指を入れると、乳幼児や動物の赤ちゃんに甘噛みされる感覚を再現するロボット「甘噛みハムハム」が、累計7万個を超えるヒットになっている。発案者は、元タカラトミー社員でユカイ工学取締役CMOの冨永翼さん。
ところが企画会議では誰にも共感されず、「じゃあ、次へ」と一瞬で流された。それでも翌週に同じ案を出し、試作機を作ると、社員の評価は一変した。ボツ寸前のアイデアを売れる商品に変えた秘訣とは。フリーライターの川内イオさんが迫る――。
■パリス・ヒルトンが欲しがった「ちら見ロボット」
モフモフしたピンク色のロボットが、チラチラとこちらを見る。インタビュー中なのに、視線を感じると思わず目を向けてしまう。音に反応して赤ちゃんのような目や首の動きを見せるこのロボット「mirumi(みるみ)」を発案したのは、冨永翼さん。「ロボティクスで、世界をユカイに。」をビジョンに掲げるユカイ工学で、取締役CMOを務めている。
「今年の4月23日にグローバルで発売して、すでに3万匹売れています。昨年、CES(世界最大級のテクノロジー見本市)に出展した際、海外のメディアの人たちの引きがめちゃくちゃ強くて、大きく話題になったんですよ。そのニュースを見たパリス・ヒルトンが『これ欲しいんだけど、どこで手に入れられるの?』とコメントをくれました」
「みるみ」は、冨永さんが新幹線に乗った際、たまたま席が近かった赤ちゃんの「チラチラと自分を見たり、目を逸らして隠れたりする様子」のかわいらしさに着目したことから生まれた。価格は、1万9800円。
発売から2カ月で約6億円の売り上げを記録している。
冨永さんはほかにも、ヒット商品を生み出してきた。乳幼児や動物の赤ちゃんが小さな歯で指を甘噛みする感覚を再現したロボット「甘噛みハムハム」は累計7万匹を出荷。容器や食器のフチにかけると熱い食べ物や飲み物を「ふーふー」と冷ましてくれるロボット「猫舌ふーふー」は約2万匹が売れた。
冨永さんの着眼点は独特だ。しかし、そのアイデアを商品化するのは、また別の話。「甘噛みハムハム」の企画は当初、誰にも相手にされず、「猫舌ふーふー」は発売までに5年かかった。冨永さんはどうやって発想力を磨き、社内を説得してきたのだろうか?
■広告代理店よりも「おもちゃ」を選んだ
原点は、新卒で就職したタカラトミーでの10年。1983年7月、大阪の枚方市で生まれた冨永さんの父が広告写真のカメラマン、母はコピーライターだったこともあり、もともとは広告業界に興味を持っていた。大学時代はコピーライターの養成講座にも通ったという。就職活動では名古屋に拠点を持つ広告代理店からコピーライターとして内定を得たが、迷った末にタカラトミーを選んだ。
「僕はひとりっ子で、子どもの頃、親からよくトミカやプラレールを買い与えてもらいました。
それもあって、子どものおもちゃって面白いし、すごく売れる可能性もあって楽しいんじゃないかと思ったんですね」
1年間の研修後、営業に配属され、1パック150円で5枚のカードが入っているトレーディングカードの販売を担当した。当時は他社も同様の商品を出していて、シェア争いが激しかった。そこでトップシェアを取るために、工夫を凝らした。カードショップと交渉してモニターを設置させてもらい、そこでプロモーション映像をループ再生する。さらに、自ら自社のカードを詳しく紹介する新聞を作り、売り場に設置した。
