舞台に立つと、空気が変わる。聞き手の体を持ち上げるような伸びのある声、耳の底を熱くする湿度のある声、ブルージーにざらつく声、包み込むような柔らかい声、歌詞の世界を立ち上げる劇的な声。
幾つもの表情を持った声が客席へ流れ込む。金武町出身のジャズシンガー安富祖貴子がデビュー20周年を迎え、「ジャズは広過ぎる世界」と朗らかな笑顔を見せた。(社会部・真栄里泰球)

ソウルフルに歌う安富祖貴子(提供)
デビュー20周年を迎えインタビューに答える安富祖貴子=6月9日、那覇市久茂地・沖縄タイムス社(當山学撮影)

 2006年、アルバム「魂/Kon」でデビューし多くの賞を受けた。しかし安富祖は「周りがすご過ぎて、圧倒されていた。どうやって追いつけばいいのか分からなかった」と振り返る。全力で歌い続け、アルバムは6枚を数える。20周年記念のショーで司会を務める狩俣倫太郎は「誰とも違うんですよ。本当にスペシャル。『歌うってこういうことなんだ』と思わせてくれるシンガー」と語る。フェスやライブで積み上げてきた20年が、その言葉の背後にある。
 もともとはクラシックピアノを学んでいた。学校にジャズ科があっても「まったく興味がなかった」という。
友人に渡された「ミスティ」の譜面、テレビで見た大西順子の演奏―そうした出会いが少しずつ扉を押し開けていった。

安富祖貴子(提供)

 それでも、ジャズデビューの誘いを受けた時は断るつもりでいた。「こんな厳しい世界は無理だと思っていた」。背中を押したのはニーナ・シモンの「ボルチモア」だった。「何も言えないぐらいすごい。最初は声にだけ集中して、ずっと聴いていました」。感動が、迷いを上回った。
 ジャズの現場では「見て学べ」が原則だったという。名だたるプロデューサーや演奏家に囲まれ、「どうやって消化しようかという毎日」だったと振り返る。「自分が没頭して何かを捕まえていかないと、扉は開けないんです。だからもう必死でした」。音との向き合い方だけでなく、人との関わり方も、すべて現場の中で学んでいった。


安富祖貴子(提供)

 ジャズにとどまらず日本の歌やブルースにも挑んできた。「わからないから、やってみたら見えるだろうとチャレンジさせてもらった」。自分だけの音楽の幅を作っていった。
 楽曲をアレンジするときは、歌詞を丁寧に読み込む。「曲を先にしてしまうと、歌詞が置いてけぼりになる。歌詞からやると、大事に丁寧に温められるんです」。何げない一節でも、自分の感情と重ねながら、どう届けるかを考え続ける。言葉を温め続けるうちに、曲の核心が見えてくる。その積み重ねが安富祖のアレンジだ。

20周年記念のディナーショーへ意欲的な安富祖貴子=6月9日、那覇市久茂地・沖縄タイムス社(當山学撮影)

 20年歌い続けて、ジャズはなお「広過ぎる世界」だと言う。知らない表現もたくさんある。「私はどんなふうになるんでしょうね」と少し思案した後、「根っこだけは大事にしたい」と再び明るい笑顔を見せた。

【出演情報】
安富祖貴子のデビュー20周年を記念するディナーショーが20日午後6時半から、那覇市の沖縄ハーバービューホテルで開催される。安富祖は「支えてくださった方への恩返しみたいな気持ちです」と話した。「ワークソング」「テネシーワルツ」「マイ・ウェイ」などを歌う予定で、弾き語りも披露する。問い合わせは同ホテル、電話098(853)2114。
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「ジャズは広過ぎる世界」 幾つもの表情を持つ声で魅了 安富祖貴子、デビュー20周年の境地
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「ジャズは広過ぎる世界」 幾つもの表情を持つ声で魅了 安富祖貴子、デビュー20周年の境地
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