※本稿は、石川幹人『科学が解明した 悩んでもしょうがないことリスト』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■なぜ人は不安になるのか
不安というのは、小さな恐怖が慢性的に積み重なって解消されない状態です。恐怖というのは、生存が脅かされる危険な状態を避ける心の働きです。
敵が襲ってきたら、戦う、逃げる、隠れるなどの対処をします。戦って勝てれば高揚感になり、逃げきれれば安心感になります。
ところが、隠れるという対処がくせ者なのです。
危険に対して隠れる対処をした場合、危険が去ったかどうかがよく認識できません。隠れていても敵に見つかってしまったら、再度対処をしなければならないので、警戒感が持続してしまいます。危険が去らない状態でコルチゾール(注1)が分泌されつづけ、健康に悪影響を与えるのです。
不安には、発端となる恐怖の対象があります。たとえば、嫌な上司からたびたび小言を言われているとします。
家に帰っても、職場のことを思い出したり、明日の上司との会話を想像したりして、また不安が高まります。
注1:恐怖に伴って分泌されるホルモンで、恐怖が去ると分泌が低下する。不安状態では分泌が継続してさまざまな細胞を破壊。ストレスが健康に悪いとされる主要因。
■今の社会で不安が生じる理由
今の社会は、死と隣り合わせではありません。自然界と違って、「誤った行動をとるとすぐに死んでしまう」と警戒する必要はないのです。だから、上司に言いかえしてみたり、「また言ってら」と軽くあしらってみたりすれば、大した問題でないと処理できそうです。
ところがどっこい、人間はなかなか動物的な反射から抜け出せません。死ぬほどの大問題ではないと頭ではわかっていても、警戒心が膨らんでしまうのです。これ、じつは死にそうな恐怖が減ってしまったがために不安が膨らむという、皮肉な関係なんです。
たとえば、大災害が起きてそれを生き延びれば、危険を脱したと認識できて不安が去ります。「上司の小言なんか大したことないや」とも思えてきます。
つまり、安全な文明社会では、「恐怖がやってきてそれを解消する」という自然界でふつうに起きていた循環がなくなったがために、不安が高じるのです。私たちは、ごく小さな危険を過大視して、恐怖を慢性化させているのです。
■不安を解消するためにすぐやりたいこと
文明社会で不安が高じるのは仕方がないので、少しでもうまく解消する手立てを講じましょう。
最大の手立ては「運動」です。
恐怖への対処である「戦う」と「逃げる」はともに運動なので、動物は恐怖を感じたとき爪を立てる、おしりを持ち上げるなど運動の準備をします。
一方で、「隠れる」は運動をしない状態なので、身体に悪いのです。実際に運動をしてしまえば、恐怖が去ったと勘違いして身体が平静状態に戻れます。
お化け屋敷やジェットコースターで本当に恐怖を感じてみるのもいいですよ。恐怖に対処できれば高揚感になるからです。
【悩んでもしょうがないことリスト:不安になる】
・不安はそもそも「危険を避けろ」という生存プログラムだった。
・社会が安全になり過ぎて、危険を解消する機会がなくなってしまった。
・運動で身体(からだ)を動かせば、脳が「危険の元になる恐怖が去った」と勘違いしてくれる。
■夜さみしくなるのはなぜか
私たちの祖先は100人くらいの小集団で、一生、共同生活をしていました。夜も一緒に眠っていたにちがいありません。暗闇に乗じて猛獣が襲ってきたら、みんなで一致団結、戦って追い払ったのでしょう。
共同生活には、息苦しい面もあったのかもしれません。集団の掟(おきて)を守らなければならないし、集団の中で期待される役割を果たす必要もあります。
文明社会では、そういった集団のしがらみが嫌われたようで、個人で生活する傾向が強くなりました。猛獣が襲ってくることもなくなったので、夜ひとりで眠っていても問題がなくなったのも、個人化傾向が強まった理由でしょう。
しかし、心の働き方は、文明社会の個人化に順応できていません。依然として夜は危険であると感じる(注2)のです。
猛獣がいないはずの暗闇に恐怖を感じると、そこに幽霊がいるなどの幻想を抱く人もいます。
こうして、仲間が一緒にいない夜は、孤独を感じやすく、とくにさみしく思うものなのです。
注2:じつはヒトを含めた霊長類の共通の祖先は夜行性だったことが知られている。そのために人類の色感知能力は鳥類などと比べて弱い。
■さみしさを軽減する「部屋での工夫」
孤独を和らげる方策には、幽霊の幻想の代わりに、芸能人の幻想が役立ちます。好きな芸能人や推しのポスターを貼って、夜一緒に寝ているところを想像するのです。すると、孤独感も解消できていきます。
しかし、この想像があまりに強くなると問題です。当の芸能人や推しが結婚するという段になると、自分のパートナーが奪われる気がして、嫉妬を感じたりストーカー行為に及んだりしてしまうのです。
嫉妬は本来は必要な感情でしたが、文明社会においては厄介なものでもあります。適度に想像して、孤独感を防止しましょう。
ただ、夜はよしとしても昼も孤独なのは望ましくありません。
夜孤独なのはしょうがないとしても、昼の活動は仲間と一緒にわいわい楽しくしたいものです。
【悩んでもしょうがないことリスト:夜、さみしい】
・夜は仲間と過ごして身を守るのが人類本来の生存戦略だった。
・文明社会は個人化を促したが、心の働き方は個人化に順応できていない。
・芸能人や推しなど、好きな存在を適度に想像し、孤独感を和らげる。
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石川 幹人(いしかわ・まさと)
明治大学 情報コミュニケーション学部 教授
1959年東京生まれ。東京工業大学(現・東京科学大学)理学部応用物理学科(生物物理学)卒。同大学院物理情報工学専攻修了。企業の研究所や政府系シンクタンクを経て、1997年に明治大学に赴任。専門は認知科学で、生物学と脳科学と心理学の学際領域研究を長年手がけている。
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(明治大学 情報コミュニケーション学部 教授 石川 幹人)

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