「今はモニターを置いて宣伝するのは珍しくないですが、当時はほかになかったと思います。全国にある10店舗から20店舗、拠点となるカードショップの売り場では、モニターと新聞を挟み込める什器を入れて、そこにずらっと商品を並べるようなタカラトミーの色に染めるプロモーションも仕掛けました。その後、売上も好調に推移し、設置店舗数も増えていきました」
■トップシェアの陰で、シャワーを浴びながら嗚咽
この作戦が当たり、大手玩具専門店などのカード売り場でトップシェアを獲得。売り上げを大きく伸ばし、社内で表彰された。……と書くと順風満帆なサクセスストーリーに感じるかもしれないが、実際は幾度も打ちのめされてきた。
例えば、百貨店の売り場にモニターを置かせてほしいと頼み込んでも受け入れてもらえなかった新入社員の時には、用意してもらったモニター販促物などを「無駄にするのか? ちゃんと交渉してこい」と先輩に叱咤され、何度も店舗担当者に説明しに行った。

自分が繰り返し頭を下げてもモニター設置を断られていた店舗に、先輩が電話を一本入れたらすんなり許可が降りて、力不足を実感したことも一度や二度ではない。

商品が想像以上に売れて品薄になり、販売店から「お前、早く商品を持ってこい」「なんでうちに持ってこないんだ。商品を持って来れない営業はうちの担当にいらない」と厳しく問い詰められて、涙を流した夜もある。
「ストレスに圧し潰されそうになって、シャワーを浴びながら嗚咽したこともあります。若い頃はなんでも自分の力でやってやろうと思っていたけど、周りの力を借りないとなにもできないんだと実感しました」
営業時代に教えられたのは、「三現主義」。現場に行って、現物を見て、現実を知るという意味だ。魅力的な商品だからといって、放っておいても売れるわけではない。アイデアだけで、現場は動かない。商品をヒットさせるためには、人と人の関係が欠かせないのだと肌身で感じた営業の4年間だった。
■毎週1000案を出す「アイデアの千本ノック」
6年目の2011年、ベイブレードを開発した当時の専務のもとに新設された部署、新規企画部のニュートイチームに異動になった。ここで、徹底的に発想力を鍛えられる。ミッションは、大人から幼児まで対象を問わず、これまでにない新商品を作ること。メンバーは4名で、上司が1名、開発から2名、そして営業から冨永さんが加わった。

期限は1年。週に一度、専務との定例会議があり、商品企画を提案しなくてはならない。そのために、毎週、4人でアイデアを持ち寄った。専務から課されたお題は、「アイデアを1000個出して、そのなかから3つ提案せよ」。
「玩具業界に『千三つ』という言葉があって、1000個アイデアを出すと 3つぐらい良さそうな案が出てくるという意味なんです。4人で1000個のアイデア出しは、本当につらかったですね。そのなかから3つを選んで提案しても、専務から面白くないと突き返されるのがほとんどでした」
まさに、アイデア出しの千本ノック。生みの苦しみをとことん味わったニュートイチームは、なんとか専務の厳しい審査を突破し、1年で3つの商品化に漕ぎつけた。
その後、多くのアイデアが商品化されたなかで、今も売れ続けているのは手のひらサイズの動かして遊べる動物フィギュア「アニア」。2013年に発売開始以来、シリーズ累計約2000万個を出荷するホームランになった。この商品はどうやって生まれたのだろうか?
