植物のコケが動物の脳神経とよく似た電気信号を発生させていた
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  庭や石垣、木に張りついたコケは、根も持たなければ、水を運ぶ管も持たない。小さな個体が隙間なく並んで一面を覆っているだけの植物だ。

 それなのに、群れ(群落)のすべてを、脳の神経細胞そっくりの電気信号が走っていた。

 英ウェスト・オブ・イングランド大学ブリストル校は、電気信号の波は一か所にとどまらず、速さを変えながらコケ全体へ広がっていったことを確認した。

 植物であるコケが、動物の脳と似た形で電気信号をやりとりしていたのだ。

 この研究成果は『Royal Society Open Science[https://doi.org/10.1098/rsos.252341]』誌(2026年7月22日付)に掲載された。

根も水を運ぶ管も持たないコケの体のつくり

 コケは化石記録に現れる最も古い植物のひとつだが、単純な生き物というわけではない。

 石垣や庭、木を覆っている緑を近くで見ると、細い茎に小さな葉がついた植物が並んでいるのがわかる。

 ただし、コケの茎は水や養分を運ぶ働きがはるかに劣る。

 植物の体の中を水や養分が通る管の組織を維管束と呼ぶが、コケは進化の過程で維管束を発達させなかった。

 そのためコケは、数cmを超える高さに育つことができない。葉のように見える部分は細胞1個分の厚さしかなく、根も持っていない。

 また、我々が1つの大きな緑のかたまりとして見ているコケは、1本の大きな植物ではない。

 高さ数mmほどの小さな個体が群落となり、何百本、何千本と隙間なく並んで一面を覆っているのだ。

 しかも1本1本は元をたどれば同じ株から増えたもので、遺伝子のまったく同じ分クローンどうしである。

 つながっているのは体ではなく、位置だけである。

 人間なら神経が体中を走り、樹木なら維管束が幹の先まで水を運ぶが、コケの個体と個体を結ぶ管はどこにも通っていない。ただ密着して並んでいるにすぎない。

 それでもコケが、別の手段で群落全体に情報を伝えている可能性は残されていた。

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コケの情報伝達能力を調査

 小さな個体の集合体であるコケに情報伝達手段はあるのか?

 ウェスト・オブ・イングランド大学ブリストル校の計算機科学者アンディ・アダマツキー氏ら研究チームは、イングランド南西部のノース・サマセットの屋外から、ありふれたコケであるヒロハノフサゴケ(Brachythecium rutabulum)のかたまりを採集し、研究室に持ち帰った。

 湿らせた土台の上にコケを置き、湿度の高い透明な容器に入れて薄暗い光の下に置き、細い針状の電極を差し込み、コケの中の電位の変化を記録した。

 コケは多くの植物と同じく、ゆっくりとした時間の中で生きている。

 研究チームは、コケの時間の流れに合わせて178時間、7日以上にわたって記録を続け、500万回を超える測定値を集めた。

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動物の脳の神経細胞のような電気信号がコケ全体へ広がる

  その結果、速さの異なる3種類の電気信号の形を観測した。

 1つめは、短く鋭く跳ね上がる動きが速い間隔で繰り返し現れるもので、「スパイク」と呼ばれている。

 中には跳ね上がり方がとりわけ大きく、動物の神経細胞が信号を発する瞬間の電位変化とよく似た形のスパイクもあり、神経細胞と同じように連続して並ぶ場合もあった。

 2つめは、一定のリズムを保ちながらゆっくり上下する揺れ。

 3つめは、何時間もかけて電位がじわじわ変化していく非常に遅い波で、「脱分極」と呼ばれている。

 細胞の内側と外側の電気的な差が縮まっていく変化で、動物の脳の神経細胞が信号を出すときにも同じ変化が起きる。

 電気の波は一か所にとどまらず、コケの群落全体へ広がっていった。速い波は1秒あたり約0.2mm、中間の波は約0.02mm、最も遅い波は1秒あたり0.005mmに満たない速度で伝わっていた。

 管でつながっていない小さな個体の集まりであるにもかかわらず、コケは独立した個体の寄せ集めではなく、互いにつながった一つのまとまりとしてふるまっていた。

 アダマツキー氏は、コケの群落が、刺激を受けた場所で起きた電気の変化を隣へ次々と伝えていく仕組みとして働き、離れた場所どうしの信号を時間をかけてまとめている可能性があると述べている。

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ただしコケが思考しているとは限らない

 ただし、コケが動物の脳のように思考し、判断しているというわけではない。

 コケの電気の動きは動物の神経信号よりはるかに遅く、今回の研究はコケに思考があることを示すことは証明されていない。

 研究には限界も残されている。

  • 生きたコケを使わない比較実験、いわゆる陰性対照の記録が行われていない。電気信号が計測機器そのものから生じた可能性を排除できていない。
  • 自然から採集したコケを使ったため、汚れの混入や水分量のばらつきが電気の流れに影響した可能性を否定できない。
  • 実験中の温度と湿度が連続して監視されていない。

 アダマツキー氏自身、今回の解釈は暫定的なものだと認めている。

 光や熱、接触といった刺激をあえて与える実験を行い、どこまでがコケ本体から出た信号なのかを切り分ける作業が、これから必要になる。

 アダマツキー氏が論文で示したように、コケが刺激に応じる感覚のネットワークや、生き物を使った分散型の計算装置として使えるのかどうかを知るには、はるかに詳しい研究が要る。

 今後の研究でコケが電気信号でコミュニケーションをとっているかどうかが明らかになるかもしれない。

References: doi.org/10.1098/rsos.252341[https://doi.org/10.1098/rsos.252341] / Moss Is Generating Electrical Waves That Look Startlingly Like a Neural Network : ScienceAlert[https://www.sciencealert.com/moss-behaves-a-little-like-a-really-slow-brain-scientist-discovers]

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