これまで、巨大なブラックホールは銀河の真ん中にあるものと考えられていた。
ところが、遠方の銀河で、中心から3万光年も離れた端にある太陽の100万倍という重さの超大質量ブラックホールが発見された。
アメリカのメリーランド大学とNASAの研究チームが、恒星が引き裂かれる時の光の変化を自動で見分けるAIを開発し、ブラックホールが恒星を飲み込んだときの閃光を探し当てたのだ。
銀河の端で超大質量ブラックホールを確認したのは史上初めてだ。
今回の発見は、銀河同士が合体したとき弾き出された、はぐれブラックホールがさまよい続けるという説を裏づけるものとなる。
この研究成果は『The Astrophysical Journal Letters[https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/ae77f3]』誌(2026年7月27日付)に掲載された。
遠い銀河の端っこで巨大ブラックホールを発見
私たちの住む天の川銀河をはじめ、ほとんどの銀河の中心には、太陽の10万倍から100億倍という途方もない重さの超大質量ブラックホールがあるというのが天文学の常識だった。
実際に天の川銀河の中心にも、いて座A*という超大質量ブラックホールがあり、重さは太陽の約430万倍と測定されている。
だが、今回見つかったのは、銀河の中心ではなく端っこだ。
アメリカのメリーランド大学とNASAゴダード宇宙飛行センターの研究チームが、地球から約7億5000万光年離れたくじら座の方向にある銀河「WISEA J014656.04-152214.7」の端で、太陽の約100万倍の重さを持つ超大質量ブラックホールを発見した。
研究に携わったメリーランド大学天文学准教授のスービ・ゲザーリ氏は、今回の意味をこう語った。
「これまで私たちは、超大質量ブラックホールは大質量銀河の中心に存在するという前提から出発してきました。この発見は大きな影響を与えるでしょう」
恒星を飲み込んだ一瞬の閃光をAIが捉える
ブラックホールは、周りの物質を飲み込んでいない通常の状態では光をまったく出さない。地上のどんな観測装置にも引っかからない。
だが、たまたまブラックホールのそばを通りかかった恒星のおかげでその位置を特定することに成功した。
恒星がブラックホールに近づきすぎると、手前側と奥側で受ける重力の強さに差が生まれ、恒星は引き伸ばされて粉々に砕ける。
砕けた物質は、渦を巻きながら吸い込まれる過程で猛烈な熱を発し、強烈な閃光を放つ。
天文学ではこれを潮汐破壊現象と呼び、1つの銀河でおよそ10万年に1回しか起きない珍しい出来事とされる。
閃光を最初に捉えたのは、アメリカ・カリフォルニア州のパロマー天文台にあるツビッキー突発天体観測施設(ZTF)だ。
ZTFは北の空全体を2日ごとに撮影し続けており、毎晩数十万件もの明るさの変化を記録している。
人間の目で1件ずつ確かめるのは不可能な量なため、研究チームは、恒星が引き裂かれるときの特徴的な光の変わり方を学習させ、同じパターンを自動で見分けるAIを開発した。
AIを使用してからわずか3か月後の2025年11月、遠い銀河の端っこで閃光を発見した。
恒星を粉砕した潮汐破壊現象であることを確認
研究チームはただちに各地の望遠鏡を動かし、本当に潮汐破壊現象であるかどうかの確認作業に入った。
チリのSOAR望遠鏡が閃光の光を波長ごとに分けて調べたところ、水素とヘリウムの幅広い光が現れた。恒星が引き裂かれたときに特有の並び方で、超新星爆発など他の現象で現れる並び方とは明らかに違っていた。
NASAの観測衛星スウィフトは、地上の望遠鏡では届かない紫外線の観測を担当した。
閃光の温度は約30,000℃に達し、数か月にわたって紫外線で銀河全体より明るく輝いた。最も明るいときの輝きは、太陽およそ100億個分に相当する。
こうして閃光の正体は、潮汐破壊現象であることが確定し、「TDE 2025abcr」と名づけられた。
銀河の端でこの現象が見つかったのは史上初めてのこととなる。
はぐれブラックホールはどこから来たのか?
残る疑問は、ブラックホールがなぜ銀河の端にいるのかである。
銀河の外れをさまよう、はぐれブラックホールがあるはずだという仮説は、以前から唱えられていた。
銀河同士がぶつかって合体するとき、それぞれの中心にいたブラックホールが弾き出されると考えられていたからだ。
今回のブラックホールについて、研究チームは2つの筋書きを挙げている。
- 小さな銀河が飲み込まれた:大きな銀河が小さな銀河を取り込み、その恒星を少しずつ剥ぎ取っていった結果、中心にいたブラックホールだけが取り残された
- 3つ目のブラックホールに弾き飛ばされた:ある銀河の中心で2つのブラックホールが互いに回り合っているところへ、別の合体で3つ目が加わり、複雑な重力の押し合いによって最も軽いものが外へ飛ばされた
どちらの筋書きでも、ブラックホールはよそからやって来たことになる。
筆頭著者でメリーランド大学とNASAゴダード宇宙飛行センターに所属するロバート・スタイン氏は「もともとは銀河の中心で生まれたはずですが、今いる銀河の中心ではありません」と述べている。
実際、今いる銀河の中心には太陽の約6億6000万倍という桁違いに重い、超大質量ブラックホールが残っており、端で見つかったブラックホールとは500倍以上の開きがある。
しかも端のブラックホールの周りには、それを取り巻く銀河が見当たらない。
ただし論文は、非常に暗くなった小さな銀河の中心にいる可能性も残している。
閃光が薄れていく様子を追い続ければ、どちらの筋書きが正しいのか判断できるという。
はぐれブラックホールは他にもいるのか
銀河の合体でブラックホールが弾き出されるという仮説は、これまで計算の上での話でしかなかった。
今回、実際に、銀河の端をさまよう、はぐれブラックホールが観測されたことで、仮説は初めて裏づけを得た。
研究に携わったシルヴァン・ヴェイユー教授は「これは私たちが知る限り、さまようブラックホールの最も強力な事例です」と語る。
次の課題は、こうしたブラックホールが宇宙にどれだけあるのかを調べることだ。
研究チームは、2025年6月にチリで運用を開始したベラ・C・ルービン天文台のデータに同じ手法を使う計画で、毎年数十から数百のはぐれブラックホールを見つけられるとスタイン氏は見込んでいる。
References: DOI 10.3847/2041-8213/ae77f3[https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/ae77f3] / First-Ever ‘Wandering’ Black Hole Spotted at the Edge of a Galaxy | University of Maryland: Department of Astronomy[https://www.astro.umd.edu/news-events/news/first-ever-wandering-black-hole-tde-stein-gezari-veilleux] / NASA’s Swift Sees ‘Wandering’ Mega Black Hole Shredding Star - NASA Science[https://science.nasa.gov/missions/swift/nasas-swift-sees-wandering-mega-black-hole-shredding-star/]