■1000案から生まれた累計2000万個の「アニア」
「動物フィギュアは昔から社内で検討されていた企画でした。でもなかなか商品化に至らず、ニュートイチームで再検討することになったんです。
当時、多くの動物フィギュアが市場にはあったので、それと差別化するためにそれぞれの動物の特徴的な部分が動くと面白いのではないか、とチームで話をしました。。例えば、キリンは首が動き、カバは口がガバっと開きます。そのほうが絶対に楽しいので」
もちろん、作って終わりではない。ニュートイチームでマーケティングをひとりで担っていた冨永さんは、当時の上司と小学館に提案をして、図鑑シリーズ「図鑑NEO」とコラボを実現。「学習要素もある」という売り込みが功を奏し、発売直後から好調な売れ行きを記録した。
ニュートイチームとして何万個とアイデアを出すなかで、冨永さんは「アイデアの方程式」を見つけた。それは5つのパターンがあるそうで、現在も活用しているという。そのうちの2つを教えてもらった。
ニュートイチーム時代に商品化した2つの商品をもとに解説しよう。ひとつは、「ターゲットの切り替え」。商品は、2013年に発売したスマホ型玩具「LINE TOWN MY TOUCH(ラインタウン マイタッチ)」だ。
本体同士を接触させることでLINEと同様のメッセージやスタンプなどを交換できるほか、LINEキャラクターが登場するゲーム、キャラクターからメッセージやスタンプが届く機能もある。LINEのサービス開始は2011年6月で、一気に浸透し始めていた時期に冨永さんが注目したのはスタンプだった。
■ヒットを生む「ずらし」と「掛け合わせ」
「親がスマホでスタンプを送り合っている。子どもからしたら楽しそうだし、自分もやってみたいと思いますよね。でも、なにか間違いがあったら困るから親は絶対に触らせない。上司のLINEにハートマークを送られたら、取り返しがつきませんから(笑)。それで、親のマネをできるおもちゃがあれば売れるだろうと企画されたのが、この商品でした。これは、大人の料理を真似るままごとと同じ発想です」
もうひとつは、「流行っているもの同士の掛け合わせ」。これで誕生した商品は、スマホやタブレットの液晶画面をキレイにする小型ロボットクリーナー「オートミーS」だ。
「お掃除ロボットのルンバって数万円もして、気軽に買えないじゃないですか。でも憧れがありますよね。一方で、当時タブレットを持つ人が増えていて、みんな指紋や皮脂汚れを服やタオルで拭いていました。その様子から、ルンバのような動きでスマホやタブレットの表面をきれいにする『オートミーS』ができました。これもメディアにたくさん取り上げられて、数万台は売れたと思います」
■「大人にも刺さるロボット」を作りたい
冨永さんは、ニュートイチームから巣立った商品に携わりながら、タカラトミーのロボット商品「オムニボット」シリーズのリブランディングにも携わるようになった。それまでロボットに強い思い入れがあったわけではないが、簡単な会話ができるロボット「OHaNAS(オハナス)」のマーケティングや企画をするなか、その反響を目の当たりにして、ロボットの時代がくる気と直感した。
それ以来、ロボットに関心を持つようになった冨永さんを惹きつけたのが、2015年にユカイ工学が発売した「BOCCO(ボッコ)」。「家族をつなぐコミュニケーションロボット」がコンセプトで、スマホのアプリと連動させることで音声メッセージやテキストメッセージの送受信ができるのが特徴だ。
「それまで子ども向けの玩具ばかり作っていたんですけど、玩具だと機能を含めて限界があるじゃないですか。ボッコを見た時に、子どもだけじゃなくて大人にも刺さるかわいらしいロボットっていいな、自分自身が欲しいものが世の中にもっとあってもいいと思ったんですよね。それで、転職を決めました」
2016年春、CMOとしてユカイ工学に入社。最初の仕事はボッコの販路を拡げつつ、ボッコを活用したいクライアントを開拓し、ともに新しいサービスを開発することだった。
例えば、東京ガスと組んで2019年にリリースした子育て応援サービス「まかせて!BOCCO」は、オーディオブックの読み聞かせや「おはよう」「おやすみ」などの発話による子どもの生活リズムサポートを提供している。
