■全国から廃品家電が集まる解体工場
ガシャン、ガシャンという金属音と冷却ファンが回る音が不規則に重なり合う広い空間を、奥へ進んでいく。
愛知県名古屋市、佐川急便倉庫内の「スマイルファクトリー」には、毎日5000点程度の使用済み小型家電が運ばれてくるという。
「この工場では、全国から送られてきたパソコンや小型家電等のリサイクルとデータ消去を行っています。届いた機器はここで開封され、パソコン・スマートフォンと小型家電に振り分けられます」
工場内を案内する黒田武志さん(60)は、家庭内に眠る小型家電を回収し、含有されている金属資源を再利用するリサイクル企業、「リネットジャパングループ」を経営している。当初黒字化は難しいといわれていたものの、2024年9月期には約117億円のビジネスに成長している。
この工場は、全国から使用済み小型家電が集まる「終着地」だ。
荷物が届くと、まずは青いエプロン姿の従業員が荷物を開封し、パソコンに登録しつつそれぞれの場所に振り分けていく。パソコンやスマートフォンなどの記憶媒体を含む機器は、QRコードによる単品管理システムで追跡が可能だという。
■家電から希少な金属を取り出す
次のエリアには、パーセンテージが表示されたモニターが並んでいる。ここでは、「Blancco(ブランコ)」という国際的に認められた消去ソフトを使用し、ソフトウエアによる上書き処理によってデータの完全消去を実施している。
「電源が入る記憶媒体は、ここでデータ消去を行います。古い機器や、そもそも電源が入らないものは、次のエリアで『物理破壊』します」
記憶媒体となる基盤が、シュレッダーに吸い込まれていく。バリバリと金属を噛み砕くような音。
「すべてを物理破壊してはだめなのか」と聞くと、「リユースできるものは活用している」と答えが返ってきた。シュレッダーで壊せないものは、次のエリアで従業員が手作業で解体する。ねじを外し、金属をはがし、部品の素材によって分けていた。
作業着に青いエプロン姿の従業員が行き交うなか、黒田さんの背筋の伸びたスーツ姿はよく目立つ。かつて野心的な起業家だった名残か、柔らかく穏やかな口調に対して周囲を見渡す視線は鋭く抜かりない。
■ITバブル崩壊が、あと少し遅かったら
約25年前、黒田さんはITバブルの波に乗り、「日本のAmazon」を目指して起業した。目の前には楽天の三木谷浩史氏、ライブドアの堀江貴文氏など現在でも名高い起業家の背中があった。ITバブルの崩壊があと少し遅かったら、今ごろは……。
「ここで解体作業に当たっている従業員のなかには、ハンディキャップがある方もいるんです。現在は25名、全体の約3分の1ですが、事業が大きくなればなるほど、障がい者の方を雇用することができます。収益と社会性を両立し、『ビジネスを通じて偉大な作品を創る』。それが私たちの経営理念なんです」
不用品だらけの倉庫の中で、耳の奥に響く金属音にかき消されないよう、黒田さんは大声で夢を語った。
■「100人中99人に『無謀だ』って言われましたよ」
黒田さんは32歳でトヨタ自動車を退社し、1998年にブックオフコーポレーションの起業家支援制度第1号として、株式会社ブックオフウェーブを設立。2000年には中古書等宅配買取・EC販売の「株式会社イーブックオフ(のちにネットオフ株式会社に社名変更)」を立ち上げた。
かつては楽天の三木谷浩史氏やライブドアの堀江貴文氏のように、ITベンチャーを目指していた。「日本のAmazonになる」という野望を抱いて、若くしてトヨタを辞めたのだ。しかし、ITバブル崩壊、リーマン・ショックと立て続けに上場を阻まれ、事業売却まで考えていたころに出会ったのが、「都市鉱山」事業だった。
本格的にリサイクル業に参画したのは2013年、小型家電リサイクル法が施行されたころだ。
「事業を開始したときには、100人中99人に『無謀だ』って言われましたよ」と、当時を振り返る。
「都市鉱山」という言葉が示すとおり、パソコンやスマートフォン、小型家電のなかには金属資源が含まれている。
しかし、実際はそう簡単ではない。当時は体系的な回収・再資源化の仕組みが存在せず、小型家電の多くは粗大ごみや不燃ごみとして回収・廃棄されていた。携帯電話やパソコンは個人情報漏れの不安から、捨てられずに家庭内にそのまま眠るケースがほとんどだ。
■「都市鉱山」を阻んだ壁
回収したとしても含まれる資源金属はごくわずかでコストに見合わず、安定した収益モデルを作りにくいビジネスだったのだ。
「ビジネスモデルを確立することは、簡単ではありませんでした。しかし、私たちには宅配買取のパイオニアとして、中古本などの買取、販売を実施してきた実績がある。この仕組みを応用すれば、ビジネスとして成功させることは可能だという確信がありました。そして、一度課題をクリアしてしまえば、参入障壁は後続の企業を阻む壁となってくれるはずです」
2013年、都市鉱山リサイクル業を担うべく、黒田さんはネットオフの子会社として、リネットジャパン株式会社を立ち上げた。
最初に立ちはだかったのは、「認定事業者」の壁だった。
小型家電リサイクル法上の回収、解体、再資源化を行う事業者になるためには、環境省、経済産業省からの認定を取得しなければならない。しかし、当初の認定対象は中間処理事業者が中心で、回収業務は自治体が主体的に担うことが想定されていた。
「役所や公民館などに設置された回収ボックスに市民が自ら持っていくのが、想定されていた回収方法でした。しかし、いくら無料の回収ボックスがあっても、わざわざ持っていくのは面倒です。
さらに、パソコンや携帯電話の場合、データ漏洩の心配もある。処理業者がいても、回収できなければ意味がない。私たちの強みである宅配買取を生かさなければ、この制度は絶対にうまくいきません」
■資源の海外流出を止められなかった
