糖尿病や生活習慣病に効果的な運動は何か。佐久市立国保浅間総合病院の糖尿病センター長の西森栄太さんは「『短時間』『簡単』『家でできる』運動をコツコツと続けることが、血糖値の改善や糖尿病の寛解につながる。
特別な道具を使わず、ウォーキング約53分の筋活動量が得られる運動を毎日の生活に取り入れるといい」という――。
※本稿は、西森栄太『2型糖尿病は寛解する!』(新星出版社)の一部を再編集したものです。
■4つの国際的な研究が示す糖尿病に効く運動
さて、本稿では「運動」についてお話しします。
実は、糖尿病患者さんへの指導において、運動は食事ほどには普及していないことが報告されています。特に日本では、糖尿病やその他の生活習慣病に対する「運動療法(運動指導)」に保険点数が付かない場合が多いため、医療機関でも十分なアプローチが行いにくく、患者さんへの浸透も不十分であるのが現状です。
そのため、ここで紹介する「糖尿病の寛解を目指した運動」は、糖尿病寛解に関する国際的な研究において実施されていた内容と、私たちの病院で患者さんに実際にアドバイスしている実践的な取り組みをまとめたものです。
糖尿病の寛解を目指した運動
1 糖尿病寛解研究から見えてきた「運動」のかたち

糖尿病の寛解を目指した代表的な国際研究では、いずれも運動が取り入れられています。ただし、その方法や重視のされ方は研究ごとに少しずつ異なっています。ここでは、4つの重要な研究(Look AHEAD、DiRECT、DIADEM-I、STANDbyを通じて、運動がどのように活用されてきたのかを簡単にご紹介します。
まずはウォーキングから。無理なく続ける工夫がされている

いずれの研究でも共通していたのは、特別な器具や施設を必要とせず、誰でも取り組みやすい運動が選ばれていたということです。たとえばウォーキング。
これは4つの研究すべてで取り入れられており、「1日1万5千歩を目標にしましょう」(DiRECT)、「まずは1日1万歩以上、その後に週150分以上の中強度の活動をしましょう」(DIADEM-I)、「特別な運動ではなく、週175分、ウォーキングなどの運動を継続しましょう」(Look AHEAD)といった形で、参加者の生活の中に自然と取り入れられる工夫がされていました。
食事と組み合わせて、運動が“後押し”する役割に

研究によっては、食事療法がメインの役割を果たしているものもあります。たとえばDiRECTやSTANDbyでは、低カロリー食による体重減少が大きな成果につながりました。しかし、運動もその成果を支える「縁の下の力持ち」として重要です。
たとえばDIADEM-Iでは、食事と運動を組み合わせることで、参加者の筋肉量を保ちつつ、インスリンの効きも改善され、6割以上の人が糖尿病の寛解を達成しました。
大切なのは「続けやすさ」と「生活の中でできること」

特に印象的だったのは、どの研究でも「運動を特別なものとしない」工夫がされていたことです。Look AHEADでは週3~5日の中強度運動が提案されましたが、内容はウォーキングや軽い体操が中心です。DIADEM-Iではスマートフォンや歩数計を使って、運動の記録を楽しみながら続けられるようにしていました。
こうした工夫は、患者さん自身が「自分にもできる」と感じ、実際に行動に移せるよう促すとともに大きな支えとなります。
研究から学ぶ「糖尿病寛解への運動」

4つの代表的な糖尿病寛解研究を通じて分かるのは、運動は寛解を目指すうえで、非常に重要な“後押しの力”になるということです。
運動だけで寛解が得られるわけではありませんが、食事による減量を支え、筋肉量を保ち、インスリンの効きを高めるという点で、運動は確実に貢献しています。また、日常の中に取り入れやすい「歩く」「軽く体を動かす」といった運動でも、きちんと継続することで、健康全体への効果は十分に期待できます。

さらに、運動には気持ちを前向きにしたり、生活リズムを整えたりといった、身体以外への良い影響もあります。糖尿病の寛解は、ただ数値を下げることだけでなく、「自分自身の体と前向きにつきあっていくこと」でもあります。その意味でも、運動は“治療”というよりも、“人生を支える習慣”として、とても価値のあるものだといえるでしょう。
これらの研究は、糖尿病を寛解に導く運動が決して特別なものではなく、誰もが日々の中でできる、効果的で、やさしい方法であることを教えてくれます。糖尿病の寛解を目指す道のりにおいて、運動は力強い味方なのです。
2 当院で提案している運動療法

次に、私たち浅間総合病院で患者さんにご紹介している運動療法についてお話しします。当院の「糖尿病寛解プログラム」では、プログラム開始から最初の3カ月間は、体重を落とすことに重点を置き、日常生活の中での活動量を意識的に増やすようにお伝えしています。
たとえば、「掃除や買い物をこまめにする」「エレベーターではなく階段を使う」など、小さな積み重ねが大切です。
その後、体重を維持しながら食事の量を徐々に戻していく段階では、まずは1日5千~8千歩を目標として、可能であれば1日1万5千歩(家事や日常生活の歩数も含む)を目安としたウォーキングをおすすめしています。
歩くことは、糖を効率よく燃やす有酸素運動であり、健康な体づくりの基本です。

■「短時間」「簡単」「家でできる」運動を
運動は、特別な道具や長時間のトレーニングを必要とするものではありません。「短時間」「簡単」「家でできる」運動をコツコツと続けることが、血糖値の改善や糖尿病の寛解につながります。

まずは、スクワットを3回だけ、かかと上げを5回だけ、片足立ちを30秒だけでも大丈夫です。「できることを、できる範囲で、できるだけ」続けていくことが、何よりも大切です。
また、運動をするタイミングは、食後がおすすめです。食後30分~1時間以内の軽い運動(ウォーキング、軽い筋トレなど)がよいでしょう。
血糖値改善には、夕食後が最も効果的との報告が多いのですが、どの食事でも食後の血糖値は改善しているので、それほど気にしなくてもいいと考えます。
運動は、あなたの血糖値を下げ、筋力を守り、日々の暮らしをもっと楽にしてくれる「力強い味方」です。
今日から、体をちょっと動かして、「糖尿病の寛解」にむけて一歩踏み出してみましょう。
■椅子の背もたれに手をつく5秒の運動
■家事やデスクワークの合間にぴったりの運動

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西森 栄太(にしもり・えいた)

佐久市立国保浅間総合病院 内科部長(糖尿病内科)、糖尿病センター長、地域医療部長

1997年 東京大学大学院農学生命科学研究科修士課程修了。2005年 琉球大学医学部医学科卒業。沖縄県立中部病院での研修を経て、2008年より沖縄県立南部医療センター・こども医療センター附属粟国診療所に勤務。粟国島あぐにじまの島医者としてプライマリ・ケアに従事。2011年から佐久市立国保浅間総合病院に勤務し、糖尿病診療を中心とした地域医療に取り組んでいる。
日本糖尿病学会専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、 日本プライマリ・ケア連合学会家庭医療専門医、日本医師会認定産業医。

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(佐久市立国保浅間総合病院 内科部長(糖尿病内科)、糖尿病センター長、地域医療部長 西森 栄太)
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