透明書店 店長 遠井大輔さん

最近、本屋さんに行ったのはいつですか? ネット書店で買ったり、電子書籍で読んだりが主流で、もうしばらく店舗には行ってないな……なんて方も多いのではないでしょうか。
お目当ての本を検索して購入するのであればそれで十分ですが「書店」という場所の魅力は、検索ワードだけでは辿り着けない思いがけない出会いがあること。この連載では、全国のさまざまな店舗で働く書店員さんが、プロの目線で担当ジャンルの「お金の本」をセレクトします。


今回お話を伺うのは、東京・蔵前にある「透明書店」の店長、遠井大輔さんです。“スモールビジネスを深く理解し、応援する”をミッションとしたユニークな本屋さんが選ぶ、今こそ読んでほしい「お金の本」とは?

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未経験のミュージシャンが店長になるまで

私が店長を務める「透明書店」は、2023年4月にオープンしました。実は、この書店の母体は、クラウド会計ソフトなどを提供するIT企業・freee(フリー)なんです。
自社のビジネス規模が大きくなるにつれて、freeeの利用者の多くを占めるスモールビジネスを営む人々の気持ちが理解しにくくなっているのではないかという課題感から、自ら商いを実践し、その喜びや工夫を理解しようと生まれました。
「透明書店」の名の通り、実際に本屋さんをやってみた収支や経営状況なども明け透けに公開。これらを通して、スモールビジネスをされている方や、これからスモールビジネスをやってみたい方にちょっとした刺激をもたらし、応援できればという気持ちで日々営業しています。

自分たちの経営状況を公開!? スモールビジネスを応援する書店が選ぶ「お金の本」


自分自身はもともと本が大好きだったのですが、これまで音楽をやってきた人間で(2005年よりトオイダイスケ名義で音楽活動)出版や書店業界はまったくの未経験。そんな私が今に至る最初のきっかけは、ある日、透明書店の企画段階から携わっていた出版関係の知人が、「本が好きで、本屋さんに興味がある人いませんか?」という詳細不明の“ひみつの求人”をSNSで投稿していたことでした。なんだか面白そう! 気になる! と手を挙げたことで、こんなふしぎなたのしい人生になっています。
選考面接の際にはテーマ別の選書の課題が与えられたのですが、熱が入りすぎて長文で語ってしまって……(笑)。自分の好きなものやこだわりを語るエネルギーを面白がってもらえたようで、気づけばひとり店長として採用されることになりました。

本屋は本を売るだけではない 出会いや交流も

オープンして3年が経ち、当店の売れ筋はいわゆる全国的なベストセラーとは全く異なります。当初は実用的なビジネス書を多く置いていたのですが、蔵前の土地柄は街歩きを楽しむ方が多いこともあり、現在では実用書は半減。気軽に読めるエッセイや、個人や小さな出版社が作るZINE、リトルプレスなどがよく手に取られています。

ZINEやリトルプレスは、小規模少部数の出版でスモールビジネスの原点と言える側面もあると考えていて、積極的に取り扱っています。

自分たちの経営状況を公開!? スモールビジネスを応援する書店が選ぶ「お金の本」


そして、ただ本を売るだけの場所ではなく、新しい出会いや交流が生まれる場を目指しています。その象徴のひとつが、店内にある「シェア本棚」です。
独立系書店の中にある“独立したい系書店”をコンセプトに掲げ、いつか書店を開いてみたい人、何らかのスモールビジネスを始めたいと思っている人などに、30センチ四方の棚を貸し出しています。
各棚のオーナーが好きな本や自作のZINE・雑貨を自由に販売しており、文房具やハンドメイドグッズ、あみぐるみまで! ここでの経験を経て、実際に独立して書店を開業された方もいるんですよ。
シェア本棚があることで、棚主さん同士の交流も生まれ、単なる「モノを売る空間」から、人が交わる場としての機能が生まれていることがとても有意義だと感じています。

自分たちの経営状況を公開!? スモールビジネスを応援する書店が選ぶ「お金の本」


今こそお金の根底を問う、骨太な人文書

今回は「お金の本」がテーマですが、恥ずかしながら個人的には普段そこまで読むジャンルではなく……。だからこそ、ノウハウやハウツーではなく「そもそもお金とは何か?」をさまざまな視点から考えられる3冊を選んでみました。
まずは、柄谷行人の『定本 力と交換様式』。哲学者・文芸評論家である著者が、お金や貨幣がどのように人をコントロールし、世の中を動かしているのか、またその力はどこから発生しているのかを、マルクスの資本論や歴史の根底から問い直しています。

