「洗脳だと思うんです」
 自らについた“強い女性”のイメージを、そう笑って語る黒木メイサ(38歳)。

 バイクを颯爽と乗りこなす「かっこいい女性」がぴったりの彼女だが、15歳で沖縄から上京し、ほどなくして主演を務めた、つかこうへい戯曲の舞台『熱海殺人事件・平壌から来た女刑事』では、稽古場のトイレで泣いていたという。


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 まもなく配信のHulu オリジナル「八神瑛子 -上野中央署 組織犯罪対策課-」で11年ぶりの連続ドラマ単独主演を務める黒木。本作ではバイク姿や得意のアクションも披露し、複雑な内面も併せ持った、「かっこいい女性」キャラクターとして立つ。

 そんな黒木に、デビュー当初のもがきに始まり、ハワイ生活で得たものを含め、今につながるエピソードまでを聞いた。

稽古場のトイレで泣いていた、10代のころ

——第一線で活躍中の方の「知られざるB面」をお聞きしています。デビュー当時から振り返って、苦労した時期や、それでも続けてよかったと思えたことなどありましたら教えてください。

黒木メイサ(以下、黒木):
上京してすぐジャパンアクションクラブに2、3ヶ月ほど通っていたんです。しんどいし、暑いし、当時はなんとなく昭和の香りも残っていたので(笑)。怒鳴り声を飛ばされるような状況の中でアクション練習をしていました。やったことがいつどんな形でプラスになって発揮されるかはわからないけど、それが確実に自分の身になっていて、その後のアクションにもつながったと思います。

——芸歴初期といえば、舞台でもいきなり、つかこうへいさんの『熱海殺人事件』(2004年)で主演を務められました。大きなプレッシャーもあったのでは?

黒木:
稽古場のトイレで泣いたりしていました。もう稽古場に戻りたくないと思いながら、どうにか頑張って出て行く状態でしたね。

「洗脳だと思うんです」黒木メイサ(38)が語る“強い女性”イメージの本音…15歳で上京、稽古場で泣いた日々も
黒木メイサさん
——期待されているからこそ求められるものも大きかったのだと、後々気づくことはありましたか?

黒木:
当時から、何が辛かったかというと、厳しかったからではないんですよね。
求められていることに応えられている自信がないことで、しんどかったんだと思うんです。愛情を持って、時間をかけて力を注いでくださっていることはその頃からわかっていた。でも私にはそれに応えられるものがないという。これ以上、いまの私からは何も出てきませんと……。そのことがしんどかったです。

「明日帰ってきなよ」心を軽くした母の一言

——思い通りにいかなかった時代に、「もう辞めたい」と思ったことは?

黒木:
私は15歳で上京して仕事を始めたのですが、17、18歳くらいの時に「もう帰ろうかな、沖縄戻ろうかな」と思ったことはあります。それで母親に連絡したら、「じゃあチケット取れば。明日帰ってきなよ」みたいに言われて……。その言葉を聞いて、私は「いつでも帰れるんだったら、今本当に帰っちゃっていいのかな。もうちょっとやれるんじゃないか」と思うことができました。

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(C)HJホールディングス
——「いつでも帰れるんだから」と思えたことが、逆に頑張る力になったと。

黒木:
そして、まだ“頑張れる余白”があったことにも気づきました。そのことがあったので、今でもしんどいなと思った時には、「本当にやばかったら、逃げたかったら別にいつでも逃げられるんだから」と思って、頑張れるようになりました。


コロナ禍のハワイで生まれた「私って何者なんだっけ?」

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黒木メイサさん
——2019年頃から、拠点をハワイに移されていた時期がありました。その頃の生活で得たものはありますか?

黒木:
ハワイに引っ越してすぐコロナ禍になったので、ハワイだけがきっかけではないのかもしれないのですが、自分自身と向き合う時間が増えました。逆に言うと、若い時は自分自身にアテンションを向けることがほとんどなかったんです。食べるものとかスキンケアとか、運動なんかもそうですけど、結構気にせず生きてきていたタイプだったので(笑)。

——自分自身を見つめたことで、発見はありましたか?

