■「コテコテの大阪」はもう古い
皆様が「大阪」、もしくは「大阪人」に持つイメージというのは、相変わらずテレビに出てくる小うるさい芸人みたいなものか、所謂“コテコテ”と形容される、下品でド厚かましくて、豹柄の服を着たオバチャンみたいなものか、大体そのへんのイメージに集約されがちである。
けれども生粋の大阪人のはしくれとしてハッキリ言わせて頂こう。“そのコテコテイメージ、もう古いでっせ!”と。
かつて1990~2000年代の“暗黒時代”には市政の乱脈により、大阪は財政破綻一歩寸前の状態にまで転落していた。ひったくり・強盗・痴漢の犯罪多発地帯、暴力団だらけの街、ホームレスがそこら中を徘徊し、繁華街は薄暗く小汚いまま。企業の本社も大阪を捨てて東京に移る動きが加速し、本格的に“大阪、もうあかん……”と絶望の淵に立っていた過去がある。
だがそんな暗黒時代も地域政党である「大阪維新の会」が台頭、大胆な市政改革が進められるなどしていつの間にか終わりを告げた。財政破綻の危機は遠ざかり、街中を占拠していたホームレスの小屋は一掃され、古臭いままだった地下鉄も民営化されて見違えるように綺麗になった。
海外からの観光客が大量に押し寄せる国際観光都市としての姿もすっかり板について、昨年に開催された「大阪・関西万博」はその総仕上げとして、“大阪復活”の狼煙を高らかに上げて世界中に存在感を放った。もう大阪は過去の姿とは違うのである。
■再開発が進む「『キタ』の玄関口」
さて、そんな生まれ変わった大阪を象徴するのが、大阪のいわゆる「キタ」の玄関口である「梅田」エリアだ。
JR大阪駅を中心としたこの一帯は2000年代以後から順次再開発が進められ、付随する各商業施設(大阪ステーションシティ)がひしめき合う。
存在感のある大屋根の下には駅ホームを跨ぐ人工地盤が設けられ、南北連絡橋と橋上駅舎が設置、その上の5階には「時空(とき)の広場」と呼ばれるフロアがあり、エスカレーターで昇ってやってくると人工芝とベンチが置かれた空間に沢山の市民が寛いでいる姿が見られる。
都会で人々が寛げるスペースはカネで買うもの。そんな市場原理がすっかり染み付いた東京の人々から見ると、時空の広場のような空間はどのように見えるのだろう。都会の一等地である大阪駅の真上に、市民が一銭の金を払う事もなく好き勝手に“ジベタリアン”をして寛いでいるのは、さぞかし見慣れない光景に映るのではなかろうか。
さらに大阪駅のノースゲートビルディングの11階に昇れば「風の広場」があり、ここでも市民が自由に寛いでいる。そこから階段を上れば13階には「天空の農園」というスペースがあって、いきなり農作物が植えられていたりして拍子抜けする。
■マスコミが伝えない「改良点」
大阪駅の真上に巨大なドーム型の大屋根が取り付けられたのは「大阪ステーションシティ」が開業した2011年5月のことである。24時間365日休む事のない日本屈指の乗降客数を誇る一大ターミナル駅の真上に、これだけの建造物を作り上げたのも凄いが、これによって唯一無二の見事な都市空間が成立している。
(東京のマスコミはこういう大阪の改良点については全く伝えようとしないよね。相変わらず道頓堀のネオンサインを映してばかりでね。
加えて、JR大阪駅北側の「うめきた」エリアには「グランフロント大阪」の南館と北館、JR大阪駅西側の旧大阪中央郵便局跡地には「KITTE大阪」、それから「イノゲート大阪」といった商業施設が立ち並ぶ。これらは2010年代~2025年までの間に相次いで開業したビルだが、大阪ステーションシティと同様に梅田におけるトレンドの最前線にもなっていて、いま一番活気のある一画と言っても良い。
■「ホームレスがテントを張る街」ではなくなった
そしてこれらの梅田エリアの再開発に“トドメ”を刺してきたのが、梅田最後の一等地と言われた旧梅田貨物駅跡地に作られた「グラングリーン大阪」という複合商業施設と、その中核的存在を成す「うめきた公園」だ。
2024年9月6日に華々しい“街開き”が行われ、梅田という大阪都心のど真ん中に大規模な芝生広場と噴水池を備えた都市公園が完成した。すっかり市民の憩いの広場として持て囃され、週末には多くの家族連れがレジャーシートを広げて思い思いの時間を過ごしている姿が見られる。
