※本稿は村上茂久『最高の教訓 倒産』(大和書房)の一部を抜粋、再編集したものです。
■銀行が握る“倒産の運命”
企業が倒産するかどうかは、経営者の判断や経営戦略の巧拙によって決まる。多くの人は、そう考えているかもしれません。
もちろん、経営判断が重要であることは間違いありません。しかし実際には、企業の命運を左右する決定が、経営者の意思とは別のところで下されることがあります。その代表的な存在が、銀行です。
赤字が続いていても、長年にわたって事業を継続できている企業がある一方で、業績が急激に悪化したわけでもないのに、突然資金繰りに行き詰まる企業もあります。この違いは、どこから生まれるのでしょうか。
ヴィレッジヴァンガードは、独自の世界観を武器に長年成長してきた企業です。しかし近年は、業績の低迷とともに、財務面での不安も指摘されるようになっています。
ここからは銀行融資の仕組みや金融機関の判断基準を踏まえながら、赤字企業が「すぐには倒産しない理由」を読み解いていきます。
■「遊べる本屋」の今
創業以来、「遊べる本屋」をコンセプトに、本、雑貨、DVD、アパレル等を販売してきたヴィレッジヴァンガード。通称、「ヴィレヴァン」を運営するヴィレッジヴァンガードコーポレーションが苦境に立たされています。
2025年5月期において、売上高は前年比0.7%増の249億円だったものの、利益面では最終損益は42億円の赤字となり、2期連続の赤字となっています。不採算部門の整理も含めて、2026年5月期以降に全店舗の約3割にあたる81店舗の閉店を検討することになっています。
かつて、ヴィレッジヴァンガードは小売業界屈指の成功企業でした。10年以上連続で増収増益、最盛期の売上高は467億円を超え、店舗数も528店舗(うち直営517店舗、フランチャイズ11店舗)まで増やしています。
雑然とした店内には本とともにユニークな雑貨が並び、大学生や若い社会人が“宝探し”感覚で買い物を楽しめる空間が広がっていました。2000年代~2010年代にかけて、このサブカル文化を気軽に体感できる場が多くの若者に刺さっていたのです。
しかし、業績悪化に伴い、2022年5月末には50億円以上あったキャッシュは2025年5月期には23億円まで減っています。赤字が続き、キャッシュも減っている中、倒産のリスクも見え隠れします。
■黒字転換も続く苦境
まずは過去10年間のヴィレッジヴァンガードの売上高と営業利益の推移を確認してみましょう(図表1)。
過去最高の467億円の売上高を達成した2016年5月期から、8年連続で減収となっています。直近の2025年5月期の売上は微増だったものの、基本的には厳しい状況がうかがえます。
売上高がここまで減少している大きな理由の一つは店舗数の減少です。最盛期には500店舗以上あったヴィレッジヴァンガードですが、直近の2025年5月期には293店舗まで減少しています(図表2)。
ヴィレッジヴァンガードの2025年5月期時点の売上の構成を確認してみると、92%が店舗事業の稼ぎです。残りを占めているのは4.6%のPOPUP事業と3.5%のオンライン事業で、割合としては決して大きくありません(ヴィレッジヴァンガード 2025年5月期決算説明資料 事業別売上構成比より)。
そのため、売上の9割以上を占める店舗事業において、これだけ店舗数が減ってしまうと売上高も当然下落します。
ヴィレッジヴァンガードの店舗数の減少を余儀なくされた理由の一つとして、本やDVDが売れなくなったことに加えて、消費者の好みの変化が考えられます。
とりわけインターネットやスマートフォンが普及する中、SNSマーケティングに代表されるように、ネットを通じた消費行動が増えてきました。そうした中、サブカルを得意としてきたヴィレッジヴァンガードは、嗜好の移り変わりが激しい昨今の消費者の行動変化にうまく対応できなかったと言えます。
では、次に売上高を店舗数で割った店舗あたり売上高推移はどうでしょうか。
■“面白い商品”が生んだ30億超の特別損失
図表3をご覧ください。コロナ前の2019年5月期には店舗あたりの売上高は9,000万円以上あったものの、2023年5月期までは8,000万円を下回る状況が続いていました。直近では、不採算店舗の整理の甲斐あってか、8,200万円を超えるまで回復しています。なお、店舗あたりの売上高に関して、売上については決算説明資料に記載されている連結直営売上の店舗事業の数字を、店舗数については有価証券報告書に記載されている各期末と前期末の直営店舗の平均を用いて計算しています。
店舗数は減少しているものの、直近では店舗あたりの売上高は伸びていますし、直近の売上高全体で前期比微増している点から多少の回復の兆しが見えます。
しかしながら、課題は売上の減少よりも利益面にあります。直近の営業利益は2期連続で9億円以上の営業損失となっていて厳しい状況が続いているからです。
また、2025年5月期の最終赤字は42億円でした。ただし、営業損益ベースでは9.3億円の赤字にとどまっています。