黒木:
外国人の方たちと触れ合うことも多かったわけですが、「あなた何やってるの?」という会話から始まることが結構あるんです。日本にいるとあまりないことでしたが、それによって「私って何者なんだっけ?」みたいに考えるきっかけはありました。

——自分の言葉で自分を語る機会が増えたのでしょうか。

黒木:
自分が何をどう思って、何をしたいのかということをすごく考えたり、主張するんですよね。そうしたことができるようになったのは、海外生活がいいきっかけになったかもしれません。

「なんでまたアクション?」「もうすぐ40歳だよ(笑)」

——現在は、拠点を東京に戻されていますよね。そして11年ぶりとなる単独主演ドラマであるHuluオリジナル「八神瑛子 -上野中央署 組織犯罪対策課-」が配信になります。

黒木:
昔からあまり将来の目標みたいなものを立てずに過ごしていて、今やることを、その都度全力でやってきて、「その積み重ねがこの先の何かにつながっているだろう」みたいな生き方をしてきました。11年ぶりに主役のお仕事をいただけたことに関しては、自分が望んで「主役やるぞ」と言ってできるものではないので、本当にありがたいオファーでしたね。

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(C)HJホールディングス
——最初にアクションクラブのお話も出ましたが、今作はアクションシーンも見どころのひとつです。


黒木:
今回現場でご一緒したアクション部の中に、それこそ私が10代の頃の舞台でご一緒させていただいたアクション部の方がいらっしゃるんです。「なんで今になってまたこんなアクションやり出してるの?」と言われましたけど(笑)。「そうだよね、もうすぐ40歳だよ」って(笑)。昔からいろんなことを経験させてもらってきて、今につながっている部分はあるのかなとは改めて思いますね。

「洗脳だと思うんです」——強い女性像への本音

「洗脳だと思うんです」黒木メイサ(38)が語る“強い女性”イメージの本音…15歳で上京、稽古場で泣いた日々も
(C)HJホールディングス
——今作ではバイクも乗りこなしていますが、黒木さんといえば「かっこいい、強い女性」のイメージが強いです。そう見られることについて、ご自身ではどう感じていますか? プレッシャーになることもありますか?

黒木:
洗脳だと思うんです。

——洗脳?

黒木:
若い時からこの仕事をさせていただいていて、みんなに強い女だと言われてきたので、周りも、自分自身でも「そうあろう」と自己暗示でそうなっているのかもしれません。

——なるほど、周囲も自分も含めた、いい意味でのもはや「洗脳、自己暗示」でもあると。

黒木:
かもしれないです。“こうあらなきゃ”みたいな意識が、若い時はしんどかったりもしましたが、今はそれも楽しいというか。そこに乗っかっちゃおうみたいな感じです(笑)。今回の八神瑛子という人物も、私自身、“いろんなものを抱えながらも強く生きている女性像”みたいなものがすごく好きなので、こうした役を演じられることも嬉しかったですね。

「共通認識を持てる現場」を目指して

——大勢のスタッフ・キャストと関わっていくお仕事です。
大切にしていることを教えてください。

黒木:
それぞれの部署にその道のプロがいます。今回の作品もそうですが、衣装に関してもヘアメイクに関しても、基本的には全体的にお任せして、それぞれのプロ目線からの瑛子像に乗っかってやらせていただいています。そしてその分、自分は自分の役割に集中していく、お互いに尊重し合って作品を作っていくのがすごく素敵なことかなと思います。

——特に印象に残っている先輩の言動を教えてください。

黒木:
たくさんいらっしゃるので、難しいんですけど。20歳ぐらいの時に中井貴一さんとご一緒させていただきました(『風のガーデン』)。作品への向き合い方など、すごく刺激になりましたし、親子役だったというのもあるのですが、現場で常に隣にいてくださって、すごくありがたかったです。

——理想とする「主演像」はありますか?

黒木:
一つの作品を本当にすごい大人数で作っているので、「私たちが向かっているのってここだよね」という共通認識を持てるような現場が理想的です。そのためにも、コミュニケーションを自分から積極的に取って、キャストだけでなく、いろんな部署といろんなコミュニケーションを取っている主役の方を見ると、とても素敵だなと思います。やはり監督や主役の方の出す空気感というものが、現場の空気も作っていると思います。自分はまだそこまでできていないのですが、活かせるようにしていきたいと思っています。


<取材・文・写真/望月ふみ ヘアメイク/中野明海(Nakano Akemi) スタイリスト/亘つぐみTW>

【望月ふみ】
ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異。X(旧Twitter):@mochi_fumi
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