相手の心を動かす人はどんな言葉を使っているか。一般社団法人日本聴き方協会代表理事の松橋良紀さんは「なぜか人の心に残る人は、言葉の『型』ではなく、言葉の『温度』を選んでいる。
集団への同調から安心を優先すると、言葉からあなたらしさが消えてしまう」という――。
※本稿は、松橋良紀『誰とでもうまく「話せる人」と「話せない人」の習慣』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■「なんかつまらない人」が多用するフレーズ
「なんかこの人つまんない」
そんなことを感じることはありませんか?
では、つまらないのか、面白いのかの違いはなんだと思いますか?
つまらない人、面白くない人には共通のポイントがあります。それは、凡庸フレーズが多いことです。「正しいけれど、感情が動かない言葉」を乱発しているのです。
どこでも聞こえてくるフレーズは無難ですが、聞く側にはほとんど印象が残りません。一方で、同じ内容を話しても、なぜか人の心に残る人がいます。彼らは、言葉の「型」ではなく、言葉の「温度」を選ぶ人です。
心理学では、人の脳は“慣れ”に非常に敏感だとされています。
聞き慣れた言葉を何度も聞くと、脳はそれを“新しい情報ではない”と判断してスルーします。たとえば、同僚から「頑張ってください!」と言われても、心は動きません。
■安心の優先で、言葉から自分らしさが消える
しかし、「あなたがいると、チームが明るくなるんですよ」と言われたらどうでしょう。
言葉の内容は似ていても、心への届き方がまったく違います。
人はなぜ、つい聞き慣れた言葉を使ってしまうのでしょうか。
その根底には、承認されたい欲求があります。心理学者アドラーは「人間のあらゆる悩みは対人関係の悩みである」と言いました。つまり、人は常に「相手に嫌われたくない」という恐れを持っています。
そのため、誰も傷つけず、否定されにくい“無難な言葉”を選ぶ傾向があります。「凡庸なフレーズ」とは、まさに集団への同調の産物なのです。
そうして安心を優先すると、言葉からあなたらしさが消えます。「印象に残らない」ということは、相手の記憶に残らないということ。それは、ビジネスでも人間関係でも、存在感を失うということです。
■「お疲れさま」より「圧巻でしたね」
では、どうすれば自分の言葉を“生きた言葉”に変えられるのでしょうか?
心理的抵抗を感じずに始められる3つの方法を紹介します。
①言葉に「情景」を加える
「お疲れさま」ではなく、「今日のあのプレゼン、圧巻でしたね」
相手の記憶の中の映像を呼び起こすことで、共感が生まれます。

②感情の言葉を足す
「良かったですね」ではなく、「それを聞いて、私までうれしいです」
自分の感情を添えると、距離が一気に縮まります。
③“ちょっと変”を恐れない
「今日もがんばりましょう」よりも「今日も、いい波に乗りましょう」
言葉に少しのユーモアや比喩を入れると、印象に残ります。人は“正しい言葉”よりも、“温度のある言葉”に動かされるものです。
【凡庸フレーズの例】「引き続き頑張ります」「特に問題ありません」「検討します」
「しっかりやっていきたいと思います」「努力します」「頑張ります」「勉強になります」「共感しました」「全力で頑張ります」
以上の言葉をインパクトのある言葉に言い換えていきましょう。

凡庸なフレーズを使う理由は、心理的には以下の特徴を持っています。
1.自己防衛的な言葉→「失敗したくない」という心理から選ばれる。

2.同調圧力への適応→集団に合わせることで“安全”を感じるが、個性が消える。

3.認知的省エネ→新しい表現を考えるのは脳のエネルギーを使うため、既知のフレーズを選ぶ。

4.感情の回避→感情を表現すると(心の露出)を感じるため、曖昧語でごまかす。
凡庸フレーズとおさらばしよう!

