頭を使って疲れた時、回復するためには何が必要か。東北大学加齢医学研究所教授の川島隆太さんは「チョコレートやあめ玉など甘いものを口にする人が多いかもしれないが、短期間で血糖値が乱高下するため、脳の働きにとっては逆効果になる」という――。

※本稿は、川島隆太『脳を休める!』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
■脳の疲れをいやすことができる食品
「食は人の天なり」というのは、『徒然草』を書いた吉田兼好の言葉です。
食べることは天のように大切なこと、心身の根源であるということでしょう。一時期人気を得たテレビ番組のように「○○を食べれば明日からあなたは健康」というわけにはいきませんが、日々口にするもので健康状態が変わってくるのも事実です。
脳の疲れを回復させる効果が科学的に証明されている食品もありますので、日々の食事の参考にしてみてください。
■「頭を使う=糖分補給が必要」?
集中して文章を書いたり、難解なレポートを読んだり、複雑な計算をするなど、「頭を使った」というときに空腹感を覚えたり、甘いものが欲しくなりませんか? 仕事や勉強の合間についチョコレートやあめ玉を口にしてしまう人も多いと思います。
実際のところ、脳がエネルギーにできるのはブドウ糖なので、脳の活動のために糖分は欠かせません。「頭を使う=糖分補給が必要」というイメージを持っている方も少なくないかもしれないですね。しかし、ここには少し誤解があります。
頭をフル回転しているときも、ぼーっとしているときも糖の消費量はほとんど変わりません。頭を使ったから糖分を消費したというわけではないのです。ではなぜ、頭を使うと甘いものが欲しくなるのでしょうか。

■糖質のかたまりによって血糖値が乱高下
実は、頭を使ったときに空腹を感じるのは、心理的なストレスが原因であることがほとんどです。頭を働かせると、脳の「視床下部(ししょうかぶ)」という部位の「摂食中枢」が刺激されることがあります。
摂食中枢は「お腹がすいた」という信号を送る役割を担っているので、空腹感を覚えますが、脳を働かせて消費する程度のブドウ糖は、食品で補わなくても体内の貯蔵多糖(グリコーゲン)でまかなえてしまいます。
このとき、チョコレートやあめ玉を口にすると、身体にしみ渡るような幸福感と満足感を得られるかもしれませんが、こうした糖質のかたまりをポンと食べると血糖値が急激に上がってしまいます。すると今度は、インスリンというホルモン物質が一気に放出され、血糖値が急激に下降します。
こうした短期間での血糖値の乱高下を「血糖スパイク」といいますが、血糖スパイクが起きると集中力が低下したり、眠気をもよおしたり、脳の働きにとって逆効果な状態に陥ることがあります。
■脳にとって危険なだけで一利なし
血糖スパイクを何度も起こしていると、糖尿病のリスクも高まりますし、血糖値の乱高下で糖を消費するだけでなく、体内ではリジンなどの必須アミノ酸も無駄に使ってしまいます。つまり、「脳のために糖質をとる」というのは危険なうえに一利なしなのです。
では、集中力が落ちたときに何を食べれば良いのでしょうか。
私たちの実験報告に、「糖質だけをとるよりも、糖質、脂質、タンパク質、繊維質をバランスよくとるほうが良い」というものがあります。実験は東北大学の学生を対象に、水だけ、砂糖水だけ、栄養バランスのとれた流動食と3通りの朝食をとったあとに記憶力テストを行い、「集中力」「疲労感」「脳の働き」を測定するという方法で実施されました。
■水や砂糖水より効果的だった飲み物
すると、集中力の測定では、栄養バランスのとれた流動食を摂取したグループは、水や砂糖水だけをとった場合に比べ、午前中常に集中力が高い状態を維持しました。
また、疲労感はどの朝食でも時間とともに徐々に増しますが、流動食を摂取したグループでは、90分を超えると改善していくことがわかりました。
テスト中の脳の働きをMRIで分析をしたところ、砂糖水を摂取した場合よりも流動食をとった場合のほうが、前頭葉を中心にいろいろな脳の領域が活発に働いていることもわかりました。
甘いものを食べることで一時的にリラックスできるかもしれませんが、それだけでは疲労回復や集中力アップの効果は期待できず、脳は全力で働きません。とりすぎは脳のパフォーマンスを悪くしてしまう可能性もあるので、糖質だけに頼るのではなく、栄養バランス全体を意識することが大切なのです。
■「濃いめのコーヒー」で記憶力アップ
「頭が疲れた」と感じたときに、チョコレートやあめ玉などの糖質のみのかたまりをとると逆効果というお話をしましたが、リフレッシュやリラックス効果を求めるなら、1杯のコーヒーを飲んでみてはどうでしょうか。頭脳作業、特に暗記のあとに濃いめのコーヒーを飲むことで記憶力が高まるという研究データがあります。
アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学の研究チームが行った研究によると、コーヒーやお茶に含まれるカフェインには、単に眠気を覚ますだけでなく、学習後に摂取することで記憶力を高める働きがあることが判明しました。
対象者は、普段コーヒーを飲む習慣がない平均年齢20歳の160人。200mgのカフェインを摂取するグループと、偽薬(プラセボ群)を摂取するグループに分け、さまざまな絵を見せたあとにカフェインまたは偽薬を服用してもらいました。
翌日、細部が異なる似た絵を見せて区別するテストを行ったところ、カフェインを摂取したグループのほうが、より正確に回答することができたのです。
■気分転換だけでなく疲労対策にもなる
興味深いのは、最初に絵を見る前にカフェインをとっても正答率が上がることは確認できなかった点です。つまり、覚えたいものを見たあとにカフェインを摂取することで、記憶の定着が促される可能性があることが示唆されたのです。

カフェインというと眠気覚ましのイメージが強いかもしれませんが、適量であれば認知機能をサポートし、脳のパフォーマンスを維持する助けになります。疲れを感じたときにコーヒーで一息つくことは、気分転換になるだけでなく、その後の頭脳作業を続けるための疲労対策としても役立つのです。
ただし、飲み過ぎには注意が必要です。1日4杯以上飲むと、むしろ認知症の発症リスクが1.04倍高まる可能性も示されています。4杯以上のコーヒーは睡眠にも悪影響が生じる可能性があるので、適量を意識することが大切です。
ちなみに、私の1日は毎朝6時半に研究室に出勤し、コーヒーメーカーにお気に入りの豆をセットし、飲むところから始まります。研究の合間にコーヒーブレイクを設けて、気分をリフレッシュすることが脳のキレを保つことにも役立っています。

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川島 隆太(かわしま・りゅうた)

東北大学加齢医学研究所教授

1959年千葉県生まれ。医学博士。東北大学医学部卒業、同大学院医学研究科修了。スウェーデン王国カロリンスカ研究所客員研究員、東北大学加齢医学研究所助手、講師、所長を経て、現在は同研究所の教授を務める。脳活動のしくみを研究する「脳機能イメージング」のパイオニアであり、脳機能研究の第一人者。
ニンテンドーDS用ゲームソフト「脳を鍛える大人のDSトレーニング」シリーズを監修。『脳を鍛える! 人生は65歳からが面白い』『欲しがる脳』(共著/扶桑社)、『とっさに言葉が出てこない人のための脳に効く早口ことば』(サンマーク出版)など、著書、監修書多数。認知症高齢者や健常者の認知機能を向上させるシステムの開発や、「脳を鍛える」をコンセプトとする産学連携活動に尽力している。2024年より宮城県蔵王町観光大使に就任。

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(東北大学加齢医学研究所教授 川島 隆太)
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