全国各地に「鉄道ルーム」が続々登場している。中でもJR西日本グループが展開するホテルは、車内を「完全再現」した客室から、鉄道遺産をアートに昇華した高級ホテルまで多彩だ。
どんなこだわりが詰め込まれているのか。鉄道ジャーナリストの東香名子さんが取材した――。
■いま「鉄道系ホテル」の部屋がすごい
「ホテルに泊まること自体が旅の目的」。そんな体験価値のシフトが、鉄道系ホテルに広がっている。鉄道会社ならではの資産や知見を活かし、鉄道ファンをターゲットにした宿泊プランが増えているのだ。
たとえば品川プリンスホテルの「運転士体験!西武線運転シミュレータステイ」のように室内で運転体験ができるものから、JRイン函館の「北斗星コレクションルーム」のように引退した寝台特急の実物部品を至る所に設置して世界観に浸れるものまで多種多様だ。プランが登場するたびに「たまらん」とため息をもらす鉄道ファンも多いはずだ。
こうした「鉄道ルーム」のなかでも、ひときわ異彩を放っているのがJR西日本グループの取り組みだ。実際に取材すると、ライトなレジャー層から熱狂的なガチ勢にいたるまで、それぞれのニーズを満たす緻密なセグメント戦略が見えてきた。
■JR西日本の多彩なホテル戦略
JR西日本グループのホテルは、近畿・中国・北陸エリアを中心に、駅直結・駅至近の立地を活かしたネットワークを展開。ホテルブランドにより運営会社も異なる。
たとえば高級路線の「ホテルグランヴィア」「大阪ステーションホテル、オートグラフ コレクション」「ホテルヴィスキオ」はジェイアール西日本ホテル開発が展開。
駅直結の利便性と高い客単価で、インバウンドや富裕層、VIP層を主なターゲットとしている。
宿泊特化型ホテル「ヴィアイン(VIA INN)」はJR西日本ヴィアインが展開。ビジネス客やレジャー客を中心に、手頃な価格帯で利便性と快適性を提供している。
こうしたJR西日本のホテルでは、われわれ鉄道ファンがうなるような、“鉄分”の濃い「鉄道ルーム」が用意されている。今回は代表的な3つの部屋を取材し、3つの指標で筆者が独自に評価。コンセプトやターゲット層を分析した。
・リアル度:実車パーツの有無や再現性、空間のリアリティの濃厚さ

・文化度:歴史の深みや鉄道文化としての洗練さを感じさせるか

・エンタメ度:ファミリー層をはじめ、間口を広く受け入れているか

早速3つの鉄道ルームを見ていこう。
■トレインビューの部屋で「電車でGO!」
1つ目は大阪駅直結の「ホテルグランヴィア大阪」。1日1室限定の鉄道コンセプトルームを展開している。
リアル度 ★★★☆☆

文化度 ★★★☆☆

エンタメ度 ★★★★★

料金:3万4千円~9万4千円(1室2名・3名・4名利用時)

これまでのべ168組が宿泊(2026年5月までの実績)。もともとの強みである客室のトレインビューをベースに、路線図、車両断面図などのアートや、車両クッションが部屋を飾る。
これらは鉄道デザイナー・大森正樹氏が監修したもの。
大森氏といえば、JR西日本で車両の設計やデザインに携わっていた人物。さすがJR西グループ、自社の強みを存分に生かしている。
さらに目を引くのは、大画面で遊べる鉄道運転シミュレーションゲーム『電車でGO!』。雰囲気抜群の部屋で遊べば、より濃いめの“鉄分”を摂取することができる。ちなみに他ホテルでは本物のシミュレータを設置する部屋が増えているが、ここはお部屋の都合でゲームになったとのことだ。
■大人も子供も一緒に楽しめる仕掛け
筆者が「これは!」と目を光らせたのは、過去1年分の時刻表である。鉄道ファンには、時刻表を読んで愛でる人種がいるが、トレインビューやゲームに飽きたら、思いっきり読みふけるのもいい。筆者のおすすめは、ダイヤ改正の月である3月と、その前の号とを読み比べる楽しみ方だ。
この部屋のターゲットは、ファミリーなどのライト層で、宿泊客のうち8~9割が子連れだという。ホテルグランヴィア大阪のマーケティング部マネージャー・藤川春菜さんによれば「当ホテルは『小学生までは添い寝無料』など、お子様向けのサービスをご用意しておりますが、ファミリー層をより獲得していきたいという中で、鉄道という特典をつけた部屋をつくりました。おかげさまで子供たちに好評。大人の鉄道ファンが泊まるという例もありますよ」
ちなみに、同ホテルには交通系ICカードICOCAのキャラクター「イコちゃん」に特化した部屋もある。
こちらもかわいい! キャラクターのファンもしっかりキャッチする、間口の広さは随一だ。
■ガチ勢も大満足! 「やくもルーム」の衝撃
続いては岡山駅直結の「ヴィアイン岡山」の「273系やくもルーム」だ。今回取材した中で“リアル度”が圧倒的に高く、度肝を抜かれた。
リアル度 ★★★★★

