■「政策金利1%」よりも気になる「日銀の主な意見」
日銀は6月16日の金融政策決定会合で政策金利を0.75%から1.0%へ引き上げることを決定しました。
住宅ローンを借りている人、もしくは、これから借りようと思っている人にとって、金利への影響が気になるところではないでしょうか。
政策金利が0.25%上がれば、住宅ローンの変動金利も0.25%上がる可能性が高くなります。金利が低いもので1.2%前後、高いところでは1.5%近くになってくると考えられます。
ただし、今回のポイントは別のところにあります。
6月24日に公表された「金融政策決定会合の主な意見」では、「中立金利は2%程度と考えられる」というかなり踏み込んだ意見も出ていたことが明らかになりました。
さらに、「そこへ向けて数カ月に1度のペースで利上げを検討することが望ましい」という発言もありました。
■「国債買い入れ減額の停止」も要注目
中立金利とは、景気を加熱させることも冷やすこともない金利水準のことです。政策金利を中立金利に一致させていくことが金融政策の一つの目標となります。
もともと日銀の中には、日本の政策金利はまだ中立金利を下回っており、金融環境はなお緩和的だという見方があります。
そのため、今回政策金利を1%に上げても、まだ終わりではなく、経済や物価が見通し通りに推移すれば、さらに利上げを進めるべきだという意見が出ています。
つまり、政策金利2%に向けて、日銀はこれまでの「半年に一度」の利上げペースを今後速めていく可能性が高い、ということです。
一方で、日銀会合では、2027年4月以降、国債買い入れの減額を停止することも決定されています。これは長期金利の急上昇を警戒し、債券市場を安定させるための対応と考えられます。
つまり、日銀は政策金利を2%に向けて引き上げていくものの、長期金利の上昇は抑えられるということ。このポイントから、これからとるべき住宅ローン戦略が見えてきます。
■変動金利「2.5%超え」もあり得る
もちろん、政策金利2%が確定したわけではありません。中東情勢、物価、為替、賃金、景気の状況によって日銀の政策は変わります。
ですが、住宅ローンの利用者としては、「近い将来の政策金利2%」を想定しておく必要があるでしょう。
ちなみに、「政策金利1%」になると、変動金利も上昇し、1.20%~1.60%前後になることが想定されます。
さらに「政策金利2%」になると、想定される変動金利は2.20%~2.60%前後となります(図表1参照)。
今の金利を見て、「まだまだ変動金利は安い」と考えるのは危険です。
■変動金利とフラット35で比較してみると…
現在の住宅ローン金利を見ると、フラット35などの固定金利よりも変動金利のほうがかなり安くなっています。
変動金利は低いものだと1%前後ですが、フラット35の金利は6月の時点で3.21%前後まで上がっており、その差は2%以上もあります。
これを見て、「住宅ローンは変動金利の方が明らかに得」と感じる人が多いと思います。実際、現時点での毎月返済額や総支払額で比較すると、変動金利のほうが有利になりやすいです。
ここで、メガバンク系の変動金利とフラット35の比較を具体的な金額で見てみます。
【モデルケース①】
・現在36歳、定年は65歳。定年時に残っているローンは退職金で一括返済する
・借入金額4500万円、35年、元利均等返済、ボーナス払いなし
・政策金利が2%に上がっていくと想定
・変動金利:当初2年1.20%、残り33年2.20%(政策金利2%想定)
・固定金利:「フラット35(子育てプラス4ポイント)」、当初5年2.14%、残り30年3.14%
毎月の返済額では、変動金利の方が平均的に2.1万円ほど低くなっています。
「政策金利2%」を想定した「金利上昇後の毎月返済額」15万2460円も、フラット35の当初期間の毎月返済額17万295円よりも低くなっています。
総返済額でも変動金利が約6399万円、フラット35が約7166万円で、変動金利の方が767万円も少なくなっています。つまり、現時点の標準的な想定だと、数字上は変動金利の方がお得になりやすいということです。
■変動金利と固定金利の差は縮まっていく
ただし、ここで見落としてはいけないことがあります。
フラット35は長期金利の影響を強く受けます。その長期金利は、将来の物価、日銀の利上げ、国債需給、海外金利などを「先取り」して動きます。
そのため、現在のフラット35の金利は、将来の利上げをすでに織り込んでいるとも言えます。
一方、変動金利は政策金利の引き上げから数カ月遅れて上昇します。つまり、フラット35の金利のほうが先に上がり、変動金利は後から追いかけて上がっていくわけです。
変動金利の上昇ペースは今後加速する可能性がある一方、フラット35の上昇ペースは鈍っていく可能性があります。
前述したように、今回の日銀会合で2027年4月以降、「国債買い入れ額の減額」の停止が決まりましたが、これにより長期金利の上昇に歯止めがかかってくることも考えると、フラット35の金利上昇ペースはさらに鈍化していく可能性が高いでしょう。
日銀が利上げを始めた段階の今は、フラット35のほうが高く見え、変動金利のほう低く見えるフェーズということです。
現在の両者の金利差2%超は、いずれ縮まっていく可能性が高いと考えられます。
■「金利差1.25%以下」ならフラット35がお得に
これから住宅ローンを借りようと思っている人にとって重要な点は、現在の金利差を見て、「住宅ローンは変動金利一択」と判断するのは早計だということです。
今後の金利差の動きによって、選ぶべき選択肢が変わってくる可能性があるからです。