セコムとは2018年、高齢者のQOL維持・向上を目的とするコミュニケーションサービスの実証実験をスタート。これがセコム、DeNAとの共同開発に発展し、2023年、新型の「BOCCO emo(ボッコ エモ)」を活用したシニア向けの双方向コミュニケーションサービス「あのね」につながった。
ほかにも複数の企業と連携して利用シーンを拡充することで、ボッコシリーズは累計2万台を出荷している。
■誰にも共感されなかった「甘噛み」
ここまで記した通り、冨永さんの仕事はロボットの企画、開発ではない。それではなぜ、冒頭に記した「甘噛みハムハム」「猫舌ふーふー」「みるみ」が誕生したのか? そこには、ユカイ工学独自のものづくりイベント「メイカソン」と「妄想会」がある。
冨永さんが入社する1年前から始まったメイカソンは、年に一度、全社員が参加して開催される合宿で、部署を問わず5~6名が1チームになり、合宿の2、3カ月前からアイデアを出し合う。そのなかで支持を得たものを試作し、合宿当日にプレゼンする流れだ。
タカラトミーでアイデア力に磨きをかけた冨永さんだが、当初は「玩具の領域を超えた企画」を考えることに苦労したという。「玩具の企画とは違う脳みそを使うこと」にようやく慣れ始めた2020年のメイカソンで採用されたアイデアが、「甘噛みハムハム」だった。
「息子の歯が生えたての時期に甘噛みをしてきたんですよね。これって痛気持ちいいなと思いつつ、他人を噛んじゃいそうだから、甘噛みをするたびにダメって躾けていたんです。でもある日、こんなに痛気持ちいい行為をなぜ禁じないといけないのか、疑問に思ったんですよ。それで、甘噛みされたい葛藤から親たちを解放しようと思って、指を入れたら甘噛みするロボットを思いつきました」
■「またですか?」と呆れられても試作した
その感覚、理解できる! という人は多くないだろう。実際、メイカソンに向けたアイデア会議では、チームの誰ひとり共感することなく「あー、面白いですね。 じゃあ、次行きましょうか」と一瞬で流された。
冨永さんは、ここで粘る。翌週のアイデア会議で、再び甘噛みロボットを提案したのだ。そこでも「またですか?」と呆れられ、決して芳しい反応は得られなかった。
しかし、「とりあえず、タッチセンサーで指を入れたらガブッって噛むような仕掛けだけ作ってほしい」と頼み込み、「そこまで言うなら」とチームメイトの了承を得る。「どのアイデアもプロトタイピングする価値がある」と考えるユカイ工学の社内には、思いついたものをすぐに試作できるような設備が整っている。このときも、チームメイトのエンジニアが試作を手伝ってくれた。
買ってきたネコのぬいぐるみに、タッチセンサー付きの口をはめ込む。指を入れると、「なんとも言えない、不思議な感覚」がした。その瞬間、「これはいける!」と直感した。
この試作機でチームメイトの評価も一転し、メイカソンでプレゼンするアイデアのひとつに選出。迎えた当日、プレゼンを終えた後には、甘噛みされたい社員が列を作り、商品化への道が拓けた。このときに実感したのは、「作って体験してみること」の重要性だ。
「どこの会社も、アイデアを紙のままで終わらせることが多いと思うんです。それで不採用になって消えていくアイデアのなかには、実際に作ってみるとめちゃくちゃ面白いものもいっぱいあるはずなんですよ」
■どんなぬいぐるみも「甘噛みハムハム化」
ユカイ工学では、メイカソンで採用されたアイデアをすぐに商品化するのではなく、外部の識者に意見を聞いて回る。
その段階で、大手生活雑貨チェーンから「ねむねむアニマルズ」というぬいぐるみが人気のメーカー「りぶはあと」を紹介され、とんとん拍子でコラボが決定。話し合いを重ねながら、甘噛みの力加減を調整したり、甘噛みに変化をつけるなどして「中毒性のある飽きない作り」を実現し、2022年7月に販売された。
ここから「いかに売るか」が、冨永さんの本業だ。冨永さんと開発チームは甘噛みの仕組みを「ハムリングシステム」と名付け、どんなぬいぐるみにも組み込んで、「甘噛みハムハム化」できるようにした。このアイデアも、外部の識者の話から閃いたという。