自分たちの経営状況を公開!? スモールビジネスを応援する書店が選ぶ「お金の本」
『定本 力と交換様式』(柄谷行人/岩波書店)

個人的な思い出で恐縮ですが、私は高校生の時に同じ著者の『倫理21』(平凡社)を読んだことがきっかけで、人文系の本や文学評論に強く興味を持つようになったんです。だからこそ思い入れも深く、この本を選びました。
硬派で骨太な1冊ですが、今の競争社会の中で、日々一直線にビジネスを頑張っている方にこそ、読んでみていただきたいです。

「頑張って働かなければ」「お金を稼がなければ」などの日常のサイクルから一歩引いて、人間の思考や経済の仕組みを大局的に考えるきっかけになるはずです。

お金は怖くない!恐怖心や抵抗感をなくす

2冊目は、田内学さんの『きみのお金は誰のため ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』です。こちらは先ほどの本とは打って変わってやさしい文章。ふりがなが振られた小説形式で非常に読みやすく、小学校高学年くらいから楽しめる一冊です。

自分たちの経営状況を公開!? スモールビジネスを応援する書店が選ぶ「お金の本」
『きみのお金は誰のため ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』(田内学/東洋経済新報社)

著者の田内さんは、証券会社でトレーディングに従事していた方。経済や投資に詳しくない私のような人にも、お金や経済の基本がとても腑に落ちるように書かれています。
お金に対して漠然とした恐怖感を持っていたり、稼ぐことになんとなく抵抗感があったりする人が、そこから脱却するのに持ってこいの本だと思います。「お金は目的ではなく、人間の営みをつなぐための手段である」。そんなシンプルな真理をやさしく教えてくれます。

「お金信仰」の次の時代にいくには?

3冊目にご紹介するのは、ヤマザキOKコンピュータさんの『お金信仰さようなら』。
著者は、パンクロック系のバンドマンや投資家など多様な顔を持つ方で、この本もご自身で立ち上げた小さな出版社から発行されています。『くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話』(タバブックス)に続く2冊目の著書で、前作に続きアーティスティックな装丁が目を惹きます。

自分たちの経営状況を公開!? スモールビジネスを応援する書店が選ぶ「お金の本」
『お金信仰さようなら』(ヤマザキOKコンピュータ/穴書)

印象的だったのは、お金を稼ぐことを第一の目的にするのではなく、商売を通じて人と関わり、その場を楽しむことを優先する「活気主義」の考え方です。
たとえば、昔の商店街が利益度外視で安く売ったりおまけをしたりしていたのは、そのやり取りで生まれるお客さまとのにぎやかな交流を楽しんでいたことや商店街のメンバーで頻繁に旅行に出かけていたことなど、損得勘定を超えて商売やその延長としての活動に取り組むことについて、関わる人の「活気」を大切にしていたと説明しています。

利益ばかりを追い求める「お金信仰」から離れ、コミュニティでのつながりや楽しさを大事にすることで得られる豊かさが提案されています。
日々書店という商いの現場に立つ私自身、売上はもちろん大事ですが、まずは「自分たちが楽しい気持ちでお客様や近所の方たちと接する」という本質を手放してはいけないなと、改めて気づかされました。

夜中の無人営業、個人向けの選書…続く挑戦

スモールビジネスを応援すると言うからには、我々自身も新しい挑戦を続けていかないといけません。そのうちのひとつ、2025年春から始めた施策がテクノロジーの力で実現した「無人営業」です。有人営業時間(原則木・金・土・日・月曜12~19時)以外の夜間や早朝に自由に入店し、本を購入できます。

自分たちの経営状況を公開!? スモールビジネスを応援する書店が選ぶ「お金の本」


やってみてわかったのは、夜中や朝方に「落ち着いた気持ちになれる場」を求めている方は予想以上に多いこと。ゆっくりと静かな店内で過ごしながら、じっくりと吟味して買っていくお客様が多く、夜中に何冊も人文書が売れることもあるんですよ。街の静かなサードプレイスとして機能している手応えがあります。
最近スタートしたのは「個人向けの選書サービス」です。カルテ形式で「今悩んでいること」「どんなスタイルの文章が読みたいか」「どんな気持ちになりたいか」などを記入していただき、それをもとに5冊ほど本を提案する仕組みです。遠方の方からのご依頼も多く、購買にもつながっています。「本を通じて新しい出会いを提案する」、そんな目指すべき書店の役割を違う形でお届けできていると感じています。


本屋という場でできることはきっとまだあるはず。人と人がゆるやかにつながる。多様な生き方や価値観に触れる。そんな体験を楽しみに、ぜひお近くにいらした際は遊びに来てください。

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