これまでの大阪市内はとにかく“緑の少ない”、公園不毛都市でもあった。都市の商業効率だけが重視されて公園の整備が行き届かず、市内の限られた場所にしか大型公園がない。大阪城公園、靭公園、天王寺公園、長居公園、そういった場所はあるにはあるが、いずれもホームレスがテントを張るなど治安の問題が付きまとっていた過去がある。
そうした環境もすっかり改善され、今まで都市公園の無かった梅田にもこうして「うめきた公園」が誕生した。
■タワマン急増でセレブが流入
これだけ大阪市内の公園・緑地環境が改善したのにはもう一つ理由がある。都市の“高級化”…つまり「ジェントリフィケーション」だ。
大阪の都心部にタワーマンションが増加し、これまで郊外で暮らしていたと思われる世帯の“都心回帰”が顕著なものとなっている。
大阪市は元来貧困層が多く住む下町が主流で、こうした“タワマン族”の流入はごくごく最近の話だ。特にグラングリーン大阪の南街区に建てられたタワマンは最高販売額40億円と桁外れの金額だ。富裕層の流入は大阪市にとっても堅実な税源となるため歓迎だろう。
都市のジェントリフィケーションは商業施設の飲食店舗の価格にも反映されていく。
特にグラングリーン大阪内にある、アジア初と謳われる「タイムアウトマーケット大阪」が顕著な例だ。
■高級フードコートがガラガラ…
ここはポルトガルのリスボン発祥の高級フードコートで、開業したこちらでもその路線は継承されている。“上質な大阪・関西の食”のテーマにあわせて、17もの店舗(開業当初)がひしめき合う。
大阪・梅田界隈では再開発が進み、タワマンの建設ラッシュが続く。そんな中、大阪駅周辺に急増する「タワマンセレブ民」や、「インバウンド(外国人観光客)」向けに作られた“意識高い系”空間として、たちまち大人気となる「はず」だった。
だが、現実はそう甘くはなかった。
開業から1年が過ぎた今年4月頃、筆者がタイムアウトマーケット大阪を訪れると、お昼の飯時だというのに、800席もあるという座席の殆どが空席と、ヤバいくらいにガラガラになっていた。
当初17店舗あったのが、その後7店舗も撤退し、今では10店舗のみになっているなど、明らかに運営が上手く行っていないのだ。
なぜこんなにもガラガラなのか。
ネット上には「水がない時点で問題外」「店が分かりにくいしこれといってそそるメニューもない」「値段の割には所詮フードコート」といった口コミがあふれている。
フードコートといえば、セルフサービスである代わりに、庶民むけの低価格帯で食事できることがウリの業態だ。なのにタイムアウトマーケット大阪では各店舗が価格を高く設定しすぎており、少なくとも1500円前後は払わないと何も食べられない。また、タイムアウト大阪には無料の水が用意されていない。有料(300円)の水を購入するか、各店舗でドリンクを注文しなければならず、その分さらに高くついてしまう。
■1500円前後という価格帯に見合っていない
価格帯の割には、高級感がいま一歩足りないところも不満が集中しているようだ。フードコートの高椅子は背もたれもなく、座り心地も宜しくない。1500円前後という価格帯に見合っていないように感じた。
また、内装デザインは確かに工夫されているが、変に凝ってしまった分、口コミにもあるように「どこの店に何が売っているか分かり辛い」というアクセシビリティの問題が生じている。
こうした様々な欠点がないまぜになり、一度訪れた客から、タイムアウトマーケット大阪への不満が噴出。
筆者がそういった問題点についてXで指摘したところ、凄い勢いでバズってしまい、かなり多くの方が同様の不満を感じていたことを痛感した。
■万博をネタにテコ入れ中
ただタイムアウトマーケット大阪側も、単に手をこまねいているわけではない。
筆者のX投稿が影響したかは不明だが、タイムアウトマーケット大阪も公式Xアカウントを立ち上げ、X上で積極的に情報発信を始めるようになった。
試しに筆者が「万博で人気だった店を入れて万博フードコートにすれば人気が出るのでは?」と投稿したところ、それを参考にしたのかは分からないが、本当に万博のイギリス館レストランを運営していた店舗が入居し、フィッシュ・アンド・チップスの提供を始めるようになった。
