先日鬼籍に入ったセブン‐イレブン創業者の鈴木敏文氏は、顧客心理の読み方の天才とも言われていた。「本人よりも鈴木氏のことを知っている」と称されたジャーナリストの勝見明氏に鈴木流心理学経営を解説してもらった――。

■どうやれば顧客の心理は読めるのか?
5月18日に逝去されたセブン‐イレブン創業者、鈴木敏文氏(セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問)を〈鈴木語録〉で追悼する「鈴木流経営学の真髄」。前編の「『みんなが反対することは、たいてい成功する』コンビニを作った男・鈴木敏文に未来が見えたワケ」に続き、後編は「心理学経営を掘り下げる」がテーマだ。
鈴木流経営学では、顧客の心理を読んで潜在的ニーズをつかむことを何より重視したため、「心理学経営」と呼ばれた。人間心理の重視は、顧客だけでなく、店舗経営における従業員の心理、さらにはマネジメント全般におけるリーダーの心理にも目を向けた。
そこで、「(1)顧客の心理を読む」「(2)店舗運営のポイント」「(3)リーダーの心得」の3つの面から、10個の質問を設定し、それに答える形で鈴木流心理学経営を掘り下げる。
■(1)顧客の心理を読む
① なぜ、競合相手の出現はチャンスになるのか
一般的に、自店と商圏が重なるところに競合店が出店すれば、「強敵出現=ピンチ」と考えがちだ。しかし、鈴木流の発想では逆に「チャンス」ととらえる。
〈鈴木語録〉

競合店と比べてよいか悪いかを評価するのは、自分たちではなく、顧客の側です。
競合店の出店は、顧客に自分たちの提供する商品やサービスのよさを比較して評価してもらえる物差しができたことになります。
コンビニの場合ですと、商圏に1軒増えたことで、コンビニに対する関心や認知度も高まります。
とすると、店にとっては、自分たちの店の価値を顧客にあらためて感じてもらえるチャンスになるのです。

鈴木氏は、ものごとを常に「陽」と「陰」の両面からとらえる。
誰もが「陰」の面にとらわれがちなときに、「陽」に目を向ける。ここに鈴木流の逆転の発想がある。
■消費が爆発する「ドミナント戦略」
② なぜ、セブンは「ドミナント戦略」をとるのか
ドミナント戦略とは、一定エリア内に集中出店する戦略のこと。他の大手チェーンが早くから日本全国に出店したのに対し、セブン‐イレブンはドミナント戦略に徹したため、最後に沖縄に進出して全都道府県への出店が完了したのは、1号店から45年後のことだった。
このドミナント戦略も鈴木氏の経営判断によるものだった。セブン‐イレブンのドミナント戦略には主に2つの効果がある。
1つはサプライチェーンの面でのメリットだ。ドミナントであれば、弁当メーカーが店舗の近くにセブン‐イレブン専用工場を設置しても経営が成り立つ。その結果、セブン‐イレブンの専用工場率は90%を超え、他チェーンと圧倒的な開きがある。
店舗近くに専用工場があれば、必要な商品が、必要なときに、必要なだけ鮮度の高い状態で供給できるようになる。
もう1つが顧客の心理面での効果だ。1つの商圏でセブン‐イレブンの店舗密度が一定以上になると、商圏内の店舗の日販が急速に伸びていくようになる。
ある連続的な変化が一定レベルまで積み上がると、それがもたらす変化が一段上のフェーズへと移っていく。この変化のポイントを鈴木氏は「爆発点」と呼んだ。
〈鈴木語録〉

ポイントは顧客のセブン‐イレブンに対する認知度です。セブン‐イレブンが新しい地域に出店し、その地域での店舗数が増え、店舗密度が一定レベルに達すると、顧客の認知度がにわかに高まっていきます。
すると、心理的な距離感が一気に縮まって、日販カーブが急速に立ち上がるようになる。これが爆発点です。
セブン‐イレブンがドミナント戦略を続けたのはそのためです。

実際、セブン‐イレブンのある都市圏での出店が他チェーンに遅れ、最後発になっても、ドミナント戦略を進めた結果、セブン‐イレブンの平均日販がその都市圏で1位になっていったケースは数多い。
③ なぜ、アジフライ100枚が軽く売れるのか
鈴木氏は、爆発点理論を商品の販売方法にも適用していった。たとえば、棚に並べる商品のフェイス(陳列面)を一定以上広くとると、顧客は手を伸ばすようになる。鈴木氏はこんな例を挙げて説明した。
アジフライが100枚並んだ売り場と20枚並んだ売り場、どちらが早く売り切れるか。

