アメリカ・ニューヨーク市の公立学校で、中学2年生以下の生徒に対するChatGPTなどの生成AIの利用が1年間全面的に禁止されることになった。
AIがまだ発達段階にある子供の認知能力やメンタルヘルスに与える悪影響を懸念してのことだ。
学校では人間同士のつながりや、自立した思考力を育むことが不可欠だと判断された。
一方で高校生に対しては、一部の試験プログラムや正しい扱い方を学ぶ授業に限定して導入される。
全米最大の学区が打ち出した新たな規制は、教育現場におけるAIとの向き合い方を示す一つの基準となった。
NY市、中学2年生以下の生成AI使用を全面禁止
アメリカ・ニューヨーク市の公立学校が、2026年9月2日、2026年から2027年の学年度に向けた新しい教育方針を発表した。
2歳児クラスから、日本の中学2年生にあたる8年生までのすべての生徒を対象に、生成AIの使用を1年間全面的に禁止する「一時停止」を実施する。
市が2歳児向けに用意している無償の保育プログラムまで含まれるため、規制は幼稚園に上がる2年も前の段階から始まる。
入力した指示に応じて文章や画像を作り出すツールは、すべて制限の対象となる。
以前は承認されていた38以上の教育プログラムについても、AI機能が無効化されるか、使用そのものが取りやめになる。
ただし、どの製品が該当するのかは公表されていないが、9月10日の新年度始業日のわずか8日前の発表だった。
AIチャットボットの使用は全学年禁止、スクリーンタイムも制限
さらに、感情的および精神的なサポートを目的とする対話型のAIチャットボットは、2歳から18歳までの、全学年で利用が禁止となる。
他に、個人用のスマホやタブレットなどの画面を見る時間(スクリーンタイム)も制限される。
小学2年生以下は1人で端末に向かうことが禁止され、小学3年生から中学2年生までは1日30分から45分未満が推奨される。
ただし、障害のある生徒の学習をサポートする特別な支援ツールや、英語を学習中の生徒のための利用には例外が認められている。
プログラミングなど、仕事に直結する技能を学ぶコースでの利用も認められた。
教師によるグループ指導や、授業計画などの事務作業におけるAI利用は、引き続き許可される。
子供の発達におけるAIの悪影響を懸念
ニューヨーク市が厳しい措置に踏み切った背景には、子供の成長と精神健康(メンタルヘルス)に関する懸念がある。
ニューヨーク市のゾーラン・マムダニ市長は、子供たちが学び成長するためには、教師や人間同士のつながりが必要不可欠であると強調した。
子供たちは仲間と一緒にスキルを身につけ、自分自身の力で難しい問題に取り組む経験を積む必要がある。
テクノロジー業界はAIを活用した早期教育が必要だと主張しているが、ニューヨーク市は完全に異なる見解を示した。
近年は宿題のサポートやメンタルヘルスの相談をAIチャットボットに頼る若者が増加している。
しかし、発達段階にある子供の脳にAIがどのような影響を与えるかは、いまだ十分に解明されていない。
心理学者たちは、子供や若者が「AI精神病」と呼ばれるメンタルヘルスの悪影響に対して特に脆弱であると警告している。
未成年者がチャットボットを継続的に使用した結果、悲劇的な結末を迎えた事件も実際に起きている。
AIチャットボットの利用が増えると認知能力が低下する可能性を示した研究[https://www.mdpi.com/2075-4698/15/1/6]も報告されている。
ニューヨーク州のキャシー・ホークル知事は、発表の直前に出演したポッドキャスト番組で、若者がAIチャットボットを相手に本当の人間と関係を築いていると思い込まないよう歯止めが必要だと語り、テクノロジーは政府が規制すべき分野だと述べている。
高校生には試験プログラムとAIリテラシー教育を実施
一方で、高校生に対してはAIを完全に排除するのではなく、正しい付き合い方を学ばせる方針がとられる。
すべての高校生は、学年度中に45分間の「AIリテラシーモジュール」と呼ばれる授業を2回受ける。
授業では、生成AIの仕組みをはじめ、偏見や誤情報、倫理的な問題、将来の職業への影響などについて、批判的思考を用いて学ぶ。
さらに一部の生徒は、教師の監督のもと、承認済みの5つの試験プログラムを通じてAIを利用できるようになる。
試験プログラムには、英語の文章分析を支援する「クイル(Quill)」や、数学の授業をサポートする「エディア(Edia)」が含まれる。
AIが導き出した答えの偏りを検証する「プレイラボ(Playlab)」なども導入される。
いずれも生徒に汎用チャットボットを自由に使わせるものではなく、利用時間はクイルが週15分以内、エディアが週20分以内という形で、ツールごとに細かく決められている。
試験プログラムに参加できるのは普通クラスの高校生およそ5万人までで、1つの高校につき最大5クラスという上限も設けられた。
連合組織の設立と教育現場におけるAIとの向き合い方
ニューヨーク市の公立学校は全米最大の学区であり、今回の新しいルールは約60万人の生徒に影響を与える。
同市は2023年1月に学校のネットワーク上でChatGPTをブロックしたが、4か月後の5月には方針を転換し、実験的な導入へと舵を切っていた。
当時の教育長は、遮断は反射的な恐れであって、AIの可能性を見落としていたと認めている。
3年を経て市長も教育長も入れ替わり、市は再び規制する側に戻った。
今回はすべての生徒に同じルールを適用するのではなく、年齢に応じて明確な基準を設けている。
1年間のモラトリアムは最終的な決定ではなく、AIが子供に与える影響を調べるための一時的な措置である。
ニューヨーク市は、生徒や教師、保護者、専門家などで構成される新しい「学校におけるテクノロジー連合」を設立する。
連合が1年をかけて高校での試験プログラムの有効性や制限の影響を評価し、今後の対策を検討していく。
カリフォルニア州ロサンゼルスなど他の主要な学区でも、生徒が基礎的なスキルを身につける前にAIに頼ることを防ぐため、教室での利用制限を強化する動きが出ている。
全米で2番目に大きいロサンゼルス統一学区[https://laist.com/news/education/lausd-students-barred-artificial-intelligence-tools]は、ニューヨーク市と同じ9月2日に、学校が配った端末から生徒が生成AIを使えないようにしたと明らかにした。
自立した思考力が育つまではAIから子供を遠ざけるというニューヨーク市の取り組みは、どのような結果をもたらすのか?
結果次第では、1年間禁止の動きは延長されるかもしれない。
References: Mayor Mamdani and Chancellor Samuels Put Students First with Nation’s Broadest Generative AI Moratorium in Schools - NYC Mayor's Office[https://www.nyc.gov/mayors-office/news/2026/09/mayor-mamdani-and-chancellor-samuels-put-students-first-with-nat]











