地球を検出器に。日本の研究チームがダークマターを探す精度の高い新理論を構築
ダークマターの概念図 Image credit:Ralf Kaehler/SLAC National Accelerator Laboratory, American Museum of Natural History

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 宇宙の全エネルギーの約27%を占めながら、光を出さず目に見えない謎の暗黒物質「ダークマター」。

 これまで世界中で巨大な磁石を使った実験室での探索が続けられてきたが、磁石で作れる磁場の範囲には限りがあった。

 そこで日本の研究チームは発想を転換し、「地球そのもの」の巨大な磁場と空洞を検出器として利用する新理論を構築した。

 過去10年分の磁場データを解析した結果、地上での探索としては最も精度の高い成果を出し、ダークマター由来の可能性がある未知の信号まで複数見つかったという。

 この研究成果は 『Physical Review D[https://journals.aps.org/prd/abstract/10.1103/kw4j-8v12]』誌(2026年5月11日付)、および『Progress of Theoretical and Experimental Physics[https://academic.oup.com/ptep/article/2026/7/073E02/8704104]』誌(2026年6月8日付)に掲載された。

宇宙の謎であるダークマター探索の限界

 ダークマター(暗黒物質)があることは、ほぼ間違いない。銀河が回る速さから計算すると、目に見える星やガスだけではまるで足りないからだ。

 それなのに、いまだにその正体はわかっていない。ダークマターは光を反射も放出もしないため、通常の観測ではその存在を知ることすら難しいのだ。

 有力な候補は「アクシオン」と「ダークフォトン」という2つの超軽量の粒子だが、どちらもまだ見つかっておらず、理論の上の存在だ。

 アクシオンには、強い磁場の中を通ると光に変わる性質があるとされる。そのため世界中で、巨大な実験室用の磁石が作られ、アクシオンが光に変わる瞬間を観測しようとしていた。

 ダークフォトンは、普通の光とごくわずかに混ざり合う性質を持つ粒子である。

 しかし、実験室の大きさには限界がある。強い磁場で満たせる空間の広さが、そのまま実験の限界となっていたのだ。

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日本の研究チームが地球を巨大な検出器にする新理論を構築

  京都大学基礎物理学研究所の樽家篤史准教授をはじめ、広島大学、日本大学の研究グループは、地球の磁場に目を付けた。

 地球の磁場は、人間が建設できるどんな磁石よりもはるかに大きい。

 さらに都合のいいことに、地面と電離層のあいだの空間は、天然の空洞になっている。電離層とは、高度およそ100kmから上に広がる、電気を帯びた大気の層だ。

 世界中で絶え間なく落ちる雷が、この空洞を鳴らしている。1秒間に約8回の周期で電磁波が響き続ける「シューマン共鳴」と呼ばれる現象だ。

 約8ヘルツというこの周波数は、超軽量のアクシオンが電磁波として姿を現す周波数帯とちょうど重なっていた。

 地球は巨大な検出器として働くだけでなく、信号の増幅器としても働くのだ。

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観測所で記録された過去10年分の磁場データを解析

 ただし、地球を検出器とする理論は、これまで1ヘルツ以下の低周波でしか機能しなかった。

 そこで研究チームは、大気が電気を通す性質を計算に組み込んだ新しい理論を構築した。信頼できる予測の範囲は、約30ヘルツまで広げることに成功した。

 しかも新しい施設を建設する必要もなかった。

 研究チームはスコットランド南部にあるエスクデールミュアの英国地質調査所の観測所へ行き、2012年から2022年までの10年間、全く別の理由で記録されていた磁場測定データを入手した。

 研究チームは入手したデータから人工的なノイズを取り除き、ダークマターが長期にわたって生み出すはずの、安定した極低周波の電磁波信号を探し出した。

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未知の信号を発見し地上で最も精度の高い探索を実現

 解析の結果、残念ながらアクシオンは見つからなかった。

 だが、アクシオンが光とどれだけ強く反応するかについて、これまでの地上での最良の結果より約100倍も細かく調べることに成功した。

 これは宇宙にあるX線観測衛星から得られた制限にも匹敵する高感度である。

 もう1つの候補であるダークフォトンでは、さらに有望な結果が出た。

 同じ理論をダークフォトンに広げて同じデータを調べたところ、ダークマター起源の可能性がある未知の信号が複数見つかったのだ。

 見つかった信号が実際に何であるかは、まだ分かっていない。

 今後の詳細な検証次第では、ただのノイズとして消え去ってしまう可能性もある。 

 研究チームは今後、世界各地の観測所で同時に観測して確かめる計画だ。

 アクシオン由来の信号なら観測する場所ごとに特徴が変わり、ダークフォトンなら場所による違いはほとんど出ない。

 その差を見れば、信号の正体もダークマターの種類も見分けられるかもしれない。

 低い周波数さえ観測できれば、この方法はどこでも使える。

 巨大な実験装置を新しく建てなくても、世界中にすでにある観測網がダークマターの検出器になる可能性があるのだ。

References: 地球磁場観測から探る宇宙のダークマター[https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2026-08-07-1] / Searching for dark matter with the world's biggest detector | EurekAlert![https://www.eurekalert.org/news-releases/1138855]

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