20枚のほうが早いように思えるが、100枚のほうが早い。広いフェイスをとれば100枚は軽く売れるアジフライも、人気があるからフェイスが少なくても売れるだろうと思うと、20枚も売れない。その理由はこうだ。
〈鈴木語録〉

広いフェイスをとって並べると、その商品に対する顧客の認知度は大きく高まり、爆発点に達します。
顧客は、「こんなに広くフェイスをとって並んでいるのだからおいしいに違いない」「ほかのお客も買っていそうだから自分も買ってみよう」と「選ぶ理由」を直感して手を伸ばすようになる。
もの余りの買い手市場の時代に大切なのは、顧客に対し、その商品を「選ぶ理由」や「納得して買う理由」、つまり、「買うことを正当化できる理由」を示すことです。

④ なぜ、セブンでは真冬に冷やし中華が売れるのか
鈴木氏は、よく、店の中にいる売り手と市場(店の外)にいる買い手の感覚の違いを、室内と室外の違いにたとえた。
たとえば、もし真夏の気温が20度だったら、室外では肌寒くて長袖が必要になるが、室内ではTシャツ一枚でも大丈夫。また、もし真冬の気温が20度だったら、室外では上着など着ていられないが、室内ではセーターを着ていても大丈夫。
店の中(=室内)にいる売り手は、市場(=室外)にいる買い手の「皮膚感覚」を忘れがちだ。この買い手の皮膚感覚の大切さを説くため、鈴木氏がしばしば挙げたのが、セブン‐イレブンで売る「真冬の冷やし中華」の例だった。
〈鈴木語録〉

セブン‐イレブンでは、真冬でも汗ばむほど暖かい日には冷やし中華が売れます。

店の中にいる売り手は、とかく過去の経験や既存の概念に縛られ、「冷やし中華=夏の食べ物」と考えがちです。一方、店の外にいる顧客はそれこそ真冬でも、汗ばむほど気温が上がると「暖かい」と感じ、冷やし中華が並んでいれば、ふと手を伸ばすのです。
この「真冬の冷やし中華」の例で考えるべきは、市場は常に人間の心理や感情と結びついた「皮膚感覚」で動くということです。売り手は顧客の皮膚感覚を忘れてはいけません。

⑤ なぜ、店舗では接客が必要なのか
コンビニも、スーパーもセルフサービスが基本だ。それでも、鈴木氏は、もの余りの買い手市場の時代には売り手と顧客との「対話」を通した接客の重要性を説いた。その理由をこう語った。
〈鈴木語録〉

今の消費者は何を買っていいのか、“迷う”というより、“確認したい”という意識が強くなっています。その商品やサービスが本当に自分のニーズを満たしているのか確認したいのです。
そこで、接客においても、お客様に近づき、買うべき価値があることを顧客に伝えるためのコミュニケーション力が求められるようになっているのです。
接客を通して、売り手が顧客と同じ価値観を持っていることを伝える。顧客との「対話」なしではものは売れなくなっているのです。


⑥なぜ、顧客の心理は「わがまま」で「矛盾」しているのか
鈴木氏は、「日本の消費者の心理は矛盾している」と語った。
たとえば、朝採りの野菜の「鮮度」にこだわる一方で、カット野菜の「利便性」も求める。魚も「鮮度」を気にする一方で、マグロの刺身はお造りになった「パック詰め」を好む。同じおでんでも、コンビニでは好きなネタが選べる方式が好まれるが、スーパーでは袋詰めが好まれる。売り手はこの矛盾にいかに対応するか。
〈鈴木語録〉

買い手市場になれば、顧客はますますわがままになり、欲求は矛盾したものになります。顧客は、売り手が買い手の矛盾をどのように解決してくれるかを見ています。
その解決の仕方に共感すれば、店に足を運び、商品を買ってくれます。
われわれの仕事は顧客心理の矛盾を解決することであり、そこに価値が生まれるのです。

■店舗運営のポイント
① なぜ、売り手は「機会ロス」より「廃棄ロス」に目を奪われやすいのか
売り手は、商品の売れ残りによる廃棄ロスに関心が向かいがちで、機会ロスにはあまり目を向けない。それは売り手の心理によるという。
〈鈴木語録〉

