■親の介護で「やってしまいがちな3つの過ち」
元気だった親が突然倒れたら、どうすればいいのか。
何の備えもなければ慌ててパニックになるだろう。入院が長引くのも大変だが、退院が思ったよりも早くて、急いで介護体制を敷かなければいけないのもかなり大変だ。そんなとき、子どもがやってしまいがちな3つの過ちがあると、太田さんは話す。
① 入院、入所費用を自分が出してしまう
「まずひとつめは、お金を負担してしまうことです。ちょっとくらいなら負担してあげたい、と自分が出してしまう。こんなもんかなと思っていたら、予想外に入院が長引いたり、治療費がかさんでしまうケースも多いです。きょうだいの誰かが負担するなどの偏りがあると、問題は余計に根が深くなってしまうことも」
実例1 治療費だけにあらず、食事代や病衣レンタル代もかさむ
Sさんは80代の父親が入院したとき、「医療費は1割負担だし、高額療養費で戻ってくるから、そんなに高くはならないだろう」と高をくくっていた。Sさんの計算では月5万円くらいと踏んで、1~2カ月ならと自分の懐から出すことに。
医療費は確かに保険でカバーできる部分もあるが、入院には食事代や病衣レンタル代なども必要で、請求額は月10万円を超えた。そこからリハビリ病院に転院となったが、今度は半年の長期入院となり、また個室しか空いていなかったこともあり、合計150万円以上かかってしまったという。
退院後を考えると、これ以上は出せないと悟ったSさん。父の収支を改めて確認することになったそう。
■提示された入所費は月40万円
私事で恐縮だが、寝たきり・認知症・皮膚の難病、痰吸引も必要な要介護4の父を受けいれてくれるのは療養型病院しかなかった。費用を聞いたら「おむつ代 月7万円、病衣・タオルレンタル代 月3万2000円」。食費も別途かかり、差額ベッド代のかかる部屋しか空きがなく、入所費は月額約40万円! 経済的に無理だとあきらめた経験がある。
「入院や入所のコストは侮れません。医療には保険が使えますが、個室しか空いていない、などのケースもあり、そうなると、莫大な額となります。また、高齢者施設では、介護保険を利用することになります。要介護度が上がれば、自己負担も増えていきます。
親が10年、20年生きると想定して、収支を照らし合わせないと、子どもが経済的負担を強いられる状況に追い込まれてしまったり、要介護の親が退所を余儀なくされて行き場を失ってしまったりすることもあります。入院中であれば、後述する病院の医療ソーシャルワーカー(MSW)、介護関係のことであれば、親の暮らす地元の地域包括支援センターに相談しましょう」
■情けとお金は親のためならず
② 毎月振り込んで、親を経済的に援助する
遠方に住む親に対して、子どもがやりがちなのは経済的援助。よかれと思って親の口座に毎月振り込むと、残高が減らない。
実例2 月々の介護費用が逆に高くなってしまう
80代の父親は田舎にひとり暮らし、要介護度も徐々に上がってきた。遠く離れて住む息子のIさんは『せめて介護費用くらいは出してあげたい』と、毎月5万円を父親の口座に振り込み続けた。
元自営業だった父親は、年金は月6万円くらいで住民税非課税。本来なら特養でも月6~7万円で入所できる状況だった。
ところが息子が甲斐甲斐しく振り込んできたせいで父親の口座の残高は一向に減らない。
特養などの介護保険施設には、資産要件があり、住民税非課税でも、一定以上の貯えがあると軽減対象から外れる。父親の場合、口座に650万円以上あったため、軽減されないこととなった。Iさんによる献身的援助のせいで、月々の支払が10万円強になってしまったという。
親思いの善意が仇となる。やりきれない部分もあるが、この息子はどうすればよかったのだろうか。
「このケースでは、Iさんは、父親の口座に毎月5万円を振り込む必要はなかったのです。
■介護離職したのに2年で破綻
③ 離職して親の介護に専念する
親などの介護を理由に仕事を辞める「介護離職」は、おおよそ年間10万人ほど。介護の専門職の人たちは「離職をすれば、あなたの生活が困ることになる」と、とどめようとすることが多いが、子どもは「自分がやるしかない」と抱え込むケースがある。
「サービス利用や施設入居を拒否する親が多いです。すると、介護のお鉢は子にまわってきます。
1~2年なら頑張れるのかもしれませんが、介護期間は長期に渡ります。その間に、介護を行う子どもが健康を害したり、介護離職に至ったりで、親子ともども経済的に困窮してしまうケースもあります。なかには、『長男の責任』と自ら引き受ける人もいますが、これも思うようにはなかなか進みません」
実例3 ひとりで抱え込み、介護うつ状態に
40代のHさんは真面目な性格で、親思いの人だった。『母親を施設に入れるのは可哀想だ』と早期退職して実家に戻り、介護を始めたそう。『資格を取って実家で仕事をする』つもりだったが、田舎にそんな仕事はほとんどない。そもそも認知症の母親をひとりで介護をしていれば、時間や体力にそんな余裕はない。
想像を絶する大変な介護をひとりで抱え込んだ結果、ひどいうつ状態になってしまったという。2年で介護どころではなくなった。ところが、介護を継続できる状態ではないのに、それでも母親を施設に入れようとはしなかった。ケアマネジャーが役所に「介護困難」と通報したため、役所の措置という形で母親は特養に入れられることになった。
■「子のやさしさ」がうまく回るケース
