は、1~100まで全部自分で見ている。負担は増えたよ。でも、自分で直接やり取りができるから話も早いし、「どうなっているのだろう」っていう葛藤もない。
全体を把握できる安心感があるから精神は安定している。広告や演技など、信頼できる人と組めているし、仕事をしたい人とも自然につながれているから、素敵だなと思う事務所はあるけど、そこに所属する未来はあまり想像できないかな。

──なるほど。稽古場で聞いた、「だから、こう生きているのかもしれない」、という覚悟を、近くで見ていてすごく感じます。

前田:仕事が好きというより、一つひとつの工程を積み重ねていくほうが性に合っている。台本を覚えた、現場に行った、一つのシーンを撮り終えた、毎日タスクを終わらせていく、この感覚がすごく好きなの。

──今もペットボトルのラベルを剥がしながら、ちょっとニヤニヤしているもんね。

前田:変な意味じゃなく、ゴミが増えることすら快感なんだよね。ゴミ袋に入れて、いっぱいになったら捨てる。自分一人で、“すっきり”をコツコツ貯金するのに心地よさを感じているんだと思う。特別な理想があるわけじゃないし、望んでいるわけでもない。どちらかといえば、職人気質な性格かな。


前田敦子、1児の母として「子供は完全に生きがい」…仕事現場にも連れていく一方、「共依存で離れられない親子にはなりたくない」
毎日、“すっきり”を貯金している
──撮影現場にはすごく早めにスタンバイするらしいね。

前田:「あっちゃんが早すぎるから、時間通りに来ても遅れた気分になる」って言われたことがあるかな。それくらいせっかちかもね。

──稽古場で、あっちゃんがみんなに気を使わせないように明るくオープンに接してくれて助かったよ。

前田:昔は全然違ったよ。もともと、お母さんの後ろに隠れて顔も出せないくらい人見知りだったし、芸能界に入って周りと比べて自分を追い込み、不機嫌な人みたいな時期もあったし、物理的にやべえ女みたいな時期もあった。今は、「あの頃の自分はいったい何やっていたんだろう」って、反省もある。だから現場では壁をつくらずにフラットでいたい。

──瞳孔バキバキに開いたまま「おはよ~!」って入ってくるけどね(笑)。

前田:役者さんは、人見知りが多いじゃない? お互いが遠慮し合って終わる、あの空気がもどかしくて、先輩がいる現場では様子を見るけど、そうじゃなかったら自分から話しかけるようにしている。誰かが最初に壁を壊したほうが楽だからね。

与えられた役を演じることの意味

──バラエティもイベントもやるけど、芝居だけは絶対に手放さない。それは自分でどうしてだと思う?

前田:この仕事って、誰かに呼ばれて初めて成立するものだから、そこに自分の居場所があることが嬉しい。
特に芝居は、本番になると何十時間もかけて覚えた台詞が全部飛ぶんじゃないかってくらい緊張する。でも、その普通じゃ味わえない緊張感があるから続けられるんだと思う。アドレナリンなのか、脳汁なのか(笑)。あの感覚に沼っているのかも。あとはいい作品をつくるために、たくさんの技術職の方たちが集まって、ただこの仕事が好き!って空間が好き。でもこれから何を支えに続けていくのかって聞かれたら、それはまだ模索中かな。

前田敦子、1児の母として「子供は完全に生きがい」…仕事現場にも連れていく一方、「共依存で離れられない親子にはなりたくない」
我欲を持つと演技が崩れていく
──『ポルノ』で初めて舞台共演して、本当に圧倒されました。感情が爆発しているのに、本人はどこか冷静で。その温度差が、すごく前田敦子だなって。

前田:いつも冷静な自分がいる。いつかはもう少し気持ちよくなりたい自分と、それを止める自分がずっと葛藤している。

──だから、たまに無機質というか、ドライに映るのかな。


前田:どうなんだろう(笑)。この仕事が好きだから理想像をつくらないようにしているんだけど……。私は引き出しが少ないから、「もっとこうなりたい」って我欲が出ちゃう。そうなると、肩に力が入って軸がブレて演技も崩れる。落ち込む。毎回、これ。

――どうやって戻るの?

前田:昔、監督から言われた言葉を思い出すようにしている。

「どうして、その役に選ばれたのかを考えてみて。声をかけられたってことは、そのままのあなたでいいっていう証しなんだよ。何者かになろうとしなくていい」。その言葉が、いつも私を元の場所に引き戻してくれるの。

前田敦子、1児の母として「子供は完全に生きがい」…仕事現場にも連れていく一方、「共依存で離れられない親子にはなりたくない」
久しぶりに再会した前田敦子と小野寺ずる。舞台で深めた絆は今も変わらない
――魔法の言葉だね。
自分の作品もエゴサーチしない派?