なぜ、売り手はとかく廃棄ロスを恐れるのか。

廃棄ロスは目に見えるからです。どのくらい損をしたか数字にもすぐ表れます。
一方、機会ロスはその商品が十分にあれば得られたはずの売り上げが得られずなかったことで生ずるロスです。
機会ロスのほうは直接的には目に見えません。数字にもすぐには出てきません。だから、売り手は廃棄ロスばかりに目を奪われ、消極的な発注に陥りがちなのです。

売り手が廃棄ロスを恐れて消極的な発注を行い、商品が棚に少量しか置かれていないと、顧客は「あまり物」や「売れ残り」と感じ、「選ばない理由」になってしまう。結局、売れないまま、廃棄ロスになる。消極的な発注は機会ロスも増える。
これが繰り返されるうちに悪循環に陥り、売り上げはどんどん縮小均衡になっていく。
「鈴木流経営学の真髄」の前編で、セブン‐イレブンの店舗では商品発注の際、仮説・検証のサイクルを回していくと述べた。この仮説・検証は目に見えない機会ロスを「見える化」するために行うという。
〈鈴木語録〉

天気予報や地域の行事の予定などの情報から、明日はどんな商品が売れるか、売れ筋商品について仮説を立て、思い切って多めに発注してみる。
結果を検証し、仮説どおりに売れれば、その分、機会ロスが生じなかったことになる。つまり、目に見えない機会ロスが売り上げの数字になって「見える化」されるわけです。
仮説・検証を習慣づければ、廃棄ロスより機会ロスの方に目が向くようなり、拡大均衡へ持っていくことができるのです。

② なぜ、「自分は玄人である」と思い込んでいる売り手ほど判断にズレが生じやすいのか
一般的に、経験豊富でその道の“プロ”や“玄人”といわれる人ほど的確な判断ができると思われがちだが、鈴木氏は必ずしもそうではないという。
〈鈴木語録〉

「自分は玄人である」と思い込んでいる人の問題点は、自分の先入観を裏づける情報ばかりを見つけようとして、状況の変化を示す新しい情報がもたらされても、「うちは違う」といって、都合の悪い話は聞こうとしないことです。
その結果、顧客の生活感覚や日常感覚からズレてしまうのです。

セブン‐イレブンの店舗では、素人である学生のアルバイトも商品の発注を任され、「仮説・検証」を行い、単品管理を実行していく。そのため、経営学者の間では、「セブンでバイトすると3カ月で経営学を語るようになる」ともいわれた。鈴木氏は何より「素人の発想」を重視した。
〈鈴木語録〉

過去の経験や既存の常識に染まっていない純粋さ、それが素人の強さです。
前例にとらわれない素人のような発想ができるか。素人的な発想を軽視せずに耳を傾けることができるか。
顧客のニーズの変化をつかむには、生活感覚を持った素人の感覚のほうが重要であるという発想こそが必要です。

■「お客様のために」と「お客様の立場で」は違う
③ なぜ、スタッフには「標語」よりも「話し言葉」で言い換えた方が伝わるのか
鈴木氏は、「顧客の立場で」考える顧客起点の発想を何より重視した。しかし、「顧客第一主義」「顧客満足度経営」といった類いの標語は、スタッフにとって「右の耳から左の耳へ抜け、何も残らない」として使わなかった。
〈鈴木語録〉

たとえば、「顧客第一主義」のような標語は、相手に理解されるかどうかより、掲げることが目的で、「あとは勝手に理解しろ」といった感じです。
重要なのはみんなに理解させることです。それには標語の意味を示さなくてはなりません。
私なら、「顧客第一主義とは常にお客様の立場で考えることだ」といい換え、こう伝えます。
顧客第一主義とは「お客様のために」と考えることだと思うだろうが、「お客様のために」といいつつ、売り手の立場で考えていることが多い。
大切なのは「お客様の立場で」考え、売り手にとって不都合なことでも、お客様にとって好都合で満足につながれば、それを実行することだ。
これが本当の解説です。

④ なぜ、「一見不可能に見える目標」が重要なのか
セブン‐イレブンで重点商品のキャンペーンが始まると、意欲的な店舗では、「シュークリームの販売数300個」「フランクフルト1000本」……といったケタ違いに高い「一見不可能に見える目標」を掲げる。鈴木氏は、本部の社員たちに対しても、「一見不可能に見える目標」を設定させることが多かった。そのねらいをこう語った。
〈鈴木語録〉

