集中力を高めるには、どうすればいいのか。下関市立大学教養教職機構の佐々木淳准教授は「集中が途切れるのは、自分の意志が弱いからではない。
そもそも根性や才能ではコントロールできないものだ。さまざまな研究から導かれた“正解”をぜひ試してほしい」という――。(第3回)
※本稿は、佐々木淳『科学的根拠+αで成果を出す 戦略的勉強法』(あさ出版)の一部を再編集したものです。
■「散らかったもの」を見ると集中力↓
体を動かすと集中力が上がることが、研究で分かっています。ただ、「運動は正直、面倒」と感じる人もいると思います。そんな人におすすめしたいのが、「短時間の掃除」です。掃除なら、運動ほどのハードルが高くなく、しかも環境を整えながら脳を「勉強モード」に切り替えることができます。
UCLAの研究では、生活空間が散らかっている人ほど、朝と夜で変化するはずのコルチゾールのリズムが小さくなりやすいと報告されています。つまり、1日中「頭がシャキッとしない状態」が続いてしまうのです。
また、カーネギーメロン大学の研究に、教室の環境を意図的に変えた実験があります。壁面装飾が多く、視覚情報にあふれた教室は、一般的な普通の教室に比べて注意がそれやすく、学習の伸びが小さくなる傾向が見られました。
視界に入る多くの情報が、集中を妨げていたのです。

誘惑を目にすると我慢が難しくなるように、散らかった物を見続けることで集中力は削られます。だからこそ、勉強や作業を始める前に視界をクリアにすることには意味があります。
■「掃除」がウォーミングアップになる
掃除の効果は、環境を整えることだけではありません。掃除は、掃除機をかける、物を移動させる、机を拭くなど軽い身体活動を伴います。これは、軽度の有酸素運動にあたります。軽い有酸素運動の直後には、注意力や段取り力が一時的に高まりやすいことが複数の研究で示されています。
野球選手が試合前にウォーミングアップを行うように、勉強前に短時間の掃除を行うことは、脳にとっての準備運動になります。掃除は、脳の司令塔である前頭前野を目覚めさせる「ウォーミングアップ」なのです。
ミネソタ大学の研究では、整った環境に身を置くと脳が無意識に「規律」を意識するため、自制心が働きやすくなると報告されています。実際、散らかった部屋にいる人よりも、欲求を抑えた健康的な食事を選んだり、利他的な行動をとったりする傾向が見られました。
これは勉強や作業にも当てはまります。集中力は、個人の意志の強さだけでなく、環境によって決まります。
徹底的に環境を整理し、物の定位置を決める自衛隊のやり方は、「モノを探す」「気が散る」といった脳の無駄な負担をなくして、学習だけに集中させる、合理的なシステムなのです。
■スマホは「別室に置いておく」が正解
「勉強中にスマートフォンを触っていなくても、スマホが視界にあると成績は下がる」。
そう聞くと、少し意外に感じるかもしれません。しかし、スマホに関する研究はすでに多く行われており、科学的に確認されている事実です。スマートフォンを勉強する部屋から物理的に遠ざけることで、集中力は大きく変わるのです。
テキサス大学の研究では、大学生を3つの条件に分けてテストを行いました。スマートフォンを机の上に置いたグループ、ポケットやかばんに入れたグループ、別室に置いたグループです。なお、いずれも電源は切られていました。結果は3つのグループで成績に差が生じる意外なものでした。
最も成績が低かったのは机上に置いたグループで、最も高かったのは別室に置いたグループでした。ポケットやかばんはその中間の成績です。
この研究で注目すべきは、本人たちが「スマホの影響は受けていない」と感じていた点です。
それでも、成績に差が出ていたのです。この結果からわかることは、無意識のうちにスマホによって脳の処理能力(ワーキングメモリ)が奪われていたのです。
■電源・通知オフでは不十分
スマートフォンは操作しなくても、その場にあるだけで脳のワーキングメモリを消費するということがわかります。「電源を切っているから大丈夫」「通知をオフにしているから問題ない」。そう思うかもしれませんが、実際は異なっていたのです。
脳は、「見ないように意識する」「気にしないようにする」ことで、意識してしまいワーキングメモリに負荷をかけてしまうのです。しかも、その負担を本人が自覚しにくい。だから「手元スマホ」は効率的な勉強を行う上ではNG行為です。
スマホがもたらす、この負の効果を「ブレインドレイン効果」と言います。
私が勤務していた海上自衛隊では、スマートフォンは別室に置かれ、教場、事務室や自習室への持ち込みは禁止されていました。最初は手元にスマホがないと不安になる人もいますが、人間は慣れるものです。まずは、10分など時間を決めて手元から遠ざけてみてください。

