■チュニジア戦快勝に沸いた渋谷
6月21日、2026 FIFAワールドカップ・グループステージ第2節のチュニジア戦。日本代表が4対0で快勝すると、東京・渋谷のスクランブル交差点では、サムライブルーのユニフォームを身にまとったサポーターたちが集い、歓喜に沸いた。
今大会の日本は、初戦から世界を沸かせていた。米テキサス州地域情報サイトのカルチャーマップ・フォートワースによると、14日にダラス・スタジアムで行われたグループF第1節のオランダ戦には、東京ドームの収容人数を大きく上回る6万9285人が詰めかけた。2対2の劇的なドロー。解説者たちは「大会ここまでのベストマッチ」と称えた。チュニジア戦の大勝を経て、チームはいっそう勢いを増している。
日本代表チームと並び、日本のサポーターもまた、その振る舞いで世界の称賛を集めている。試合後には当然のようにスタジアムの客席を清掃し、訪れた先のアメリカの文化に触れた素直な感動をSNSで発信し、現地の人々やカルチャーに敬意を示す。ピッチの内外を問わず、ワールドカップに関して日本が方々で話題だ。
■応援に使った青い袋は、そのままゴミ袋に
今大会、日本のサポーターが最初に世界の注目を集めたのは、オランダ戦の終了後のことだ。ダラス・スタジアムを後にして帰路に就く各国の観戦者を尻目に、日本のサポーターたちは席を立つ代わりにゴミ袋を手に取った。
CBSニュースによると、数百人の日本サポーターがカップや菓子の包み紙など、スタンドに残されたゴミを拾い集めた。その光景を捉えた写真は、SNSを通じて瞬く間に広まった。米NFLニュースサイトのプロ・フットボール・ネットワークによれば、NFLクォーターバックのジェイミス・ウィンストン選手も日本のサポーターに加わり、スタジアムのゴミ拾いに参加したという。
注目すべきは、清掃に使われた袋だ。カルチャーマップ・フォートワースが伝えるところでは、日本のサポーターたちは試合中、鮮やかな青いビニール袋を熱狂しながら振って声援を送っていた。試合が終われば、その同じ袋でそのままゴミを拾い始める。はじめから清掃をするつもりで、スタジアムに駆けつけている。
FIFAのXアカウントに投稿された動画の内容を米ケーブルニュース局のニュースネーションが引用。それによると、ある日本人女性サポーターが、その理由を次のように語っている。
「それが文化なんです。
■「大切な場所を汚したまま去りたくない」
日本人の清掃文化は今大会に始まった話ではない。2022年のカタール大会でも日本代表は試合後にロッカールームを整然と片付けて退出し、FIFAが公式アカウントでその写真を紹介したと、UAE英字日刊紙のガルフ・ニュースは振り返る。
当時、ハリーファ国際スタジアムのロッカールームを日本代表が後にすると、ゴミは見当たらなかった。残されたのは、きちんと寄せ集められた水のボトルと、丁寧に畳まれたタオルのみ。11羽の折り鶴と、「ありがとう」と記された日本語のメッセージがそっと添えられ、大会への感謝を物語っていた。
スタジアムの清掃を率先して続けてきたある男性は、CNNの取材に応じ、子ども時代は学校の掃除時間が「毎分毎秒が嫌だった」ほど苦手だったと振り返る。
かつては学校の掃除当番が憎くてたまらなかったといい、「なぜこんなことをしなきゃいけないのか。日本の教室はもともとそんなに汚くないし、みんなゴミ箱を使っているじゃない」とも疑問に思った。ところが2008年以降、彼は五輪やワールドカップに足を運ぶたび、スタンドに残されたゴミを拾い続けているという。
「チケットを買ったからといって好き放題していい場所ではない。自分たちにとって、神聖な空間です。
■生徒自身が廊下やトイレを掃除する習慣
米CBSニュースの取材に応じたダラス・フォートワース日米協会の嶋口仁菜氏は、日本人にとって掃除は「習慣というか、自然なこと」だと語る。実際、日本の学校では小学校から高校まで、生徒自身が廊下やトイレを掃除する。こうして幼少期から身についた清掃の習慣が、大人になっても自然に受け継がれているのだろう。
