※本稿は、佐藤優『定年後の日本人は世界一の楽園を生きる〈実践・成功編〉』(Hanada新書)の一部を再編集したものです。
■立ち飲み屋は最高の「サードプレイス」
腎臓移植手術をする前まで、私はときどき一人で立ち飲み屋さんに寄っていた。というのも、立ち飲み屋さんは時代を映し出す鏡と思っているからだ。そこで、お客さんが話す内容を聞くだけで、いま日本で進行中の諸々の問題が浮き彫りになる。
私の経験では、そういう場所での話の内容は、だいたい2つに分けられる。一つは、会社に見る目がないため自分が冷や飯を食わされている、というもの。もう一つは起業の話だ。いずれにせよ、ほとんどがビジネス、経済、政治の話だ。定年後の人たちなら、そこに一人でいて新機軸の話題を聞いたとしても、「自分は取り残されている」などと感じないはずだ。
また孤独も感じないはず。もう切った張ったの出世争いもないのだから。
■孤立だけでなく認知症予防にもなる
「サードプレイス」としての主な効用は、以下の通りである。
①社会的孤立の防止と心地よい交流
・「敬老原則」から解放される場所:年齢や過去の肩書など関係なく、対等に話せるフラットな空間である。
・希薄な人間関係:深い付き合いが求められず、その場かぎりの会話が心地よい。適度な距離感でのコミュニケーションを楽しむことができる。
・居場所の確保:家庭や会社以外の居場所を持つことで、定年後の孤独や寂しさを埋めることができる。
・地域のハブとしての役割:地域の情報交換の場として機能しており、定年後の人たちが一人の人間として社会とつながり直すために、最もハードルの低い社交場となる。
②安価で健康的に生活のメリハリがつけられ認知症予防も実現
・「生活の区切り」をつける場所:1日の終わりや仕事・趣味のあとなどに行けば、立ち飲み屋や居酒屋は日常にメリハリをつける場所となる。
・経済的な負担が少ない場所:安価な海鮮や一品料理が提供され、年金生活者でも気軽に立ち寄れる。
・食の多様化:旬の食材など、一人暮らしや高齢者世帯においては準備が大変なものを、少量から楽しめる。
・脳の活性化:店主や他の客との会話、あるいは季節ごとのメニュー選びなどによって、脳が刺激されるので、認知症の予防に役立つ。
■日本人の寿命を縮める「座りっぱなし」
③適度な体力の維持と認知症の予防
・立ち続けることの効用:座りっぱなしの生活を避け、足腰に適度な刺激を与えることができる。
オーストラリアのシドニー大学などによる、世界20カ国を対象とした平日の総座位時間の調査(2011年)では、日本人の平均座位時間は1日7時間で、サウジアラビアと並んで世界最長だった。世界平均の5時間と比べて2時間も長く、生活習慣病や死亡リスクを高める「座りすぎ」が健康上の大問題となっている。この「座りすぎ」が健康に及ぼす影響は大きい。まず死亡リスクの上昇。
1日8時間以上座り続けると、死亡率が上がるという研究データがある。そして11時間以上となると、4時間未満に比べて、40%も高まる。当然、病気の発症リスクも高まる。長時間の座位は血流や筋肉の代謝を低下させ、心筋梗塞(こうそく)、脳血管疾患、肥満、糖尿病、ガン、認知症などのリスクを高める。対策としては、30分から1時間おきに立ち上がる、スタンディングデスクを活用する、こまめに歩く、などが挙げられる。
④自己肯定感の維持
・「ちょっと贅沢(ぜいたく)な晩酌(ばんしゃく)」「馴染(なじ)みの店」:自分らしい生活を楽しんでいるという満足感が得られる。
結論。立ち飲み屋さんは、定年後の人たちにとって、「ポジティブな酒と交流を楽しむ至福の時間」が得られる健康増進の場所なのだ。
■損得勘定も利害関係もないからいい
人間社会も森羅万象も、すべてが関連し合っている。どれ一つとして完全に独立して存在するものなどない。恩に報いるなどと言うと大仰(おおぎょう)に聞こえるが、その関係性に気づけば、私たちの気持ちも行動も、自然に変わっていくのではないだろうか。
そして定年後の日本人にとって、経済合理性、すなわち損得勘定(かんじょう)や仕事の利害関係から外(はず)れた人間関係を築くことには、単なる「暇つぶし」を超えた、心身の健康と幸福に直結する大きなメリットがある。
主なメリットは以下の通りだ。
①心身の健康維持と長寿:ハーバード大学の80年以上にわたる成人発達研究によると、人生の幸福度と健康を決定する最大の要因は「良好な人間関係」である。損得抜きのつながりはストレスを軽減し、心血管疾患や糖尿病などのリスクを下げ、結果として寿命を延ばす効果があることが示し唆さされている。
②「社会的孤立」の回避と孤独感の解消:仕事上の利害関係に基づいた関係は、退職と同時に消失しがちだ。地元のサークルやボランティア、あるいは趣味の会といった「サードプレイス(第3の居場所)」で築く関係は、会社名や役職に依存しない「自分自身」に居場所を提供してくれる。
■人生で最も幸せを感じる年齢は「70歳」
③幸福度のピークへの到達:ドイツのケルン体育大学やルール大学ボーフムなどと、スイスのベルン大学やバーゼル大学などの共同研究チームが、様々な国や文化圏の約46万人を対象に大規模なリサーチを実施した。主観的幸福の三大要素である「人生への満足度」「ポジティブな感情」「ネガティブな感情」に焦点を当てたこの研究によると、人が一生のうちで最も幸せを感じる年齢は70歳。この時期に「同じ志を持つ仲間」と支え合うことは、ポジティブな感情をさらに高める重要な要素となる。
④自己有用感と新たな役割の獲得:経済合理性を離れた活動、すなわち地域貢献や次世代の育成などを通じ、「誰かの役に立っている」という実感を持ち続けることができる。これは仕事での評価といった外部的な価値観ではなく、自分自身の有り様を認めるためのプロセスとして機能する。
⑤多様な価値観への接触による「知の刺激」:仕事関係以外のコミュニティ、たとえば多世代交流の場や異業種の人材が集まる場に参加すれば、現役時代には触れることのなかった新しい知識や視点に出会う。すると精神的な若々しさを保つことができる。
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佐藤 優(さとう・まさる)
作家・元外務省主任分析官
1960年、東京都生まれ。85年同志社大学大学院神学研究科修了。2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で国策捜査の裏側を綴り、第59回毎日出版文化賞特別賞を受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。
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(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優)

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