急な土砂降りに遭わないためにできることはあるか。雲研究者で気象庁気象研究所主任研究官の荒木健太郎さんは「台風の“予報円”の意味をご存知だろうか。
『円の外=雨が降らない』と安心している人もいるかもしれない。しかし、それは大きな誤解だ」という――。
※本稿は、荒木健太郎『すごすぎる天気の図鑑 防災の超図鑑』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■連なると、集中豪雨を起こす「線状降水帯」に
大雨のニュースで「線状降水帯」という言葉をよく耳にするようになりました。
線状降水帯とは、積乱雲が風上側で次々と発生し線状に連なる雨雲のまとまりや雨域のことで、集中豪雨をもたらす原因となります。
通常は一つの積乱雲につき数十mm程度の雨量(降水量)の雨を降らせますが、線状降水帯が形成されると狭い範囲に長時間の強い雨が続き、雨量が百~数百mmにもなることがあります。
線状降水帯は梅雨期の九州地方や西日本の太平洋側などで多く発生していますが、全国どこでも起こりえることを知っておきましょう。
気象庁は気象レーダー観測などで線状降水帯の発生がわかると、「顕著な大雨に関する気象情報」を発表します。
このようなときは、水害の発生する危険度が急激に高まっている状況なので、気象庁の「雨雲の動き」「今後の雨」で線状降水帯の位置がわかるので確認を!
一方で、線状降水帯の予測はまだ難しく、気象庁が半日前から発表する発生予測も、当たるのは4回に1回程度と見込まれています。
線状降水帯の予報の有無にかかわらず、大雨が予想される場合は備えておくことが重要です。
■日本列島は“台風の通り道”になっている
毎年のように大雨や暴風の被害をもたらす台風。
その正体は、温かい海上で発達した積乱雲が多数集まり渦を巻いた熱帯低気圧で、最大風速が17.2m毎秒以上になったものです。

強さにも階級があり、気象庁の定義では最大風速33~44m毎秒未満が「強い台風」、44~54m毎秒未満が「非常に強い台風」、54m毎秒以上だと「猛烈な台風」になります。
最近では「スーパー台風」という言葉も聞くようになりましたが、これは米軍合同台風警報センターが決めた台風の階級の最も強いレベルの台風のことです。
猛烈な台風がやってくると暴風や高潮だけでなく、大雨の被害も起こります。たとえば2024年台風第10号では、東海や九州南部で総降水量900mm超の記録的な大雨も発生しました。
日本は台風の通り道で、夏には太平洋高気圧の風の流れに乗って台風が北上し、日本付近の上空を吹く西風(偏西風)に乗って、日本列島の真上を進みやすくなります。
今後も地球温暖化が進むことになれば、日本の南の海上で猛烈な台風の発生する割合が増え、さらに日本付近を通る台風の移動が遅くなるという研究結果があります。つまり、スーパー台風のような強い台風の影響が長期化する可能性があるわけです。
■“強い雨と風”以外の3つの脅威
「台風」と聞いて、読者のみなさんは何を思い浮かべますか?
台風による災害は、大雨や暴風だけではありません。
1.高波
まず、海の波が高まる「高波」です。台風が遠く離れていても影響します。
その場で吹く風によってできる風浪(波長の短い波)と、離れた場所でできた風浪が伝わってできるうねり(波長が長い波)をまとめて波浪といいます。
台風のように風が強く、規模の大きい現象では、台風から離れたところまでうねりとなって高い波が伝わります。

2.高潮
海面の水位(潮位)が高まる「高潮」も発生しやすくなります。
高潮は台風の接近などで気圧が低下して海面が上昇する吸い上げ効果と、強い風で海水が吹き寄せられて海岸の海面が上昇する吹き寄せ効果によって生まれます。
台風の進路のすぐ右側では両方の効果があるため、危険な高潮が起こりやすいのです。
3.竜巻
台風の周囲の雨雲がかかるようになると、進路の右前方で「竜巻」が発生しやすくなります。
台風は中心に近いほど風も雨も強く、「暴風」に警戒が必要です。とくに台風の進路のすぐ右側では、台風自身の反時計回りの流れに台風の移動速度が重なるので、最も風が強まります。
■「予報円」は「台風の大きさ」ではない
気象庁ウェブサイトの「台風進路予報」を確認し、住まいの地域の災害を想定しておきましょう。
「予報円」は台風の大きさではなく「予報された時刻に台風の中心がある確率が70%の円」。言い換えれば、予報円の外に台風の中心がくる確率が30%もあるということ。最新の台風情報をチェックすることが大切です。
2024年台風第10号の際には、台風の中心が九州地方にある段階で、東海地方が大雨に見舞われました。
台風は非常に多くの水蒸気を伴っており、台風本体の雨雲がかかっていない地域でも、台風自身の反時計回りの流れに乗って、南から多量の水蒸気が流入して山地の斜面で持ち上げられ、雨雲が発達して大雨になることがあります。

さらに台風の中心から1000km以上離れた場所でも、梅雨前線や秋雨前線などの停滞前線があると、大雨が発生することがあります。
この遠隔豪雨は、台風由来の多量の水蒸気が流入して前線の近くで雨雲が発達するのが主な要因です。
遠隔豪雨の後に台風の本体がやってくると、さらに雨量が増えて大規模な水害が発生することも。気象情報を確認して天気の変化に気をつけましょう。
■自然災害は日本全国どこでも起こる
大雨や台風による「水害」に絞っても、2012年~2021年の10年間だけで日本の約98%の市区町村で被害が起きています。
ほかにも、雷、雹、竜巻、猛暑、大雪、津波、地震、火山噴火などによる自然災害がたびたび発生しています。ひとつだけでも大災害になるところを、地震で被害を受けた地域を台風や豪雨が襲うといった複合災害まで起きているのです。
「いままで災害にあったことがないから大丈夫」という考え方も危険です。人は異常が起こると「自分は大丈夫」と思う正常性バイアスや、「みんなが逃げていないから大丈夫」と周囲の行動に合わせる多数派同調バイアスが働きがち。異常を感じたら率先して避難し、周囲の人にも呼びかけることが大切です。
過去に起こった災害は、未来にも起こる可能性があります。ましてや線状降水帯による集中豪雨やスーパー台風は、今後影響が深刻化する可能性が高い状況です。

しかし、むやみに怖がることはありません。防災とは自然を知り、正しくおそれ、向き合うことです。本稿が、みなさんと大切な人の命を守り、笑顔で過ごせる未来につながることを願っています。

----------

荒木 健太郎(あらき・けんたろう)

雲研究者、気象庁気象研究所主任研究官、学術博士

1984年生まれ。慶應義塾大学経済学部を経て気象庁気象大学校卒業。専門は雲科学・気象学。防災・減災のために災害をもたらす雲のしくみを研究している。映画『天気の子』(新海誠監督)気象監修、NHK『おかえりモネ』気象資料提供。著書に『雲を愛する技術』(光文社)、『世界でいちばん素敵な雲の教室』(三才ブックス)、『雲の中では何が起こっているのか』(ベレ出版)、『せきらんうんのいっしょう』(ジャムハウス)など多数。

----------

(雲研究者、気象庁気象研究所主任研究官、学術博士 荒木 健太郎)
編集部おすすめ