その言葉のとおり、法律施行後も家電リサイクルはなかなか進まなかった。回収ボックスの設置や広報などは努力義務とされたため、財政余力のある自治体しか動けない。制度開始後しばらくは、回収業務を実施している自治体は全体の半数以下に止まった。
一方で、国内リサイクルよりも海外輸出の方が儲かる構造は変わらず、貴重な資源の海外流出の流れを止められなかった。
「ネットオフ」の中心事業は、中古書等の宅配買取とECサイトでの販売だ。2012年には1年間で最も多く中古本をインターネット販売した会社として、ギネス世界記録認定も受けている。
このネットリユース事業で培った全国規模の宅配買取ネットワークが、制度の「ラスト1マイル」となるはずだと、黒田さんは確信していた。
そこで、まずは多くの人に知ってもらうため、東京で大規模な記者会見を実施。
この事業が、会社を大きく飛躍させていくはず。同年10月、社名をこれまでのネットオフ株式会社から「リネットジャパングループ株式会社」に変更、都市鉱山リサイクル業を事業の中心に据えた。
■「送料無料」が突破口になった
次に立ちはだかったのは、黒字化の壁だった。
宅配回収サービス開始当初は、回収料金を980円に設定していた。しかし、実際にサービスをスタートしてみると、ほとんど申し込みがない。
「もう、1日10件程度しか申し込みがないんですよ。これでもギリギリ利益が出る価格設定にしているので、500件、100件なければ事業として成り立ちません。あれだけ許認可を取るのが大変だったのに……。考えてみれば、これまで無料回収が当たり前だったのだから、お金なんて払いたくありませんよね」
ユーザーにとっては、お金を出すなら欲しいものを手に入れたい。家に眠る不要物になどお金をかけたくない、というのが本音だろう。
1日10件から20件程度の申し込みの日々が1年ほど続き、遂に黒田さんは回収料金無料の決断に踏み切った。
「しかし、回収料金を単に無料にするだけでは、ビジネスは成り立ちません。回収にお金を払ってもらえないなら、他のサービスで収入を得るしかないと、ビジネスの発想を転換したんです」
まず考えたのが、パソコンや携帯電話のデータ消去サービスだった。パソコンが入っていれば回収料金は無料、一方でオプションとして有償データ消去サービスや消去証明書の発行、データ移行サービスなどを用意した。自分で段ボール箱を用意するのが面倒な人向けには、有料の段ボール提供サービスも開始した。
これが、顧客に刺さった。それまでの約20倍もの申し込みが殺到、メディアにも取り上げられたことで、徐々に売り上げは上がっていった。
■協力する自治体が少しずつ増えていった
2000円、3000円のオプションを付けたとしても、リサイクル事業は薄利多売のビジネスには違いない。ビジネスを効率よく運営していくためには、もう一手が必要だった。
「私たちのサービスはどこで売るのが最も効率よく、ニーズのあるお客様にリーチできるのか考え、『自治体発行のゴミ分別表』に思い至りました。お客様に安心して私たちのサービスを利用していただくには、自治体の行政サービスとしてお知らせするのが一番です」
家庭の冷蔵庫などに貼ってある、地域のごみ分別表。そこに、「小型家電回収の依頼先」としてリネットジャパンの連絡先が記載されていれば、その効果は絶大だろう。しかし、そのためにはまず自治体との連携が必要だ。
前例のない提案に、始めはどこの自治体も最初は二の足を踏んだ。しかし、黒田さんの熱心な説明を受け、本社所在地の愛知県大府市を筆頭に、ちらちらと協力者が現れ始める。
「潮目が変わったと感じたのは、福岡市から声がかかったことでした。高島(宗一郎)市長は、新しいことを積極的に取り入れている。そのアンテナに私たちの事業が届いたのでしょう。いきなり政令指定都市が参加してくれたことで、京都市、熊本市と、協定の輪は一気に広がっていきました」
情熱は波及する。リネットジャパンは、現在全国758を超える自治体と協定を締結し、実に9000万人もの人口をカバーする事業に発展していった。
■挫折経験が「資源のない国」を変える
日本の都市には金が約6800トン、銀が約6万トン蓄積されているという。いずれも世界埋蔵量の1、2割に相当するとされ、日本は「都市鉱山大国」とも呼ばれている。
ほぼすべての鉱物資源を輸入に頼る日本にとって、都市に眠る金属は「もう一つの鉱山」だといえる。資源価格の高騰や国際情勢の不安定化が続く昨今、国内の金属自給率を高めるための事業は、国策としてより重要視されていくだろう。
2000年代、黒田さんは「日本のAmazonになる」と、若さと勢いでトヨタを辞めた。しかし、成長と利益追求競争に破れ、時代の寵児になることはかなわなかった。キラキラと輝くITベンチャーの世界からはじき出され、黒田さんは不味くて誰も手を出さない、「都市鉱山」という実に手を伸ばした。
「社会にいいことでビジネスをするって、成り立たないと思われがちですよね。だから、ひとひねりするんですよ。アイデアと企画力さえあれば、両立するものなんです」
日本の家庭には、使われていない携帯電話やスマートフォンが約7億台眠っているという。窓の外には、広々とした濃尾平野を覆いつくすように、住宅街が広がっていた。
20年前、ITベンチャー社長として先頭争いをしていた黒田さんはいま、周回遅れで時代の最先端に立っている。
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宮﨑 まきこ(みやざき・まきこ)
フリーライター
立命館大学法学部卒業。2008年より13年間法律事務所勤務後、フリーライターとして独立。静岡県在住。
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(フリーライター 宮﨑 まきこ)

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