清掃の習慣は神道の精神にも根ざしていると続ける彼女は、「木や石など自然のあらゆるものに魂が宿ると考え、それは日用品にも及ぶ。一粒の米に七つの魂が宿るという言い伝えもある」とCBSに日本の感覚を説明した。
慎ましさやスタジアムへの敬意が米メディアに注目される一方で、純真に感情を昂ぶらせる日本人サポーターたちの姿もまた現地で好感を呼んでいる。初めて訪れたテキサスの日常に、彼らは目を丸くしていた。
ダラスでのオランダ戦にあわせ、多数の日本人サポーターたちがテキサス州北部へやってきた。彼らの素朴な驚きぶりは、アメリカのユーザーたちが注目している。ソーシャルメディアのXで好評だった投稿を、シンガポールの若者向けニュースサイト「マザーシップ」がとりまとめた。
■サポーターのSNS投稿に、地元の人々が反応
数ある投稿のなかでも目を引くのが、かもめTV(@kamome_tv)さんの投稿だ。
同アカウントは、黄色いスクールバスが校舎前を走る動画にも、「映画でしか見た事ない黄色いスクールバスだ!」と興奮。飲食店の会計後には、「おつり返ってきたんだけど チップはここに挟んで去っていけばいいの? それで大丈夫?」と、現地のチップ文化を尊重しながらも、初めての体験に戸惑いも隠さない。
ゴツッツ(@gotu_1998)さんは特大のトルティーヤチップスの袋を手に、「この大きさがアメリカでは普通なのか、、⁇」と目を疑った。ガソリンスタンド併設のセブン‐イレブンを前に、「これがアメリカのセブンイレブンや!」と目を見張る投稿や、野生のリスを見かけて興奮する投稿も並ぶ。
■自動翻訳で取り払われた言葉の壁
アメリカ人には何でもない日常の風景が、彼らの目にはことごとく新鮮に映っている。その心情を包み隠すことなく爆発させた日本人ユーザーたちの素朴な反応を、アメリカのユーザーたちは温かく受け止めた。
背景にあるのが、ワールドカップの開幕前からSNS上で静かに育まれていた、日米間の交流だ。4月の記事で触れたとおり、AIによる自動翻訳で言語の壁が取り払われたことが一因となり、アメリカのユーザーたちの間で日本ユーザーによる投稿への関心が上昇している。
一例として、米海軍基地がある佐世保の焼肉店で米兵たちが歓声を上げる様子を描いた一枚のイラストが、アメリカのXユーザーの間で話題となり、投稿から1カ月ほどで4600万回以上表示される盛り上がりを見せた。物珍しい日本文化は「インターネット最後の秘境」とも呼ばれるほど話題となり、日米のユーザーが互いの文化を紹介し合う流れが生まれた。
両者はみるみるうちに交流を深め、やがてアメリカ側のユーザーたちは、「テキサスに来い。無料だ」「南部州は肉ゾーンと呼ばれている」など、自宅に招待する歓迎メッセージを寄せるまでになっていた。ワールドカップをきっかけに、わずか2カ月後、本当に日本のサポーターたちが押しかけるようになるとは、このときは誰もが予想していなかっただろう。
■地元から「見ていて本当に嬉しい」の声も
現地に飛んだサポーターたちは実際、テキサスの食文化に深い興味を示している。
プロ・フットボール・ネットワークが現地の声を伝えている。Xアカウント「DallasTexasTV」の街頭インタビュー動画で、ダラスで最も楽しんだことを聞かれた日本人サポーターたちは、迷いなく現地のフードカルチャーを絶賛。「ステーキ、ハンバーガー、シーザーサラダ。最高だった!」とのコメントのほか、テキサスBBQを「とても美味しい」と絶賛する声が続く。
純粋に現地のカルチャーを満喫する日本のサポーターに対し、アメリカ側からは歓迎の声が相次いだ。「日本のファン大好き!」「侍文化とカウボーイ文化の出会い。最高だ」「世界中の人がインターネットやメディア越しではなく、自分の目でアメリカを見ている。見ていて本当に嬉しい」と喜ぶコメントが寄せられている。