「アイドルやタレントのファンクラブを運営している人たちから、グッズの話を聞いたんです。缶バッジとかクリアファイルって簡単に作れるから、みんな同じようなモノになってしまうと。本当はもっとこだわりのグッズを作りたいけど、型が必要なモノは大量に作らないと採算が取れないから難しいと悩んでいました。その時に気づいたんです、甘噛みハムハムを横展開できるんじゃないかって」
ぬいぐるみの場合、MOQ(Minimum Order Quantity/最低発注数量)は1000匹。この程度なら、オリジナルの甘噛みハムハムを作りたいという会社もあるだろうと考えた。
■ミャクミャクにも広がり、4年で7万個
その予想が、当たる。ディズニーキャラクターの「チップ&デール」やスヌーピーのキャラクター「オラフ」、2025年大阪・関西万博公式キャラクター「ミャクミャク」など次々と有名キャラクターとコラボ。「甘噛みハムハム」シリーズの出荷数は、発売から4年で累計7万匹を超える大ヒットとなった。
「メインの購買層は四十代、五十代なんですよ。子育てがひと段落したお母さんが昔を懐かしんだり、ワンちゃん、ネコちゃんの飼い主が、赤ちゃんだった頃に甘噛みされたのを思い出したりするエモい商品に昇華されていて、嬉しい驚きでした」
■「猫舌ふーふー」は商品化まで5年
2025年7月の発売からすでに累計2万匹売れている「猫舌ふーふー」は、毎週開催されている社内のアイデア会議「妄想会」から生まれた。妄想会は誰でも参加可能で、クライアントの課題や新規プロジェクトなど毎回異なるテーマについて話し合う。
発端は2018年、飲料容器メーカー・東洋製罐の周年行事で「なにか面白いものを作りたい」という相談があったこと。それが妄想会のテーマになり、その際、冨永さんが提案したのが「猫舌ふーふー」だった。
「赤ちゃんの離乳食って、電子レンジでチンするとこれでもかってくらい熱くなるんですよ。それを自分がフーフーして冷ましているときに、なんでおれがフーフーしないといけないのか、これは人間の仕事じゃなくていいって思ったんですよね。それでいろいろ調べると、子どものご飯にフーフーすると虫歯菌が移るからやりたくないという親御さんもいることに気がついて、これは絶対に需要がある、社会に存在すべきものだと感じました」
東洋製罐の担当者がこのアイデアを気に入ったことで、コンセプトモデルの製作が決定。2020年10月、容器の淵に引っかけてボタンを押すと微風が出て熱い食べもの、飲み物を冷ましてくれる初代「猫舌ふーふー」が完成した。ここで、冨永さんは「個人的にすごく好きだから、なんとか商品化したい」と動き出す。
■4年連続ボツでも諦めなかった
ところが、2020年から4年続けてメイカソンで提案するも、採用されず。それを悔しく感じながらも、冨永さん自身、本体の背中に電池を入れて動かす仕組みの初代「猫舌ふーふー」の場合、電池が切れたら使われなくなりそう、電池式だと実際に食卓で使うのを躊躇する人もいそう……など課題を感じていた。
それでも諦めきれずにいたところ、日本の酷暑対策としてハンディファンが急速に普及。調べてみると、充電式送風機のコストが一気に下がったことがわかった。ハンディファンの構造を取り込むと、初代を商品化するよりも大幅に低価格で作れることが判明する。
これが社内を説得する追い風になり、初代のリリースから5年、ついに商品化に漕ぎつけた。販売開始から1年、「猫舌ふーふー」も意外な売れ方を見せている。
「アジア圏以外ではそれほど熱い飲み物、食べ物ってないんですよね。でもコーヒーの熱さだけは世界共通で、どうしてもフーフーしないと飲めなかったということで、2万匹のうち半数は海外で売れています」
■ボツ企画を商品化する「2つのカギ」
最初はほぼ無視された「甘噛みハムハム」と、何度もボツになった「猫舌ふーふー」。低評価を覆して商品化するためのカギが2つあるという。ひとつは「熱量」だ。
「『お前バカだな、でもちょっとやってみるか』まで持っていくには、自分自身がその企画に対して本当に親身になっているか、その熱量を伝えるのが一番重要です。何度も同じ企画を出したらふざけるなと言われるかもしれないので、例えば角度を変えてみる。そのために人の意見を聞くのもいいですよね。簡単なモックを作ってみるのもお勧めです」
