思考を文字に変える技術は、これまでも様々な手法が開発されてきたが、高い精度を出すには、脳に電極を埋め込む外科手術が必要だった。
この度、Meta社のAIは、外科手術なしで頭を傷つけることなく脳の活動を読み取り、思考を文章にする精度を向上させることに成功した。
この技術は、話すことができなくなった患者と意思疎通が図れる新たなツールとして期待されている。
この研究成果は、2026年6月30日にMeta社が公開[https://ai.meta.com/research/publications/accurate-decoding-of-natural-sentences-from-non-invasive-brain-recordings/]した。関連する前段階の研究は、2026年6月29日に『Nature Neuroscience[https://www.nature.com/articles/s41593-026-02303-2]』誌に掲載されている。
外科手術なしで思考を文字に変えるAIが進化
アメリカのIT大手Meta社が、頭の中で思い浮かべた言葉を文字化するAIの精度を大きく向上させた。
頭の外から脳の働きを測る装置と、記録を文章に変えるAIを組み合わせた仕組みで、「Brain2Qwerty v2」と名付けられている。
考えていることを文字にする技術は、話せなくなった人の意思疎通を取り戻す手段として、世界中で研究が進められてきた。
研究の方法は、大きく2つに分かれる。
1つは、頭蓋骨に穴を開けて脳に電極やチップを直接埋め込む手術型の方法だ。
イーロン・マスク氏が設立したニューラリンクは脳にチップを埋め込む。米スタンフォード大学やカリフォルニア工科大学の研究では、埋め込んだ電極を使用する。
手術をせずに頭を傷つけずに読み取る方法も開発されているが、脳から得られる信号が弱いため、手術を使う方法ほどの精度には届かなかった。
だが、Meta社のBrain2Qwerty v2は、外科手術をせずに高い精度の実現に近づいている。
脳活動と文字入力を記録しAIを訓練
Brain2Qwerty v2の訓練は、スペイン北部のサン・セバスティアンにあるバスク認知・脳・言語センターで行われた。
健康なボランティア9人が、ヘッドフォンで流れる文章を聞き、少し待ってから、聞いた文章をキーボードで打ち込んでいった。
1人あたり10時間にわたって作業を続け、全員あわせて約2万2000文の文章が集められた。
文章を打ち込んでいる間、参加者の脳の活動は「脳磁図(MEG)」という装置で記録された。
脳磁図は、ヘルメットのような形をした装置で頭を覆い、脳の神経細胞が働くときに生じるごくわずかな磁場を、頭に触れずに測る仕組みだ。
ヘルメットの内側には300個ほどの磁気センサーが並んでいて、外部の磁気を遮断した専用の部屋で測定が行われた。
こうして集めた「打ち込んだ文章」と「そのときの脳の記録」を大量に組み合わせ、AIに学習させることで、脳の活動から文章を読み取れるように育てていった。
手術なしでも高度な解読精度を達成
訓練を重ねたBrain2Qwerty v2は、脳の記録だけで、参加者が打とうとした文章を復元できるようになった。
参加者全体では、単語を正しく読み取れた割合が平均61%だった。
最も成績のよかった参加者では、単語を正しく読み取れた割合が78%に達した。読み取られた文章の半分以上が、単語の間違いを1つ含むレベルの正確さだった。
研究チームは、学習させるデータの量を増やすほど、読み取りの精度が上がっていくことを確認した。
今後さらに多くのデータを集めれば、手術を使う方法に近い精度まで届く可能性がある。
3段階のAIの仕組みと実用化への課題
Brain2Qwerty v2の高い精度は、ChatGPTなどのチャットボットを支えるのと同じAI技術を活用することで実現した。
解読は3つの段階を踏んで進む。まず、脳磁図で測定した脳の活動を、AIが1文字ずつの記号に置き換える。
次に「アライナー」と呼ばれる別のAIが、文字をつなぎ合わせて単語の形にまとめる。最後に大規模言語モデル(LLM)が引き継ぎ、文字と単語の寄せ集めを、意味の通る自然な文章へと整える。
大規模言語モデルとは、膨大な量の文章を学び、人間のように自然な言葉を扱えるAIを指す。
ノイズの多い脳の記録を、大規模言語モデルで意味の通る文章に翻訳できたのは、今回が世界で初めてだという。
解読作業には、「オートリサーチAI」と呼ばれる仕組みも使われた。
解読の精度と効率を高めるために、AIが自分でプログラムを書き換えて改良を重ねていく仕組みで、単語の間違いを減らすことに貢献した。
ただし研究チームは、オートリサーチAIが人間の研究者に取って代わるにはほど遠いとも述べ、論文に「AIは強力な助けになりうるが、人間による研究は今のところ、科学の営みに欠かせない部分であり続ける」と記している。
実用化に向けては課題も残る。
脳磁図の装置は大がかりで、外部の磁気を遮断した専用の部屋がなければ使えない。
帽子のように気軽に持ち運べるものではないため、家庭や病室で日常的に使えるようになるには、装置を小さくする工夫が求められる。
言葉を失った人々と意思疎通を捕るために
思考を文字化するための技術開発が急がれる背景には、無構音症(むこうおんしょう)や筋萎縮性側索硬化症(ALS)といった、話すことが困難となる病に苦しむ人たちの存在がある。
無構音症は脳の障害で言葉をうまく発声できなくなる状態を指し、ALSは体を動かす神経が徐々に侵されて、やがて発声も困難になっていく難病である。
脳外科手術が不要で、常に装着が可能なサイズになれば、患者にとって大きなメリットになるだろう。
References: Accurate Decoding of Natural Sentences from Non-Invasive Brain Recordings | Research - AI at Meta[https://ai.meta.com/research/publications/accurate-decoding-of-natural-sentences-from-non-invasive-brain-recordings/] / DOI.s41593-026-02303-2[https://www.nature.com/articles/s41593-026-02303-2]











