※本稿は、松橋良紀『誰とでもうまく「話せる人」と「話せない人」の習慣』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■見え透いたほめ方をするトップセールス
営業時代に、常にトップセールスの後輩に同行したことがあります。彼はお客様相手に、お世辞を言いまくりでした。
「こんな素敵な町に住めるなんてうらやましいです!」
「こちらのお宅、御殿みたいですね! こんなお宅にいつか住みたいという夢ができました!」
こんな見え透いたお世辞は通じるのかなと思いつつ、お客様の顔を見るとまんざらでもなさそう。商談を終えて車に戻ってから、半分嫌味を交えながら言いました。
「あんなミエミエのお世辞を、よく言えるよね。嫌がる人とか、怒る人とかいるでしょ」
「何を言っているんですか。たまに嫌がる人はいるけど、基本的にはどんなにミエミエでも、みんな喜んでくれますよ。ほめて怒る人は僕とはもう相性が合わない人。気楽にほめることができるから僕はトップセールスなんですよ」
なるほど。気楽に褒めることができる彼と、褒め言葉を全然言えない私の違いが、大きな成績の違いなのかも。
「ただねえ、さっきの町が良い地域だとか、お客さんの家の造りは御殿だとか、私にはとうてい見えないのに、よく言うなあと思ってさ」
「いえいえ、お客様が本人的には気に入って住んでいる町と家だったら、ほめられてうれしいでしょう。何がヒットするかわからないから、思いついたことをいろいろ言ってみるだけですよ」
■成約率が3倍変わる“お世辞”の効果
なるほど! と思いました。「思いついたことや気づいた事を言っているだけなのか。けっしてお世辞を言っているという感覚じゃないのか!」
お世辞がうまい人は、周りがどう思おうが、本人が事実だと思ったことを口にしているだけ。本当に思っていることを言うから相手に響くのです。逆に下手な人は、心の中で本当に思っていないことを言っているケースが多いのです。だから反感を買ってしまうのです。
「見え透いたお世辞はどれくらい効果があるのだろう?」
こんなことを思って調べてみました。するとなんと、ミエミエの褒め言葉でも成約率が変わるという検証データがありました。
また、ある自動車販売会社では、様々な評価ポイントがある中で、お世辞がうまいかどうかが成績に最も影響があるというデータもありました。
心理学的に分析してみましょう。
「自分を認められた。うれしい。私の価値をわかってくれている」という反応が起きるのです。
■ストーリーと事実が潜在意識に届く
つまりお世辞は、「自分の存在価値を感じたい」という、人間が持つ根源的なニーズを深く満たすのです。ですから歯が浮くようなお世辞であっても、どんどん使ったほうがいいということになります。潜在意識を揺り動かす力は十分にあるのです。
潜在意識を動かすには、ストーリーを使うとさらに効果的です。
「前にね、『一緒にいるだけで心が落ち着く人がいる』って話を聞いたんですけど、あなたを見てると、まさに落ち着く人だなって思うんです」
これは、ストーリーを使って間接的にほめるパターンです。スムーズに潜在意識に届きます。
また、先に事実を言って、そのあとに褒めると、意識のブロックを外して、褒め言葉が潜在意識へするりと刻まれます。「今日のプレゼン、話す速度がすごく安定していましたね(事実)。
思ったことや見たままの真実を、気楽に口にしてみよう!
■5つの意識レベルで語る「仕事をする理由」
自分の仕事や、目標のパフォーマンスを上げたい、もっと人に影響力を持ちたい。
こう思うなら、自分の意識レベルがどこにあるのかを確認してみましょう。
ニューロ・ロジカル・レベルという理論があります。
人の意識レベルを5段階に体系化したものです。NLPのスキルや概念の中でも、私がとても好きな概念のひとつです。
●ニューロ・ロジカル・レベル5つの意識レベル
①アイデンティティレベル→使命・ビジョンなどを意識するレベル
②価値観・信念レベル→信念や価値観、などを意識するレベル
③能力レベル→才能や能力、などを意識するレベル
④行動レベル→行動や振る舞い、などを意識するレベル
⑤環境レベル→周りの環境を意識するレベル
それぞれ詳しく解説しましょう。
たとえば、「松橋さんはどうして今、心理を教える仕事をしているのでしょうか?」
こんなことを聞かれたとき、私は5つのレベルでの回答が可能です。
①環境レベル→「家でできる仕事だから便利だし、給料もいいし、楽な環境だからです」
②行動レベル→「教えることや、心理を研究したり、本を書くことができるのでやっています」
③能力レベル→「人にわかりやすく教えるのが得意だし、本を書くのが得意で好きなのでやっています」
④価値観・信念レベル→「心理の学びをすることは、さまざまな悩みを解消できるので人生にとって価値があることです。心理学は誰にとっても必要だという信念があります」
⑤アイデンティティレベル→「たくさんの人に心理のすばらしさを伝えたい。なぜなら私自身が、心理を学ぶことで命を救われて、人生が変わったからです。多くの人に伝えていくのが自分の使命です」
■給料がいいでも通勤が楽だからでもない
以上の5つの回答のうち、あなたがもし「これから心理を学びたい」と考える人なら、どのレベルで発言している人に学びたいですか?
まさか、「給料もいいし、楽なんでこの仕事をしています」という人から学びたいとは思いませんよね。
あなた自身はどんな意識レベルで仕事に取り組んでいますか?
給料がいいし、待遇もいいし、近場にあって通勤が楽だから、という理由で仕事をしている人もいるかもしれません。好きで能力が発揮できるからやっている人もいるでしょう。
しかし上位レベルで、
「この仕事はとても人類にとって価値があるから、この仕事をしているんです!」
「多くの人に伝えなければ、死ぬにも死にきれないという使命だと思ってやっています!」
こう言える人だったとしたら、多くの人に応援されていることでしょう。
上のレベルにいけばいくほど、意識レベルは高く、人に対する影響力も強くなります。ですから人に影響力を持ちたいなら、「自分は何者か」というアイデンティティや、「自分の使命はこれです」という使命レベルの言葉で語るようにしましょう。
それを普段から意識できるようになれば、あなたの影響力は飛躍的に変わるでしょう。
アイデンティティレベルで語ると人に応援される!
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松橋 良紀(まつはし・よしのり)
一般社団法人日本聴き方協会代表理事
著書31冊52万部超え。30年以上にわたり、話し方や聴き方のスキルを研究し続けてきた心理学の専門家。『聞き方の一流、二流、三流』 『すごい雑談力』 『話さなくても相手がどんどんしゃべりだす 「聞くだけ」会話術――気まずい沈黙も味方につける6つのレッスン』 など、書籍を多数執筆。 聞き方スキル、雑談スキル、心理スキルをテーマとした研修やセミナーで活躍中。
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(一般社団法人日本聴き方協会代表理事 松橋 良紀)

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