首都圏の不動産価格が高騰する中、一番コスパが良い街はどこなのか。住宅コンサルタントの寺岡孝さんは「生活コストを下げるなら、新幹線が通っている街がおススメだ。
通勤アクセスが良いわりに首都圏に比べて物件相場が低く、毎月の家計にゆとりが生まれる」という――。
■23区の新築マンションは1億3000万円超え
「どこに住むか」
この問いに、これほど答えが出しにくい時代は過去になかったかもしれません。
首都圏で新築マンションを探すと平均発売価格は9383万円、東京23区にいたっては1億3784万円です。
※不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2025年度(2025年4月~2026年3月)」、住宅金融支援機構(2026年1月調査)
一方、実際に購入した契約者ベースでも平均購入価格は7324万円(東京23区9598万円)となっており、多くの世帯にとって住宅取得のハードルは依然として高い状況です(リクルート首都圏新築マンション契約者動向調査(2025年)」)。
まず、今の首都圏マンション購入の「現実」を数字で確認します(図表1)。
また、住宅金融支援機構の「住宅ローン利用者調査(2026年1月調査)」によると、変動型が75%を占め、返済期間は「30年超~35年以内」が38.9%と最多です。
首都圏の新築マンション(平均7324万円)を変動1.2%・35年ローンで借りると、月返済額は約21.3万円。管理費・修繕積立金・固定資産税を加えると月約26万円。共働き夫婦の54%がペアローンを組んでおり、2人分の収入を住宅につぎ込んでいます。
■「パワーカップル」でも住居費でカツカツ
月26万円の住居費は、世帯年収1213万円・手取り月約80万円の約33%に相当します。
教育費・老後資金・緊急時の備えを考えると、家計の余白はほとんど残りません。
「買ったはいいけど、毎月カツカツ」
これが今の首都圏マンション購入の現実です。

さらにペアローンには構造的なリスクがあります。
2人の収入が35年間継続するという前提に立っており、育休・時短・転職・病気など収入が変動した際のリスクは単独ローンより高くなります。「メリットの割にリスクが高い」という点は、購入前に十分に理解しておく必要があります。
■「新幹線通勤移住」はコスパが悪い?
「買いたいけど高すぎる」「でも賃貸を続けるのも不安」――多くの読者が、この問いの前で立ち止まっています。
無理して買えば家計の余白がなくなる。では「地方移住はどうか?」と考えても、「仕事は? 通勤は? 生活は?」という不安が立ちはだかります。
地方移住を考えた場合、有力な選択肢の一つとして新幹線定期券(FREX)を使って東京に通うという「新幹線通勤移住」が考えられます。
「地方移住=東京との縁を切る」ではありません。地方から東京に通うこの方法なら、東京の仕事を続けながら生活コストを大幅に下げられます。
今回は新幹線通勤移住について、コスト面だけでなく、補助金・通勤の現実・各都市の特色まで含めて、新幹線通勤が可能な10都市を選出して徹底比較しました。
「新幹線通勤はコスパが悪い」――そう思い込んでいた方には、意外な結果かもしれません。
あなたならどこを選ぶか、データを見た上で判断してみてはいかがでしょうか。

■飛行機通勤を認める有名企業も
新幹線定期券(FREX)はおおむね200km以内の区間に設定されており、名古屋・仙台など遠距離は対象外です。FREXがあれば並行する在来線も乗車できます。
企業が新幹線通勤を通勤手当として支給する場合、「最も経済的かつ合理的な通勤経路」と認められれば月15万円まで非課税になります(所得税法)。ヤフー・メルカリ・noteなど一部の企業では飛行機・新幹線通勤を認め月15万円まで支給する制度を導入しています。
勤務先が通勤費を支給する場合、今回の試算の純メリットはさらに拡大します。ただし支給の可否・上限は会社の規定によって異なるため、事前に確認が必要です。
この条件を満たす10都市を対象に、首都圏マンションを購入したケース(平均購入価格7324万円、月約26.3万円)との比較を試算しました。
物件価格の差から30年間の追加通勤費を差し引いた「純メリット」で評価します(図表3)。
純メリット=東京との物件価格差-30年間の追加通勤費(東京23区内通勤定期月1.5万円との差額×360カ月)

■「純メリット」1位の街は神奈川・小田原
【試算条件】

・変動1.2%、35年ローン

・戸建てランニングコスト月3万円(修繕費1.5万円+固定資産税1.5万円)

・物件価格は2025~2026年の平均的な近隣相場

・純メリット=東京との物件価格差-30年間の追加通勤費

・新幹線定期代はJR公式FREX料金表(2025年4月改定)より、FREX定期は週5日・週2日問わず月額固定のため出社日数によらず試算値は同一

・通勤時間はJR東京駅への所要時間
本庄早稲田は数字上のメリットは最大ですが、日中停車する新幹線は1時間1本のため、早稲田大学系列校進学を視野に入れた教育重視世帯向けの選択肢と言えます。
8~9位の軽井沢・長野は通勤費が物件の安さを上回り、ランキング下位。「遠いほど通勤費が物件メリットを食いつぶす」構造が数字に出ています。テレワーク週3~4日以上が前提になる都市でしょう。