ある日本人サポーターのアカウントは、アメリカで出会ったメキシコ出身のUberドライバーが「めっちゃ親切だった」と語り、「みんな好き、大好き最高」と結んでいる。テキサスでは、日の丸柄のカウボーイハットを被り、日本を応援してくれた現地のファンもいたという。
■注目は日本で声援を送るサポーターにも
アメリカを訪れたサポーターが現地の文化に敬意を示し、新鮮な反応を見せて話題となる一方、日本国内から声援を送るサポーターたちの姿も話題だ。
背景を理解するために、まずは海外の一部サポーターの状況を知る必要がある。ワールドカップの熱狂に駆られ、大会期間中のニューヨークのタイムズスクエアで衝突が起きた。
興奮状態で集まったアルジェリアとアルゼンチンのサポーター同士が、マンハッタンの真ん中で激しくぶつかり合ったと、仏日曜週刊紙のジュルナル・デュ・ディマンシュが報じている。当初は歌や国歌の合唱が響き、発煙筒が焚かれて、祝祭ムードに包まれていた。だが、そこから一転する。
動画メディアBrutが公開した映像には、サポーターたちがもみ合いからみるみる蹴りや殴り合いへとエスカレートしていく様子が映っている。ゴミや物が飛び交う場面もあり、一帯は緊張状態となった。
警察が割って入り、当事者を引き離して複数人を拘束した。事件が起きたのは、現地時間6月15日、アルジェリア対アルゼンチン戦の前夜のことだった。試合を待たずして、残念ながらサポーターたちが互いへの敵意をむき出しにした形だ。
■世界を驚かせた渋谷の「40秒」だけの祝祭
タイムズスクエアの暴動騒ぎとは対照的に、同じ時期、世界で最も有名な交差点のひとつ、東京・渋谷のスクランブル交差点では、サポーターたちが秩序ある行動をしたとして海外で取りあげられている。
6月15日の夜。日本代表がオランダ戦を引き分けで終えると、数千人のサポーターがサムライブルーのジャージに身を包み、旗を振り、フェイスペイントを施して交差点に押し寄せた。群衆が交差点になだれ込むと、一瞬、世界中のサッカーファンが見慣れた無秩序な祝祭に見えた、とバングラデシュ英字紙のデイリー・スターは伝える。
だがサポーターたちが交差点に繰り出したのは、わずか40秒ほどだった。歩行者用信号が青だった時間分だ。信号が変わると彼らはさっと歩道へと退避し、車の流れを妨げることはなかった。フランス民放局M6のニュース部門M6 Infoの動画には、車両用信号が赤になるたび交差点に殺到し、青に戻ると誰に促されるでもなく歩道へ引き上げるサポーターたちの姿が映っている。信号が青になるのを待って、彼らは再び交差点へ繰り出す。
SNSでは多くのユーザーたちがこの動画をシェアし、驚きと称賛の声を寄せた。フランス版ハフポストのLe HuffPostは動画で、「東京の有名な渋谷の交差点では、一部の東京市民が規律を守りながら喜びを表現した」と紹介。「日本のサポーターはチームの勝利を祝うときでさえ、規律ある形で行う」とも表現している。
こうした振る舞いが見られるのは、今大会に限らない。ガルフ・ニュースが振り返るのは2022年カタール大会だ。日本が強豪ドイツを破った際、国内のファンは路上に飛び出して歓喜しながらも、車の通行を妨げないよう気を配っていたと同紙は伝えている。
横断以外の目的で交差点に繰り出すこと自体、本来控えるべきとの指摘はあるかもしれない。それでも、混乱状態になったタイムズスクエアなどの事例と比べると、興奮してなおマナーを忘れない日本のサポーターの行動は際立つようだ。
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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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