もうひとつは、「先にお客さんを見つけること」。
「先にお客さんを見つけて、その人たちが欲しがってるなら作るしかないと会社に思わせることを意識しています。『猫舌ふーふー』なんて企画がぜんぜん前に進まない時期から、東急ハンズさんやロフトさんに通って『これ、めっちゃよくないですか?』『一般発売したらいいですよね』『商品化したら一緒に売りましょう!』と話をしていたんです。そうやって企画段階から『商品化されたらハンズさん、ロフトさんが置いてくれます』という提案ができると、会社も動きやすくなりますから」
冨永さんの話を聞いていたら、「高校時代、サッカー部のフォワードとして通算150ゴール以上決めた」という彼のエピソードを思い出した。決して強豪ではない一般の公立校で150ゴールは、まさに点取り屋だ。
点取り屋に必要なのは、何度シュートを外してもシュートを打ち続けられる図太さと、ここにボールが来るかもしれないと察知する嗅覚。企画がボツになっても諦めないのは図太さで、日常のなにげない瞬間を切り取ってヒット商品を生み出すのは嗅覚だろう。
「僕、ボールがこぼれたところにたまたまいてゴールを量産するごっつぁんゴーラーだったんですよ。嗅覚には自信がありした」
■赤ちゃんの「ちら見」が世界に刺さった
その嗅覚を存分に発揮した商品が、「みるみ」。2024年のある日、大阪出張の帰りに新幹線に乗ったとき、通路を挟んで斜め前の席に赤ちゃんを抱っこした女性がいた。赤ちゃんと目が合った冨永さんは、変顔をして笑いを取ろうとした。すると、赤ちゃんが二度見したり、母親の肩口に隠れようとしたりした。そのときに、ビビビッときた。
「赤ちゃんがちらっとこちらを見たり隠れたりするのってすごくかわいくて、周りの人にも幸せを振りまいている感じですよね。この仕草、めちゃくいいと思ったんです」
ちょうどメイカソンに向けてアイデアを考えているタイミングだったため、翌日、メンバーに伝えたところ、「確かにかわいいかも!」と賛同を得た。この仕草をどう落とし込むかを考えたとき、「動くロボットと目が合う、それを身につけて歩くことは新しいよね?!」という話から「みるみ」のアイデアにつながり、メイカソンで高評価を得る。 
CESに出展すると世界中で話題になり、今年4月に商品化されるとあっという間に3万匹が売れたというのは冒頭で触れた通りだ。
「ふーふーが意外と大変なことも、甘噛みが痛気持ちいいことも、赤ちゃんのちら見が嬉しいことも、普段は特に意識しませんよね。そういう感覚を自分の言葉にして伝えることができると、それわかる!って世界の人に刺さることがあるんですよ。同じように見過ごされている感覚がまだたくさんある気がします」
ロボットというと、人間の仕事や作業を代替する「役に立つもの」を想像しがちだ。しかし、ユカイ工学ではロボットを「人の心を動かすもの」と定義する。そう考えると、まだ遠い存在に思えるロボットが、普段の生活に入り込む余地がありそうだ。浪速のごっつぁんゴーラーは、常にそのスペースを狙っている。

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川内 イオ(かわうち・いお)

フリーライター

1979年生まれ。ジャンルを問わず「世界を明るく照らす稀な人」を追う稀人ハンターとして取材、執筆、編集、企画、イベントコーディネートなどを行う。2006年から10年までバルセロナ在住。世界に散らばる稀人に光を当て、多彩な生き方や働き方を世に広く伝えることで「誰もが個性きらめく稀人になれる社会」の実現を目指す。著書に『1キロ100万円の塩をつくる 常識を超えて「おいしい」を生み出す10人』(ポプラ新書)、『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦』(文春新書)などがある。

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(フリーライター 川内 イオ)
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