スマートフォンは非常に便利な道具ですが、強力な誘惑になります。実際の学校現場でも、別室にスマホを置く効果が確認されています。イングランドの中等学校では、スマートフォンの持ち込みを禁止した結果、試験成績が向上したという報告があります。スマートフォンを「視界から消す」だけでなく、物理的に「外に置く」ことが、学習成果を押し上げたのです。
■集中力を持続させる3つの方法
いざ「集中しよう」と思っても、都合よく集中が持続できることは多くありません。それもそのはずで、集中は根性や才能でコントロールできるものではなく、環境や行動によって左右されるものだからです。
ここでは今日から使える「集中力を持続させる3つの方法」を紹介しましょう。
【①誰かと一緒に取り組むと集中力が上がる!】
心理学者ロバート・ザイアンスらが提唱した「社会的促進(Social Facilitation)」という現象があります。これは、一人で作業するよりも、他者がそばにいるほうが、パフォーマンスの向上が期待できるというものです。
特に、ある程度慣れた作業や単純な課題ではこの効果が出やすいと多くの研究で報告されています。一方で難しすぎる課題だと緊張して逆効果になり、注意が必要です。
例えば、勉強ならば「誰かと一緒に勉強をする」ことがサボりの防止になるのです。
「他者が見ているからサボれない」という思いが、私たちを集中させます。
【②30分ごとに「2分」歩くと眠気が覚める】
勉強や作業をしていると、ついつい座りっぱなしになりますよね。座りっぱなしは、集中力の天敵です。この天敵に勝つための方法のひとつは「歩く」ことです。
研究によると、30分ごとに2~3分軽く歩くだけで、座りっぱなしによる脳への血流の低下を防ぎ、眠気も覚めることがわかっています。
「30分集中→2分立って歩く」
例えばトイレに行く、水を飲みに行く、窓の外を見るなどで構いません。マイルールを作ることで達成しやすくなります。脳がリセットされ、次の30分の集中力が復活します。
■コーヒーのタイミングは「起床2時間後」「14時まで」
【③コーヒーは2つの時間を意識して飲む】
次に、集中力を高める飲み物についてお話します。皆さんも、カフェインの成分が入っているコーヒーには集中力を高める効果があることを知っているかもしれません。ただし、コーヒーは飲むタイミングが重要です。
ポイントは「起床2時間後」と「午後2時(14時)まで」という2つの「2のつく時間」です。
起床直後は「コルチゾール」という天然の覚醒ホルモンが出ています。このタイミングでカフェインを注入してしまうと一時的にはスッキリしても、コルチゾールのリズムを乱してしまう可能性があります。
そこで、コルチゾールが落ち着く「起床から約2時間後(9時~10時頃)」に、カフェインを注入することで覚醒効果を活かせるようになります。
一方、「午後2時(14時)以降」は控えることをおすすめします。カフェインには、体内の濃度が半分になるまでの時間である「半減期」があり、およそ5~6時間です。つまり、14時にコーヒーを飲んでも、その効果がすぐに消えるわけではなく、夜20時の時点でもまだ半分の量が体内に残っているのです。
睡眠の質を下げないための〆切の目安が「14時」です。朝のコーヒーは「起床2時間後」。午後のコーヒーは「14時(午後2時)まで」。この「2つの時間」を目安にカフェインを活用していきましょう。

(参考文献)

・行動のきっかけと努力・報酬系

Salamone, J. D., & Correa, M. (2012). The behavioral pharmacology of effort-related choice behavior: Dopamine, adenosine and beyond. Journal of the Experimental Analysis of Behavior, 97(1), 125–146.

・運動と脳の関係

Ratey, J. J. (2008). Spark: The revolutionary new science of exercise and the brain. Little, Brown and Company.

ジョン J.レイティ他(著), 野中 香方子(訳). (2009).『 脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方』. 日本放送出版協会.

・散らかった環境とストレス(コルチゾール)

Saxbe, D. E., & Repetti, R. (2010). No place like home: Home tours correlate with daily patterns of mood and cortisol. Personality and Social Psychology Bulletin, 36(1), 71–81.

・視覚情報による注意の逸れ

Fisher, A. V., Godwin, K. E., & Seltman, H. (2014). Visual environment, attention allocation, and learning in young children: When too much of a good thing may be bad. Psychological Science, 25(7), 1362–1370.

・整った環境と行動の選択

Vohs, K. D., Redden, J. P., & Rahinel, R. (2013). Physical order produces healthy choices, generosity, and conventionality, whereas disorder produces creativity. Psychological Science, 24(9), 1860–1867.

・ブレインドレイン効果(スマホの存在による認知能力低下)

Ward, A. F., Duke, K., Gneezy, A., & Bos, M. W. (2017). Brain drain: The mere presence of one’s own smartphone reduces available cognitive capacity. Journal of the Association for Consumer Research, 2(2), 140–154.

・スマホ持ち込み禁止と試験成績

Beland, L.-P., & Murphy, R. (2016). Ill communication: Technology, distraction, and student performance. Labour Economics, 41, 61–76.

・社会的促進(Social Facilitation)

Zajonc, R. B. (1965). Social facilitation. Science, 149(3681), 269–274.

Zajonc, R. B., Heingartner, A., & Herman, E. M. (1969). Social

enhancement and impairment of performance in the cockroach.
Journal of Personality and Social Psychology, 13(2), 83–92.

・カフェインの効果

Tad T. Brunyé, Caroline R. Mahoney, Harris R. Lieberman, and Holly A. Taylor (2010) Caffeine Modulates Attention Network Function

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佐々木 淳(ささき・じゅん)

下関市立大学教養教職機構准教授

1980年、宮城県仙台市生まれ。東京理科大学理学部第一部数学科卒業後、東北大学大学院理学研究科数学専攻博士前期課程・東北大学大学院教育学研究科総合教育科学専攻博士課程後期修了。博士(教育学)。元防衛省海上自衛隊数学教官、元代々木ゼミナール数学科講師。大学在学時から早稲田アカデミーで指導経験を積む。その後、代々木ゼミナール数学科講師を経て海上自衛隊で数学教官として勤務。著書に『身近なアレを数学で説明してみる』(SBクリエイティブ)、『世界が面白くなる! 身の回りの数学』(あさ出版)など。

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(下関市立大学教養教職機構准教授 佐々木 淳)

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