天候と同様に、日本は地域によって人々のライフタイルや考え方・好みは大きく異なる。統計データ分析家の本川裕さんが、地域差がくっきり出た都道府県別の調査を3つ紹介する――。

■意外な真実や法則性が潜む県民性データ
われわれは皆どこかの地域の出身である以上、日本国内の県民性や地域差のデータにはいやでも無関心ではいられない。ましてやそこに意外な真実や法則性が潜んでいると知ることができればなおさらである。
本連載では定期的にこうした「地域性あれこれシリーズ」を取り上げてきた。前回は「老舗企業の古さと現代企業の威勢のよさの地域差」に触れ、大きな反響を得たが、他にも顕著な地域差が出た調査がある。筆者のアンテナに引っ掛かったオモシロ統計を紹介しよう。
■カットバン? バンドエイド? ばんそうこう?
「ばんそうこう」の呼び方が地方によって大きく異なる点が話題となることが多い。それを調べた阿蘇製薬(本社:熊本県菊池郡)のWEBサイトにもとづき都道府県別の呼称分布をマップとして表した(図表1)。
図表1を見ると、名称は地域によって大きく3つに色分けされている(各都道府県で一番多い呼び方をマップ化)。すなわち、老舗ブランドの「カットバン」(商標名)、商品CMでひろがった米国発の「バンドエイド」(同)、コンビニなどで復活した一般名称の「ばんそうこう」である。
地域的には一般名称の「ばんそうこう」が関東・中部・北陸と日本の中央部の広い範囲を占め、「バンドエイド」が関西(そして関東の中で東京)を占め、そして老舗ブランドの「カットバン」がその他地域に広く分布している。
「バンドエイド」「カットバン」ほどではないが、「サビオ」(広島、和歌山)や「リバテープ」(大分、宮崎、熊本、沖縄)などの商品名も一部地域では優勢である。
こうしたものの呼び方の分布は基本的には「中心部に新しい言葉が残り、周辺部(地方)へ行くほど古い言葉が残る」という方言周圏論で説明できる側面が大きいと思われる。

方言周圏論の事例として最も有名なのは民俗学者の柳田国男が挙げたものである。近畿地方を中心とする「デデムシ」が最も新しく、その外側に「マイマイ」、さらに外側に「カタツムリ」、最も遠い東北や九州などに最も古い「ツブリ」が分布しているというものだ。
いわゆる「アホ・バカ分布」についても新しい言葉のアホが京都を中心に広がり、古い言葉のバカが関東・東北・九州に残るという事例が有名である。
「ばんそうこう」は戦後普及した新商品なのでこの法則がそのまま当てはまるとは限らないが、一応、各商品の販売年次を追うと以下である。
日本における販売開始年次1948年 救急絆創膏(ニチバン)

1959年 バンドエイド

1960年 リバテープ

1961年 カットバン

1963年 サビオ

後から販売されたカットバンのほうが地方に残っているのは法則通りではないが、各商品が全国で普及した時期はこの順番通りではないだろうし、テレビでの商品CMがどこで流されたのかも考慮しなければ真相はうかがえないのかもしれない。
■5年前は「バンドエイド」だった関東
注目されるのは一般名称の「ばんそうこう」の分布である。
阿蘇製薬調査の同じ調査は5年前にも行われており、それにもとづく旧マップをみると、今は「ばんそうこう」である関東諸県(東京除く)や徳島は、当時は「バンドエイド」で色分けされていた。この5年間でいかにも商品名っぽい呼称より一般的な呼び方に変化してきているのである。
「ばんそうこう」を商品名に含むコンビニ、ドラッグストア、100円ショップなどのプライベートブランド品が普及してきている影響も大きいと考えられる。
そう考えると、関西人(および関東では東京人のみ)が「バンドエイド」と呼んでいるのは、新しもの好きということではなく、むしろ古い習慣の残存といったほうがよいだろう。
なお、北陸や長野、静岡は、5年前から「ばんそうこう」だった。これら地域は、一時期の都市部を中心としたバンドエイド躍進にあまり影響を受けず、そのためもっとも古い呼称が生き残っていたということであろう。