上位都市の共通点は、「東京まで50分以内」「新幹線定期代が月10万円以下」「物件価格が3500万円以下」。この3条件が揃うエリアが新幹線通勤移住の「旨みゾーン」です。
■実際、東京を何時に出て何時に帰れる?
「新幹線通勤は不便では?」という疑問に、時刻表データでお答えします(図表4)。
■長野の3都市はおススメできない
純メリットランキング上位の都市を中心に、特色と補助金を簡潔にまとめてみました(図表5)。
次に、抽象的な数字だけでなく、具体的な家族像で比較します。
冒頭のリクルート調べによると、首都圏の新築マンション購入者の平均年齢は38.9歳(2025年)。30代が購入者の約半数を占めており、今回は35歳・世帯年収1200万円・共働き夫婦・子ども1人という購入者像で試算しました。
35歳で7300万円のローンを組むと、完済は70歳。50歳時点(15年後)の残債は約4542万円。
これは、住宅ローンを抱えたまま、子どもの教育費・老後資金の準備という人生最大の出費期を迎えます。
■どこで買うかで30年後に3000万円の差
首都圏で新築マンションを買ったA家と、小田原・宇都宮に移住して新築戸建てを買ったB家・C家を比較したのが図表6です。
A家の住居費は手取りの34%。


ペアローンで2人分の収入を住宅に縛り付けた状態では、育休・時短・転職のリスクに対して余白がありません。
B家(小田原)は手取りの23%、C家(宇都宮)は27%。

A家との差額が毎月5万~8万円が手元に残ります。この余白が教育費・老後資金・緊急時のセーフティネットになります。
単独ローンのため、どちらか一方の収入が変動しても家計が崩れません。
リセールバリューや資産価値の不確かな将来より、毎月確実に手元に残る5~8万円のほうが、家族の生活を豊かにします。月8.4万円の差は、単なる住居費の節約ではありません。その使い道が、家族の人生設計を変えます。
■不動産市場に左右されないメリット
首都圏新築マンション購入者の36.7%が「資産として有利だから」という理由で購入を決断しています。
この動機自体は間違っていません。
しかし今回の試算が示すのは、「新幹線通勤移住のほうが毎月の家計にゆとりが生まれ、30年間で数百万~3000万円以上の差がつく」という現実です。
・首都圏マンション購入:7324万円・月26.3万円・ペアローン前提・満員電車

・小田原への移住:3100万円・月17.9万円・単独ローン可能・新幹線指定席33分

・30年間の差額:約3000万円(月8.4万円×360カ月)+30年後に戸建てが完済して手元に残る

しかもこの差額は、不動産価格の上昇や値下がりを前提としたものではありません。
毎月の支出差額を積み上げた結果であり、相場がどう動いても消えないメリットです。
■「将来の資産価値」か、「いまの生活費」か
さらに重要なのは「リセールバリューを期待しない」という視点です。
不動産価格が将来どうなるかは誰にもわかりません。しかし毎月8.4万円が手元に残ることは、今日から30年間、確実な事実です。これが新幹線通勤移住の本質的なメリットです。
ただしこの選択肢が合うのは条件次第です。
① テレワーク週2~3日以上(毎日出社不要)

② 10年以上居住予定

これの条件が揃う人には、新幹線通勤移住は現実的な選択肢になります。
逆に毎日出社必須・転居の可能性あり・パートナーも東京勤務という方には向きません。
かつては「東京に住むこと」自体に価値がありました。しかしリモートワークが普及し、新幹線通勤が現実的な選択肢になった現在では、東京で働くことと東京に住むことは必ずしも同義ではありません。
東京の仕事や収入を活用しながら、住宅費の安い地域で暮らす――「東京を利用しながら東京に住まない」という発想が、住宅価格高騰時代の新しい選択肢になりつつあります。本稿の試算が、その判断の一助になれば幸いです。


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寺岡 孝(てらおか・たかし)

住宅コンサルタント

1960年東京都生まれ。アネシスプランニング株式会社代表取締役。住宅セカンドオピニオン。大手ハウスメーカーに勤務した後、2006年にアネシスプランニング株式会社を設立。住宅の建築や不動産購入・売却などのあらゆる場面において、お客様を主体とする中立的なアドバイスおよびサポートを行っている。これまでに2000件以上の相談を受けている。NHK名古屋「ほっとイブニング」「おはよう東海」などTV出演。東洋経済オンライン、ZUU online、スマイスター、楽待などのWEBメディアに住宅、ローンや不動産投資についてのコラム等を多数寄稿。著書に『不動産投資は出口戦略が9割』『学校では教えてくれない! 一生役立つ「お金と住まい」の話』『不動産投資の曲がり角で、どうする?』(いずれもクロスメディア・パブリッシング)がある。

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(住宅コンサルタント 寺岡 孝)
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