これまで以上に高い目標は、過去の経験の延長線上では達成できません。困難な目標をあえて設定するのは、今までのやり方を見直し、新しい仕事の発想を模索させるためです。
このとき過去の経験の呪縛から離れ、自分本来の感性や好奇心を存分に発揮して、自由に考えれば、さまざまな制約条件が排除されていきます。
リーダーは高い目標を設定することでメンバーの潜在能力を引き出し、殻を破らせる。メンバーは挑戦する力をつけ、成長していく。チーム力はどんどん高まっていくでしょう。

⑤ なぜ、スタッフ全員で情報を「共有」することが大事なのか
セブン‐イレブンで、スタッフ間のコミュニケーションを重視する店舗では、グループメールや連絡用ノート、伝言板などを使って、スタッフ全員での情報の共有を図っているケースが多い。鈴木氏は情報共有の意味合いをこう語った。
〈鈴木語録〉

情報の共有が重要なのは、みんなが同レベルで経営方針を理解し、同じ考え方や価値観を共有するためです。
同時に公平性の面からも大切です。提供する情報の質と量を同じにし、公平にすることで、初めて能力を競い合うことができるのです。

つまり、情報を共有すると、協力し合う意識と同時に、適度な競争意識も喚起される。
その結果、協力し合いながら、成績を競い合うことで、店舗全体で大きな力が発揮されるということだ。
⑥ なぜ、「挑戦した部下の失敗」は叱ってはいけないのか
鈴木氏は、厳しい経営者だったが、挑戦を回避した部下をきつく叱責することはあっても、挑戦した結果、失敗した部下を叱ることはなかった。
〈鈴木語録〉

メンバーが挑戦した結果、思うように成果が出ずに失敗したとき、目標を達成できなかったという結果だけでは叱ったり、ペナルティを科したりしてはならない。
失敗という結果よりも、挑戦したかどうか、目標を達成していくプロセスが重要だからです。
部下が挑戦して失敗したら、それは1つの勉強になり、それを踏み台にして次の挑戦へとつながり、積み上がっていく。それをサポートしていくのがリーダーの役割です。

一方、部下は失敗をどう挽回すればいいのか。鈴木氏はさらなる挑戦を求めた。
〈鈴木語録〉

大切なのは失敗をバネに次の成功につなげることです。
「マイナス1」の失敗を挽回するには、「プラス1」の成功をするだけでなく、マイナス分を補って、なお、あまりある大きなプラスの挑戦を打ち出すべきでしょう。

挑戦した結果としての失敗を許容することで、部下のさらなる挑戦を引き出し、組織全体の挑戦力を高める。それが鈴木流のマネジメントだった。
■(3)リーダーの心得
① なぜ、人は「自分の問題」になると保守的になるのか
鈴木氏は、組織のリーダーとして常に新しいことに挑戦した。なぜなら、顧客は新しいことを求め続けるからだった。
リーダーが仮説を立て、新しいことに挑戦していくとき、多くの場合、困難が伴う。すると、2つの心理が働くという。
〈鈴木語録〉

人間は矛盾した「2つの顔」を持っています。1つは、やるべき価値があると思ったら、困難であっても「挑戦しようとする自分」です。
もう1つは、本能的に困難から「わが身を守ろうとする自分」です。人は特に自分の問題になると保守的になりがちです。

日ごろ、世の中に対しては革新的なことをいっている人でも、自分の問題になると保守的になる。どうすればいいのか。
〈鈴木語録〉

自分を挑戦する生き方へと変えていくには、保守的な心理に妥協しないことが必要です。私の場合、自分で自分に妥協ができなかったので、常に挑戦を続けました。
人は妥協するより、「本当はこうありたい」と思っているときのほうが精神的に安定するものです。
守ろうとする自分があることも認めつつも、新しいことに挑戦しようと意欲を持ち続ける。それが人間本来の生き方ではないでしょうか。

② なぜ、人は「自分が納得しやすい話」をつくろうとするのか
人は、自分にとって不都合な問題が生じたとき、とかく、「○○のせいだ」と考えがちだ。その「他責思考」を鈴木氏は常にいさめた。
〈鈴木語録〉

自分にとって不都合な問題が生じたとき、「○○のせいだ」と考えがちなのは、自分を守ろうとする心理が働くからです。本当の原因は自分の中にあり、仕事のやり方を変えるべきなのに、なかなか変えようとしない。
自分にとって都合の悪い原因には目を向けず、「自分が納得しやすい話」をつくろうとするのです。