先に述べたように、政策金利1%の現時点では、変動金利が1.2%前後なのに対し、フラット35金利は3.21%で、金利差は2%超です。
現状、固定金利には安心感がありますが、変動金利より割高になってきます。
しかし、変動金利が2%前後、フラット35が3%台前半で踏みとどまった場合、金利差は1%前後まで縮まります。
さらに1%を切ってくると、フラット35の見え方が大きく変わります。
さきほどのシミュレーションを7月の「金利差1.25%」で再計算してみましょう。ここでは、変動金利は少し高めを予想しているネット銀行系とし、フラット35はSBIアルヒの保証型とし、子育てプラス8ポイントで、団信不加入として比較を具体的な金額で見てみます。
■フラット35の方が約123万円もお得になるケースも
【モデルケース②】
・現在36歳、定年は65歳。定年時に残っているローンは退職金で一括返済する
・借入金額4500万円、35年、元利均等返済、ボーナス払いなし
・政策金利が2%に上がっていくと想定
・変動金利:当初2年1.60%、残り33年2.60%(政策金利2%想定)
・固定金利:「フラット35アルヒ保証型(子育てプラス8ポイント)」団信不加入、当初10年1.85%、残り25年2.85%
当初の毎月返済額では変動金利の方が低く見えますが、金利上昇後は返済額の差はほとんどありません。
また、金利上昇後の変動金利の毎月返済額16万2050円は、フラット35の当初10年の毎月返済額14万5628円より2.2万円も多くなっています。
この差がものをいい、総返済額では変動金利が約6781万円、フラット35が約6659万円と、フラット35の方が約123万円少なくなっています。
■「子育てプラス」で金利が1%も下がる
また、フラット35保証型で団信を抜くことで、全期間の金利を0.28%引き下げられるのも大きいです。
団信不加入とする代わりに、別途生命保険に加入することを想定していますが、年齢が若い場合は毎月3000円前後の負担で加入できるため、保険料込みで考えるとフラット35にうま味が出てくるのです。
さらにフラット35には、子どもの数や住宅性能、維持保全、エリアなどに応じて、当初期間の金利を最大1%引き下げる「子育てプラス」があります。
フラット35の表面金利が3.14%でも、「子育てプラス」で1%の引き下げを受けられれば、当初期間の金利は2.14%になります。
このように、金利条件とシナリオによっては、フラット35の方が低くなる局面もあり得るのです。こうなると、フラット35の魅力ががぜん増してきます。当初期間は変動金利並み、または変動金利以下で借りられる上、その後の金利上昇リスクを遮断できるわけです。
■政策金利2%のシミュレーションが必要
もちろん、あらゆる場合にこうなるわけではありません。子育てプラスのポイントをどこまで取れるか。保証型で団信抜きにした場合、別で加入する保険料はいくらか。頭金をどこまで入れられるか、等によって結果は大きく変わります。
いずれにせよ、政策金利が引き上げられ、変動金利と固定金利の金利差が1%を切る局面では、フラット35のほうが割安として再評価される可能性があります。
では、今から住宅ローンを組む人はどうすればいいのでしょうか。
まず必要なのは、政策金利2%を想定して返済額をシミュレーションしてみることです。
変動金利なら現在1%前後で住宅ローンを借りられるとしても、将来的に2.2%から2.6%程度まで上がる可能性を見ておく必要があります。
また、すでに住宅ローンを借りている人にとっては、返済額が日銀の利上げ幅に近い形で上がることが多いことにも注意が必要です。新規向けの優遇金利だけを見て、将来の負担を軽く見積もるのは危険です。
毎月の返済額以外にも、総支払額、定年時残高、教育費が重なる時期の返済余力、共働きから片働きになった場合の返済継続力までしっかり確認しておく必要があります。
■決め打ちしないことが重要
今のように金利の方向感が大きく変わる局面では、変動と固定どちらが得か判断しにくくなっています。そのため、最初から変動か固定かを決め打ちしないことが重要だと思います。
特にローンの実行までまだ半年以上あるという方は、変動金利とフラット35の両方で審査を通しておくとよいと思います。
今の金利差を見て変動に決めてしまい、ローン実行時点でもしフラット35が有利だった場合に困ってしまうからです。
逆に、フラット35に決め打ちした場合も、もし金利上昇が想定より緩やかで変動金利がまだ低く抑えられていた場合、やはりメリットを逃すことになります。
今は、日銀が追加利上げを進め、長期金利も大きく動いている局面です。最後まで比較できる状態を作っておくことが重要と言えます。
金利のある世界では、住宅ローンの正解は一つではありません。大事なのは、金利がどう動いても生活を守るための戦略を持つことではないでしょうか。
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千日 太郎(せんにち・たろう)
公認会計士・YouTuber
1972年兵庫県生まれ。YouTube、テレビ、新聞などで住宅ローンや不動産の買い方について情報発信しているほか、「千日太郎の住宅ローンシミュレーター」をネットで無料公開している。著書に『家を買うときに「お金で損したくない人」が読む本』『住宅ローンで「絶対に損したくない人」が読む本』(日本実業出版社)などがある。
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(公認会計士・YouTuber 千日 太郎)

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