文化度 ★★★★☆

エンタメ度 ★★★★☆

料金:1万4700円~(1室2名利用時)
コンセプトは、岡山~出雲市を走る新型の特急列車やくも。2024年にデビューし、「グッドデザイン賞」などに選出された名列車だ。お膝元・岡山にできた「やくもルーム」は2025年6月の登場以来、1400名以上が利用。2室しかないこの部屋は、月平均で約50室の予約が入っているという。土日はきっと争奪戦であろう。
現地に行くと、まず客室への入り口に圧倒される。
え、ここ、本当にホテル⁉ と驚くほどにリアルに再現されたドア。仮に泥酔して帰ってきても間違えることがない。「やくもブロンズ」を模した神々しい色に染められた入り口。
これは部屋も期待がかかる。
■まるでやくも車内にいるような再現度
室内に入ると、車内の再現度合いに圧倒された。ロゴマークで装飾されたベッド、上を見れば、LED行先表示器もある(ちなみに文字は動かない)。よく見ると列車らしく天井の角が丸みをおびている。
やくもルームも前出の鉄道デザイナー・大森正樹氏が協力しているという。車両と同じコンパートメントのモケット(座席生地)や、照明やステッカー類など、隅々まで徹底的に再現。芸が細かすぎて感動の一言である。
窓からは岡山駅を見下ろすトレインビュー。山陽・山陰・四国へ行く列車が代わる代わる入線。もちろん、ここから本物の特急やくもを見ることができ、それもまた一興。
■岡山だから実現した唯一無二の部屋
徹底的にこだわってこの部屋を作ったと意気込むのは、ヴィアイン開発企画部R&D推進課係長の丸田伸輔さん。ちなみに自身も鉄道ファンだという。

「『やくも』は岡山と山陰を結ぶフラッグシップで、魅力の多い特急。かなり細部にこだわって部屋を作りこみました。天井のアール形状もその一つです。
宿泊する多くの方が鉄道ファンで、宿泊後にお手紙をいただいくこともあります。『面白かったよ』とか『こういうものもあったほうがいいんじゃない?』とか。天井の丸みとかも気づいてくださって、『思わずニッコリしたよ』というお声もありました」
「岡山に来ていただくきっかけにしたい」と語る丸田さん。地域色も強く、まさにここでしか体験できない唯一無二の部屋。筆者もこの部屋に宿泊したが、まるで本物の「やくも」車内で目覚めたかのような極上の旅情と高揚感に包まれた。
なお、同じヴィアインブランドの「ヴィアイン新大阪正面口」には、今年5月に「500系新幹線ルーム」がオープン。こちらも一切のぬかりがないガチな部屋となっており、数カ月先まで予約が埋まっているのだとか。
■初代大阪駅跡地としての「記憶」
3つ目は大阪駅直結、最高峰のラグジュアリーホテル「大阪ステーションホテル、オートグラフ コレクション」。ホテル全体を「鉄道遺産」としてブランディングしている稀有なホテルだ。

リアル度 ★★★★☆

文化度 ★★★★★

エンタメ度 ★★★☆☆

料金:シーニック 8万5000円~(1室2名)

※2026年6月時点の参考料金(サービス料、消費税、宿泊税を除く)

一軒一軒にユニークなコンセプトを持たせるマリオットの「オートグラフ コレクション」の一つとして、同ホテルが掲げたテーマは「鉄道」。1874年に誕生した初代大阪駅の跡地に建っており、その記憶を現代に繋げるため、エントランス、廊下、ロビーといったオープンスペースの随所には驚くべき仕掛けが連続する。
■知的好奇心をくすぐる「鉄道遺産」
一見するとスタイリッシュなアートにしか見えない装飾は、よく見ると、鉄道にまつわるものだ。枕木やダイヤグラム、車両のプレート、さらには電線を支える絶縁体の「がいし」までアートとして昇華している。
なにより筆者が「これは!」と思ったのが、客室のドアの取っ手。よく見ると車両のブレーキハンドルのような形状をしているではないか! 一つ気づいてしまえば「ここにも」「ここにも」と宝探しのように見つかり、知的好奇心がくすぐられる。
■鉄道の廃品が「第二の人生」としてアートに
前出の2ホテルとの大きな違いは「鉄道」を前面に出していない点にある。「鉄道コンセプトルーム」も存在しない。鉄道博物館のように単に資料やグッズを展示せずに、アートとして昇華させることで、高級ホテルとしての品格を見事に完璧に保っている。
同ホテルのセールス&マーケティング次長(取材当時)の平岡修一さんによれば「千利休が、ものを何かに見立てる『遊び心』を茶の湯でやっていたように、オブジェとして鉄道にまつわるものを置くという考えでプロデュースしています」とのこと。
博物館行きでなければ廃棄になるものたちが、アートとして第二の人生を歩んでいると聞けば、鉄道ファンはジーンときてしまう。ほかにも初代大阪駅を体験できるARなど、鉄道ファンでなくても世代を超えて楽しめる仕掛けが満載だ。過去には開業1周年記念で「駅なかツアー付き特別宿泊プラン」を発売し、20名という限定枠が発表早々に完売したそう。
マニアから富裕層、インバウンドまでを虜にするこの空間。ラグジュアリーな空間を飾る鉄道アート、今回紹介したのはほんの一部分だ。現地に行っていろいろな「お宝」を見つけてみては。
■宿泊のための「ホテル」そのものを再定義
それぞれが、独自のコンセプトで異彩を放つJR西日本グループの鉄道ホテル。「鉄道ファン」を一括りにせず、ターゲット層のニーズを細分化してそれぞれに適したブランドでアプローチしている点が大きな強みだ。
「安さ」や「新しさ」だけでは、もはや客を呼べない時代。自社が持つ歴史やこだわりを、いかに「独自の宿泊体験」としてパッケージ化できるか。JR西日本グループの「鉄分多め」なホテルは、ホテルそのものを再定義しているといえる。

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東 香名子(あずま・かなこ)

コラムニスト

鉄道コラムニスト。鉄道トレンド総研所長。メディアコンサルタント。外資系企業、編集プロダクション、女性サイト編集長を経て現在フリー。メディア出演多数。著書に『超タイトル大全 文章のポイントを短く、わかりやすく伝える「要約力」が身につく』ほか。

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(コラムニスト 東 香名子)
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