自分を変えるには、「こうありたい」という目標を持つことが大切だという。
〈鈴木語録〉

うまくいかない原因を外に転嫁し、「○○のせい」にしたら何の進歩もありません。
人は現状を変えることに抵抗します。同時に、自分を変えていこうとする習性も持っています。
前に踏み出すには、自分は「こうありたい」という姿を描くことです。過去や現在の延長線上ではなく、未来から「ありたい姿」を描くことのできる人は自分を変えることができるのです。

■リーダーは「ティーチャー」たれ
③ なぜ、リーダーは「ポリスマン」であってはならないのか
1991年にアメリカのセブン‐イレブンが倒産したとき、再建を任された鈴木氏は、アメリカのオペレーション・フィールド・カウンセラー(OFC=店舗経営相談員)の問題点を見つけた。OFCは各自、何店舗かを担当し、店舗経営のアドバイスを行う。
しかし、アメリカのOFCたちは、加盟店を回りながら、マニュアルをもとに「あれはできている」「これはできていない」とチェックするだけだった。鈴木氏は、OFCたちにこういって意識改革を求めた。
「これまで君たちがやってきたことは、いわば、ポリスマンの仕事だった。これからはティーチャーの役割が必要だ。対話をともなった慕われるティーチャーにならなければいけない」と。
〈鈴木語録〉

会社の中にも、ポリスマン的な上司やリーダーはよく見受けられます。
部下のミスをチェックするのが上司の仕事だと考え、そのくせ、自分では答えを出せない。上からの命令をそのまま部下に伝えるだけです。
部下たちはミスを犯さないことを第一に考えて仕事をするようになり、挑戦する意識はまったく生まれない。組織は沈滞化していくでしょう。

では、「よきティーチャー」してのリーダーになるにはどうすればいいのか。
〈鈴木語録〉

よきティーチャーであるリーダーは部下に対し、常に自覚を促します。すべての行動は自覚から始まるからです。
よきティーチャーであるリーダーは、どんな伝え方をすれば、相手が自覚し、動いてくれるか、あらゆる面から考えなければなりません。
言葉だけではなかなか伝わらないときには、一緒に行動しながら問題解決を図り、手本を示して、自覚のきっかけにすることも大切です。
リーダーにとって最も重要なのは、部下が自覚をもって行動できるように徹底させる力、すなわち、徹底力です。

④なぜ、リーダーは「結果責任」をとらなければならないのか
部下には自覚をもって行動できるように徹底させる。一方、上司はすべての結果に対して責任を持たなければならないという。
〈鈴木語録〉

部下が仮説を立て、新しいことに挑戦するときにはリスクもともないます。うまくいかなかったらどうするかと本人は不安を抱くでしょう。
このとき、リーダーに求められるのは、部下の判断や行動についての結果責任はすべて自分でとることです。
仮に部下が失敗しても、この範囲なら組織は決定的な打撃は受けないという線引きの判断を行ったら、あとは部下に思いきり挑戦させる。
成功したら部下の成果ですが、もし部下が失敗したら、責任は上司がとればいいのです。

不確実性が高い変化の時代に求められるリーダーシップのあり方とはどのようなものか。
〈鈴木語録〉

変化の時代には、上司はまず組織としてどの道を進むべきか、素早く決断し、はっきりと方針や方向性を打ち出さなければなりません。
方針や方向性を示したら、個々の仕事については部下たちに権限委譲して思い切り挑戦させ、自分は情報を共有しながらサポートに回る。
部下が壁にぶつかり、守りに入ろうとしたら、追い詰めて気づきを与える厳しさも必要です。
いざとなったら部下に代わり、自分で出て行って答えを出せる能力も当然、持たなければなりません。
スピードが求められる時代だからこそ、上司がトップダウンで方向性を示し、あとは部下に権限委譲し、自分はよきティーチャーとして部下をサポートしていき、結果責任はすべて自分で負う。
それが変化の時代に求められるリーダーシップのあり方です。

トップダウンと権限委譲。サポートと結果責任。それを、セブン‐イレブン創業、弁当・おにぎりの販売、セブン銀行設立、プライベートブランド「セブンプレミアム」開発と、数々の新事業への挑戦で実践したのが鈴木氏本人だった。

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勝見 明(かつみ・あきら)

ジャーナリスト

1952年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退後、フリージャーナリストとして、経済・経営分野を中心に執筆を続ける。著書に『』『』ほか多数。最新刊に『』(野中郁次郎氏との共著)。(写真提供=日刊ゲンダイ)

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(ジャーナリスト 勝見 明)
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