■「コーラを落とすな」という命令の呪い
私が小学2年生のときです。母から頼まれました。
「コーラを買ってきて。
地面に落としたら割れるから絶対に落としちゃダメだよ」
初めての一人でのお使いです。当時のコーラは大きな瓶でした。落としたら割れて台無しです。母の「落とさないで!」という言葉が頭の中でこだましています。
ようやく家までたどり着き、玄関で「お母さん、買ってきたよ」と叫んだ瞬間に、なぜか手が滑り、コーラ瓶が地面に落ち、まるで爆発したような音を立てて、すべてを玄関に撒き散らすことに。母が飛んできて、「何やってんの!あれほど落とすなっていったでしょ!」
心理学で「否定命令」の仕組みを学んだときに、真っ先に思い出したのが、この忌まわしいコーラ爆発事件です。
「○○しないでね」「○○しちゃダメだよ」
実は心理学では、この形式を否定命令と呼びます。知らず知らずのうちに言葉で「呪い」をかける方法です。「コーラを落とすな」という命令は、脳は「コーラを落とせ」という命令を受け取っているのと同じなのです。
単なる言い回しの問題ではありません。相手の脳と心に対する、深いしくみがベースにあります。
なぜ、「○○するな」という否定命令は、私たちのパフォーマンスを下げるのでしょうか。

心理学における有名な「シロクマ実験」があります。
「シロクマのことだけは、絶対に考えないでください」と言われると、脳は「シロクマを考えない」という命令を実行するために、まず「シロクマ」を強烈にイメージする必要があります。そしてそれを監視し続けてしまうという矛盾を抱えてしまいます。
■“優秀な映画監督”なら肯定表現を使う
話せない人の会話は、この「シロクマ」で溢れています。他人にもやりがちですが、自分に言い聞かせていませんか?
「緊張しないようにしよう」「ミスしないようにしよう」「遅刻しないようにしなきゃ」これらは全て、脳内に、「緊張して震える自分」「ミスをして青ざめる自分」「遅刻して走る自分」というネガティブなリハーサルを強制的に行わせているのと同じです。
相手や自分を心配しているつもりが、実は「失敗のイメージトレーニング」をさせているのです。
対照的に、人に動いてもらえる人や、自分を動かせる人は、脳内スクリーンの優秀な「映画監督」です。彼らは、相手に演じてほしい「成功シーン」だけを、肯定表現で伝えます。
・「緊張しないで」→「深呼吸をして、リラックスして話そう」

・「ミスしないで」→「一つひとつ、丁寧にチェックしておこう」

・「遅刻しないで」→「10分前には着いて、コーヒーでも飲もうか」
■相手を安心させる「光の方向」を指し示す
このような言葉を聞いた時、脳内では「何をすべきか」という明確なアクションプランがインストールされます。「~しないで」という禁止命令は体を萎縮させますが、「~しよう」という肯定命令は、体にエネルギーを与え、前へと突き動かします。
会話において、否定表現を使うことは、タクシーの運転手に行き先を告げずに、「東京駅には行かないでください」「新宿にも行かないでください」と言っているようなものです。
運転手は、「じゃあ、どこに行けばいいんですか!?」と混乱し、不安になります。
話せる人は、明確に行き先を告げます。
だからこそ、あなたの口から出る言葉は、相手を安心させる「光の方向」を指し示すものであってほしいのです。否定の壁を取り払い、肯定の扉を開けてください。
あなたが「肯定表現」を使い始めると周りの人々がより動いてくれるようになる!

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松橋 良紀(まつはし・よしのり)

一般社団法人日本聴き方協会代表理事

著書31冊52万部超え。30年以上にわたり、話し方や聴き方のスキルを研究し続けてきた心理学の専門家。『聞き方の一流、二流、三流』 『すごい雑談力』 『話さなくても相手がどんどんしゃべりだす 「聞くだけ」会話術――気まずい沈黙も味方につける6つのレッスン』 など、書籍を多数執筆。 聞き方スキル、雑談スキル、心理スキルをテーマとした研修やセミナーで活躍中。

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(一般社団法人日本聴き方協会代表理事 松橋 良紀)
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