■福岡、秋田、沖縄、熊本が4大美男美女自慢県
美人が多い都道府県はどこかという話題は、キング・オブ・酒飲み話である。
例えば、
・名古屋には美人説と不美人説の両方がある。

・「日本海一県飛び美人説」、すなわち、秋田・新潟・金沢・京美人の間隙をなす山形、富山、福井は不美人地域、また九州でも博多美人と長崎美人の間の佐賀は不毛
といった説がまことしやかにささやかれ続けている。
こうした諸説を研究分析した大規模調査はほとんどない。そこで、図表2に、それに近い代替的なデータとし、住んでいる都道府県は「美男美女の多さ」を自慢できるか、というソニー生命が毎年行っている47都道府県生活意識調査の設問の結果データを掲げた。
■色白=美人という尺度は正しいのか
各年の結果は、回答者数が各県100人と限られていることや、数値やランキングも年によって流動的だ。そこで、毎年同じ設問の調査が行われていることを踏まえ、複数年次、具体的には7年間を平均し、ばらつきを抑えた結果をグラフにした。
「美男美女の多さ」が自慢としている人が最も多い県は福岡であり、20.4%にのぼっている。これに秋田、沖縄の15.1%、熊本の13.7%が続いており、この4県が次位以下をかなり引き離した「美男美女自慢県」といってもよかろう。
これらは、かなり自県にひいき目の結果となっているはずであるが、それでもこれだけの差が出ているということは、全国的な評判をかなり反映した結果となっているからだろう。
かつて美人かどうかは公家さん的な容姿、すなわち色白な美肌かどうかで判定されることが多かった。すると積雪が多く、日照が少ない日本海側が有利となり、反対に、日照時間が多い瀬戸内地方や農業に従事する人の多い農業地域は不利となる。

巷には、秋田、京都、福岡が日本3大美人、香川(讃岐)、茨城(水戸)、群馬(上州)が日本三大不美人のような説もあるが、こうした説が江戸時代以来普及していた背景には色白=美人といった尺度による診断が幅を利かせていたと思われる。
■色白美人から混血美人への大転換
だが、この色白かどうかという天候・生活環境要因に根拠を求める説に対して、近頃、大陸や欧米との混血説も有力になりつつある。
福岡美人の由来として、博多が古くから大陸との玄関口であり、多様な文化や遺伝子が交わることで洗練された容姿が育まれたからとされる。沖縄美人についても、古くは中国との交流、戦後は米軍駐留の影響で混血が多い点が指摘されることが多い。
秋田美人に関してもNHKの番組「ブラタモリ」(2019.11.16放映)が、従来の天候・積雪・米食要因説のほかに、大陸との混血説が俗説として存在するとした。
■「美男美女自慢」最低は四国の県
では、前出の美男美女自慢の調査で自県評価の低い地域についてはどうか。
7カ年を通じて各年1人も自慢した人がいなかった県のみが統計上「0.0%」となるがそういう県はさすがになく、最低は0.4%であり、香川が該当している。それに次いで低いのは0.6%の奈良、0.9%の岡山、1.0%の長野、1.1%の岐阜、静岡、和歌山……となっている。
香川は最低であるが、これは上で触れた日本3大不美人とする俗説と一致している。しかし、秋田における混血美人説を踏まえると、香川は逆に純血日本人が多い結果……と言えるのだろうか。
■便秘比率トップの京都人
最後に紹介するデータは、江崎グリコが各県の100人に便秘かどうかを直接聞いた都道府県調査を行っている。2014年といささか古い調査だが、図表3にその結果を掲げた。