おかげでミャクミャクのぬいぐるみを持った万博アフター勢がやってくるようになり、最近では客の入りがちょっと持ち直している。
芸人やミュージシャンなどのパフォーマーを呼んでステージイベントをやるなどして付加価値を付けているわけだし、今後も改善の余地はありそうだ(しかしタコスセットがこんだけちょびっとで1800円というのは、やっぱりいただけないなあ……)。
■大阪人にとって「割に合わない」から
タイムアウトマーケット大阪の惨状については、すでに他の記事でも指摘されているが、問題はなぜこんなガラガラになってしまったのか、だ。
思うに、大阪人というのは「出した金に見合った価値のあるもの」にしかカネを出さないのが性分なので、タイムアウトマーケットのように2000円前後払ったのに硬い椅子に座って飯を食うというのは割に合わないと判断されてしまっているのだろう。よく大阪人はドケチだと言われるのだが、それは“価値があるものかどうか”を見定めている様子見を兼ねている最中なので、様子見期間が終わって、やっぱり価値のないものと判断されれば、たちどころにお金が落ちなくなる。
大阪人は古くから“名より実を取る”実利主義な一面が強い。人柄一つにしても、よそから見られる大阪人はガラが悪く下品、外面は悪いのかも知れないが、当の大阪人は全く気にしていない。
■大阪・関西万博が成功したワケ
開催前まではマスコミや世間に冷ややかな視線を送られた2025年の「大阪・関西万博」だって、いざ開催されてみれば、万博会場を訪れた人々に“内面”が評価されて、当初のお寒いムードは払拭され、沢山の来場者が押し寄せて大成功の内に幕を閉じた。
万博会場に何度も通っていた人々は万博グルメやグッズ購入などに湯水のごとくお金を使った。飲食代金がボッタクリだとか言われていた万博だが、そうした人々はむしろ喜んでお金を使っていた。クレカの請求に怯える怖さよりも、一生に二度と無いビッグイベントを余すこと無く楽しみたいという気持ちが勝った。万博が大阪人によって支持された証である。
なので、いくら梅田の界隈にタワマン住まいのセレブが増えても、まずは地元の大阪人に“内面”で支持されなければ飲食施設にしても何にしても経営的に立ち行かないわけだ。
もっとも、当のタイムアウトマーケットも改善を続けている。1000円以下で食べられる低価格帯のラーメン店を新たに入れたり、平日のランチタイムには1500円以下で食べられるメニューを出すなどして、今では徐々に客足が戻ってきており、もう言われているほどガラガラでも無くなった。
■大阪駅前の知られざる過去
そもそも大阪・梅田は元来セレブタウンどころか、ホームレスが闊歩する貧民街だった。
今でこそ大阪・関西万博やインバウンド景気によってどんどん「意識高いセレブタウン化」しているが、元来この街は「埋め田」と字を当てるほどに地盤の弱い土地であり、江戸時代からの由緒がある大阪七墓の一つに数えられる「梅田墓」も存在するなど、大阪の外れにあった「貧民窟」だった。
ある意味でその生き証人とも言える、梅田の繁華街のそこかしこに居座っていたホームレス達も、今となってはすっかり姿をくらましてしまい、過去の歴史ごと塗り替えられようとしている勢いだ。
大阪がかつて持たれていた「人情のある下町」というイメージも、都市の再開発でどんどんかき消されようとしている。名残り惜しいが、“大阪らしさ”という言葉の定義も近い将来ごっそり変わってしまうものなのかも知れない。
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逢阪 まさよし(おうさか・まさよし)
「東京DEEP案内」管理人
日本各地に残るディープな街並みをテキストと写真で紹介する人気サイト「東京DEEP案内」管理人。現在は有料noteに移行して発信を続けている。著書に約4万部を売り上げた『「東京DEEP案内」が選ぶ 首都圏住みたくない街』(駒草出版)などがある。
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(「東京DEEP案内」管理人 逢阪 まさよし)

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