大豆が「畑の肉」と呼ばれるように、植物の種子が「畑の牛乳」と呼ばれる日が来るかもしれない。
イスラエルのヘブライ大学エルサレム校の研究チームが、牛乳に含まれる乳タンパク質を、植物の種子の中で作らせることに成功した。
牛に頼らずとも植物から、同等の栄養がある、なめらかなチーズを作るという夢の技術に、一歩近づいた。
この研究成果は科学誌『Frontiers in Plant Science[https://www.frontiersin.org/journals/plant-science/articles/10.3389/fpls.2026.1872014/full]』(2026年6月30日付)に掲載された。
牛に頼らず植物で乳タンパク質を作る理由
牛乳やチーズ、ヨーグルトには、体に必要な栄養素である乳タンパク質が含まれている。
乳タンパク質の約80%はカゼインで、なめらかな口当たりやチーズが溶けて伸びる性質を生み出している。
これまで、牛を育てることで人間は乳タンパク質の恩恵を受けてきたが、酪農は、温室効果ガスの排出や、広い土地と大量の水を必要とするという環境への負担が問題となっていた。
そこで注目されているのが、植物を使い、有用なタンパク質を作らせる分子農業という技術である。
牛の代わりに植物が乳タンパク質を作れるようになれば、食料の生産と環境の両方にかかる負担を減らせると期待されている。
植物の種子の中でβ-カゼインを作り出すことに成功
イスラエルのヘブライ大学エルサレム校のオデッド・ショセヨフ教授が率いる研究チームは、シロイヌナズナという植物を使って乳タンパク質であるカゼインの一種、β-カゼインを作り出そうとした。
シロイヌナズナはアブラナやキャベツに近い仲間で、育てやすく研究しやすいことから、世界中の研究室でモデル植物として使われている。
牛のβ-カゼインを作る設計図を植物に組み込み、種子の中で作らせたところ、β-カゼインは確かに誕生していた。
種子をすりつぶして取り出したタンパク質のうち、β-カゼインが占める割合は約1.26%だった。
過去の研究では、β-カゼインの含有量は大豆で0.1~0.4%、トマトで0.01~0.05%という報告にとどまっていたため、今回の値はそれらを上回る成果となった。
β-カゼインは予想外の場所に蓄積されていた
植物の細胞の中には、栄養や物質をためておく場所がいくつかある。
研究チームがβ-カゼインを蓄積させようとしたのは、植物の種子特有の細胞小器官であるタンパク質貯蔵液胞(えきほう)だった。
そこで遺伝子情報に目印をつ液胞に行くようにした。
植物の種子には、植物油がたくわえられている。そこで、作成したβ-カゼインをあとで取り出しやすくするため、油の表面にくっつく性質を持つオレオシンという植物のタンパク質をβ-カゼインにつないだ。
すると、β-カゼインは液胞ではなく、そのすぐ外側にある油をためている部分の表面に、びっしりと集まって塊を作っていた。
実用化への課題
β-カゼインが種子の油をためている部分に集まったことで、内部の様子も大きく変わっていた。
ふつうのシロイヌナズナの種子は大きな油のかたまりで満たされているのに対し、β-カゼインを作った種子は大きな油のかたまりが減り、小さな油のかたまりがたくさん現れて、種子の中央に濃いタンパク質の塊が集まっていた。
研究チームは、β-カゼインにつないだオレオシンが、油の表面で本来のオレオシンと場所を奪い合い、油のかたまりの並び方を乱したためだと考えている。
種子がきちんと発芽できるかどうかも確かめたところ、最も多くβ-カゼインを作った系統は91%が発芽し、ふつうの種子の目安である83%を上回った。
油の表面にくっつくオレオシンをつないだことが功を奏し、β-カゼインが油の側に集まり、しかも過去の研究より高い割合でたまったのだ。
狙った液胞ではなかったものの、β-カゼインの集まり方が、今後より効率よくβ-カゼインを作る仕組みを設計する手がかりになる。
一方で、狙った液胞にβ-カゼインを安定してためることは今回もかなわず、植物で乳タンパク質を実用的な量だけ確実に作るには、まだ越えるべき壁が残されている。
References: doi.org/10.3389/fpls.2026.1872014[https://www.frontiersin.org/journals/plant-science/articles/10.3389/fpls.2026.1872014/full] / Plants that make real dairy protein? Scientists discover an unexpected shortcut | EurekAlert![https://www.eurekalert.org/news-releases/1136228]