江崎グリコの調査では「あなたは便秘ですか?」という質問に対して「便秘だと思う」および「どちらかと言えば便秘だと思う」と回答した便秘比率1位は京都と富山で共に40%、次いで3位は徳島39%、4位は石川37%、5位は福井と熊本で共に36%となっている。
※上位県・下位県以外は「順位」のみが調査元から公表された
上位県は京都、富山を筆頭に関西や関西とつながりの深い北陸や四国の地域で占められている。大阪も7位となっている。もっとも奈良や兵庫は順位がかなり低いので関西だからといって便秘になりやすいとも簡単には言えない。
一方、便秘傾向の低い“快腸”1位は埼玉で21%、2位は福島と岐阜で共に23%、4位は静岡24%、5位は愛知と奈良で共に25%という結果になっていた。
トップ(40%)が最下位(21%)の約2倍というのはけっこうな差だと思われる。
なぜ、京都が便秘比率トップなのか。これは私の推測だが、「イケズ」にたどり着くと思う。この点を説明しよう。
■好んでそうしている訳ではない京都人のイケズ
京都出身の民族学者・梅棹忠夫は、よその地域から京都大に赴任してきた大学教授がタバコ屋で「おい、タバコくれ」といったのにひどく驚いたと述べている。身分の上下は関係なく「すんまへんけど、タバコおくれやす」でなければ「京都人の市民原則」から完全にはずれるというのだ。「京都では、ことばのぞんざいさというのが、ひじょうにいやがられる。
とくに相手から見くだしたいいかたをされたときには、どうしてそんないいかたをされなければならないのかと、ひらきなおってもよいわけである。身分感覚よりなにより、対等であるという市民意識が、京都のようなふるい都市の根底には、つよくながれている」(『梅棹忠夫の京都案内』角川ソフィア文庫)。
京都では「なにごとも、オブラートでつつんで、やわらかく、まわりくどくいわなければならない」。例えば、家の中でふすまやドアを開けっ放しにしたままの状態を諭すため「誰かこのあとから来はるの?」と言うような京都人の遠回し表現は、対等の相手に敬意を払うため、ずけずけと指摘することを避けているためだと考えられる。
ところが、これを逆にいじわるや、場合によっては外面とは裏腹の排他性ととらえ、京都人は「いけず」だと非難されることもある。
ちなみに、当連載の3月には「苦手の都道府県」の筆頭として京都が挙げられているという記事を掲載した。これも京都人のいじわるな婉曲表現がひとつの要因となっていると考えた。
■京都人が苦しむイケズの自家中毒
だが、京都人のこうした表現はいじわるでないばかりでなく、また、実はそう好き好んで取っている態度でもない。
これも少し古い調査だかNHKの県民意識調査の結果によると(図表4)、京都人は自分たちの「歴史や文化財」を好きな人が全国でもトップクラスに多いが、自分たちのもつ「人情」について好きな人は、東京や奈良と並んで最も少ない。京都府内を地域別に集計した結果を見ても、特に洛中と呼ばれる地域の純粋京都人は自分たちの人情を好きだと言った人は0.9%と100人に1人もいない。
好きではないが、京都人の伝統であるし、他から独立した京都社会を成り立たせる重要な生活習慣だから継続しているということなのか。もし、そうであるなら、それ自体がストレスになる可能性がある。
結果、「イケズ」が自家中毒を起こし、便秘比率トップにつながっている。そんなふうに考えるのはこじつけが過ぎるだろうか。
便秘比率が最低の都道府県はどこかというと埼玉である。川越を除いて全県的に古い都市が存在せず京都と対極の地域性を持つ埼玉では京都とは正反対に人間関係などのストレスが少ないのであろう。
なお、ここで引いているのは便秘気味かという調査結果であり、病的な便秘が対象となっているわけではない。便秘かどうかの有訴率は厚生労働省の国民生活基礎調査でも調査されているが、こちらは「病気やけがなどで体の具合の悪いところ」の自覚症状を訊いているので便秘気味ぐらいは回答されない。
2022年調査の結果によると、実際、便秘が多くなる65歳以上でも便秘の有訴率は平均7.1%に過ぎず、京都は7.8%、11位と特段に高いわけではない(ちなみに1位は香川の9.3%)。念のため最後に申し添えておく。

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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)

統計探偵/統計データ分析家

東京大学農学部卒。国民経済研究協会研究部長、常務理事を経て現在、アルファ社会科学主席研究員。暮らしから国際問題まで幅広いデータ満載のサイト「社会実情データ図録」を運営しながらネット連載や書籍を執筆。近著は『統計で問い直す はずれ値だらけの日本人』(星海社新書)。

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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)
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