「Hさんとは、母親が施設で亡くなった後にも会いましたが、Hさんは当時を振り返り、『自分でもあんなことになるとは思ってもいなかった』と言っていました。自分は大丈夫と思っていても、陥ってしまうのが介護うつなんです」
3つの「過ち」と書いたが、すべては親のためを思う子の優しさや責任感から生じているため、責めることはできない。ただ、今一度、確認しておいてほしい。予想以上に長期戦となりがちな親の介護を家族だけで担うのは限界があるということを。
太田さんは、介護についてこう説く。
「介護にまつわる情報を知っていることは、強みになります。親のためと思うなら、情で動くのではなく知識と情報を入手して、自分の生活を守る。知識をうまく活用できたケースもご紹介しましょう」
実例4 世帯分離で高額な医療費の負担を軽減できた
50代のKさんは独身で、80代の母親と同居していた。
■施設は可哀想ではない
「ある程度の規模の病院には医療ソーシャルワーカーが常駐していますが、医療や介護の現場は多忙です。すべての情報をこと細かく教えてくれるとは限りません。なので、可能な範囲で、高齢者医療や介護の周辺情報を調べてみることをお勧めします。知らない・わからない・おまかせします、では、損や後悔が生まれることに繋がりかねません。
『こんなことを言ってもいいかな』などと遠慮せず、困っていることをざっくばらんに相談すること。Kさんが医療費の負担が厳しいと包み隠さずに話したからこそ、医療ソーシャルワーカーも本腰で相談に乗ってくれたのではないでしょうか」
再び私事だが、父を7年間特養に入所させていた。それまでは母が介護を担う老々介護だったが、施設にいた方が父は安全だと思ったからだ。当初、母は「可哀想」と言っていたが、父不在の快適な生活にすぐ慣れた。
「実は、高齢の方だけでなく、若い世代でも『施設=可哀想な人が入るところ』という風に考えている方はいます。家族が面倒をみないのは可哀想、という発想のようですが、根底に『家族が面倒をみるべき』という思い込みがあるのかもしれません。
『育ててもらった恩返し』『同居は最高の親孝行』といった言葉は美談にされがちですが、家族だけで何とかしなければ、と思わせる危険性をはらんでいると思います」
■自分の介護はプロに任せてOK
孝行や恩返しという情の部分は脇に置いて、自分にできること・できないことを整理する。これは親も子も同じ。
「『親の介護は子の義務。自分の人生は我慢するしかない』と考える人もいます。しかし、それは思い違いです。確かに、子には親に対し『扶養義務』はありますが、主に経済面での支援を指しています。しかも、未成年の子を監護教育する生活保持義務と違い、親に対しては『自分たちの生活を維持した上で、かつ親の面倒をみるだけのゆとりがある場合に生じる』とされています。生活扶助義務ですね。できることを、できる範囲ですればいいのであって、介護義務はありません。
子の立場の人は、『家族だけで何とかしなければ』と思い詰めることをやめましょう。プロの手を借りることは、何も介護を放棄することではありません。一方、親の立場の人は、子に対し、『あなたは、あなたの人生を大切にしなさい』と伝えることから始めましょう。そして可能な範囲で自分介護を。子に伝えておかないと、いつか『おふくろのため』と仕事を辞めて戻ってきてしまうかもしれませんよ。それは、親子双方にとって、良い結果を生まないのではないでしょうか」
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吉田 潮(よしだ・うしお)
ライター
1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より東京新聞の放送芸能欄のコラム「風向計」の連載開始。テレビ「週刊フジテレビ批評」「Live News イット!」(ともにフジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。
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太田 差惠子(おおた・さえこ)
介護・暮らしジャーナリスト
京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材。「遠距離介護」「高齢者住宅」「仕事と介護の両立」などの情報を発信。AFP(日本FP協会)の資格も持ち「介護とお金」にも詳しい。一方、1996年遠距離介護の情報交換場のNPO法人を立ち上げて子世代支援(~2023)。著書に『親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと 第4版』『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本 第3版』(以上翔泳社)『遠距離介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版)『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門第2版』(共著、KADOKAWA)など。
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(ライター 吉田 潮、介護・暮らしジャーナリスト 太田 差惠子)

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