前田:完成版は見るけど、なるべく客観的に見て何も思わないようにしている。エゴサーチは絶対にしないかな。

――エゴサして落ち込む人もいるよね。

前田:周りを気にしすぎな人は本当に多いよね。ネットなんてフェイクがいっぱいある。でも、批判だけはちゃんと刺さるじゃん。それで心が揺さぶられるのは嫌だし、傷つく自信があるから普段からエゴサはしないよ。もし落ち込んだら、信頼できる人に話して放出する! 負のオーラが自分の中に滞留するのは避けたいからね。

恋愛だけが唯一の空白

――あっちゃんは、1児の母でもあるでしょ。舞台中の空き時間に、息子のために100円ショップで色紙やペンを選んでいる姿が、すごく印象的だった。

前田:子供は私の人生の軸だからね。もう完全に生きがい。
子供に求められなくても、私から時間を作ってる。

──息子さん、舞台も観に来てくれましたよね。

前田:子供に「こうなってほしい」っていう願望は全然ないの。でも、外の世界をたくさん知ってほしいし、私の生き方から何かを感じてくれたら嬉しい。仕事の現場にも連れていくし、作品の現場も事前に許可をいただいて、一度はお邪魔させてもらうようにしている。あとは、見守るだけ。

前田敦子、1児の母として「子供は完全に生きがい」…仕事現場にも連れていく一方、「共依存で離れられない親子にはなりたくない」
共依存で離れられない親子にはなりたくない
──見守るあっちゃん愛しいよ。

前田:私は今大黒柱だから、お金はちゃんと稼がないといけない。息子には、欲しいものを我慢させてないほうだと思うけど、だからこそ、「どうしてそれが買えるのか」「お金にはどんな意味があるのか」はちゃんと伝えているよ。子供は、いつか親元を離れていくからそのとき共依存になって、(※4)「離れられない親子」にはなりたくない。男の子だから、なおさら意識してる。

──将来かぁ。68歳になる私の母は、2歳の孫の結婚式で(※5)「ハナミズキ」を独唱するのが夢なんです。まだまだ先だけど。

前田:素敵だね。私はまだ、突拍子のない未来に期待していたい。海外に住むかもしれない。再婚するかもしれない。また子供を産むかもしれない。昔から将来を細かく計画するタイプじゃないから、「そんな未来もいいな」っていう可能性は、ずっと残しておきたいな。

──私は、一度くらい同棲してみたい。叶う気配すらないけど。

前田:それ、私もだよ(笑)。仕事も子育ても、なんとなく先の景色は見えているのに、恋愛だけは本当に真っ白。そこだけ未来が見えない。別に、一人で強く生きたいとか思っているわけじゃないの。人って変わる瞬間ってあるじゃない? この人のためならって……私もいつかは、そんな人と出会いたい。

──地方公演の帰りのタクシーでも、居酒屋でもそうだけど、本当に自分を取り繕わないよね。

前田:強みがあるとしたら、周りからどう見られているかを気にしていないことかもしれない。誰かによく見られたいとか、媚びたいとか、そういう気持ちでは生きていない。もちろん人に迷惑をかけないことは絶対だけど、このままの私を好きだと言ってくれる人たちと、一緒に楽しく仕事をして生きていけたら。それが今の私には一番しっくりくる未来なんだと思う。

【Atsuko Maeda】
1991年生まれ、千葉県出身。現在放送中のドラマ『ファーストクライ』(日本テレビ)に出演中。’21年に個人事務所を設立。主演映画『一月の声に歓びを刻め』や主演ドラマ『Silent Code~監獄の密約~』など、女優として映画・ドラマ・舞台で活動の幅を広げている

(※1)小野寺ずる
1989年生まれ。宮城県出身。役者・漫画家。舞台中心にテレビドラマにも出演。主な出演作品は『いいね!光源氏くん』(NHK)など。個人表現研究所「ZURULABO」にて漫画、エッセイ、ポエムなどを発表。

(※2)舞台『ポルノ』
劇作家・長塚圭史による戯曲を、映画監督・松居大悟が新たな視点で立ち上げた舞台で’26年4月に上演された。本作で前田と小野寺は共演。2か月の稽古・公演期間で親睦を深めた

(※3)’21年に個人事務所を立ち上げ
約14年間所属していた前事務所を’20年末に円満退社。30歳を迎えるにあたり、自分自身の人生にも責任を持つための前向きな一歩として独立を決意した

(※4)離れられない親子
親は子供を常に管理・心配し、子供は親に判断を委ねてしまう関係。共依存。親自身が孤独を抱え、子供を自身の生きがいや所有物として扱ったり、子供の親密な人間関係が家庭内にしかないなど要因はさまざま

(※5)ハナミズキ
歌手・一青窈が’04年にリリースした5thシングル。’01年に起きたアメリカ同時多発テロ事件をきっかけに、平和への祈りを「君と好きな人が百年続きますように」と歌詞に綴った。現在は結婚式の定番ソングとしても定着

衣装/jacket&shirt&skirt:tiit tokyo/pierce&ring:Aendia、EMUNE、Thalatta ヘアメイク/高橋里帆(HappyStar) スタイリング/ミナミマリィ 撮影/武田敏将 取材/小野寺ずる 文/谷口伸仁

―[インタビュー連載『エッジな人々』]―
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