棚卸資産評価損は、「売れると思って仕入れた面白い商品」の在庫が実際にはなかなか売れず価値を損なったために計上した損失、とイメージするとわかりやすいでしょう。また、減損損失は店舗の閉店に伴い価値を失った資産を減損したものです。
このような特別損失を30億円以上計上したために、最終赤字が42億円にもなったのです。ただ、これら特別損失は一時的な損失の計上であり、これらの損失でキャッシュが減るわけでもありません。
とはいえ、営業利益ベースで見てもこの10年間ではヴィレッジヴァンガードは利益をあまり出せていない状況です。
■なぜ利益率が低いのか
図表4はヴィレッジヴァンガードの営業利益率を示したものです。この10年間のうち合計4年は営業損失が生じ、営業黒字だった6年も営業利益率は1%前後です。
「小売なので利益率が低いのは当然ではないか?」
このように感じる読者もいるかもしれません。確かに小売の利益率は数%が一般的です。
一方で、小売での競合他社である株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス傘下の株式会社ドン・キホーテ(以下、ドン・キホーテ)の営業利益率は7.8%(2024 年6月期)、100円ショップを展開する株式会社セリア(以下、セリア)の営業利益率は7.1%(2025年5月期)です。
ただし、誤解が生まれないよう付言しておくと、セリアは小売の中でも利益率が高い企業です。実際、同じく100円ショップを展開する株式会社キャンドゥ(以下、キャンドゥ)の利益率は1%前後。それでもここ数年のヴィレッジヴァンガードの利益率よりは高く、同社がいかに苦しい状況にあるかがよくわかります。
■原価率も人件費も下がらない
その要因を見るためにも、P/Lの構成を確認してみましょう。
図表5はヴィレッジヴァンガードの2010年5月期のP/Lと2025年5月期のP/Lの構成費を比較したものです。
2010年5月期には9%だった営業利益率が、直近の2025年5月期では▲3.7%まで下がっています。その主な要因は原価率の3.9%上昇及び人件費の4.2%上昇です。
従業員数で見れば、2010年5月期において売上高366億円に対して、正社員は323人。他方、2025年5月期では売上高249億円に対して正社員は356人。
売上高は3割以上下がっている一方で、社員数は1割も多い状況です。人件費でも2010年5月期は43.2億円に対して、2025年5月期は42.7億円とほぼ同水準です。
このように、売上は減っているのに原価率は上昇し、そのうえ人件費も抑えられていません。これが利益率を押し下げる最大の要因になっています。
■在庫を多く抱えているからこそのリスク
しかし、ヴィレッジヴァンガードはさらに大きな問題を抱えています。2025年5月期時点におけるB/Sの全体像は図表6の通りです。
企業の安全性でとりわけ短期の観点で重要なのは流動比率です。流動比率は短期の資金繰りを見る指標で、流動資産÷流動負債で計算されます。流動比率が100%の場合は、ざっくり1年以内に現金化できる資産と1年以内に支払いが発生する負債の割合が同じことを意味します。150%の流動比率であれば、安全性はある程度高いと考えるのが一般的です。
ではヴィレッジヴァンガードの流動比率はどうかというと、194%です。これだけ見れば安全性は高いと言えます。
しかしながら、問題は「流動資産の質」です。
図表7は、流動資産154億円の内訳です。その7割以上は商品となっていて、金額は113億円にのぼります。一方、現金及び預金は流動資産の13%しかなく、金額にして21億円ほどです。
これに対して、流動負債は全部で79億円あり、その主たる中身は買掛金27億円、1年以内返済予定の長期借入金27.5億円となっています。これで見ると、商品は100億円以上あるものの、現預金は20億円しかなく、資金繰りは決して余裕があるとはいえません。
安全性をより厳密に見る指標に当座比率があります。序章でも解説したようにこの当座比率は、現預金や売掛金など換金性が高い当座資産を流動負債で割った指標です。ヴィレッジヴァンガードのこの値は50%です。
つまり、換金性の高い資産の倍の流動負債(1年以内に支払いが発生する負債)を抱えています。このように流動比率は高いものの、当座比率が低いのは、商品という在庫を多く抱えているからです。
そしてこの商品の多さこそが実は、ヴィレッジヴァンガードにとってはアキレス腱なのです。
そのことを理解するためにも、ヴィレッジヴァンガードのキャッシュ・コンバージョン・サイクル(Cash Conversion Cycle、以下、CCC)について見ていきましょう。
■CCCの仕組み
CCCとは、事業活動を通じて仕入れから販売、現金回収に至るまでの日数を見る指標です。事業活動においては、なるべく早くキャッシュ化できた方が資金繰りは楽になりますから、CCCは短い方が望ましいとされます。
CCCの理解を深めるためにもビジネスのプロセスからCCCを捉えてみましょう。多くのビジネスでは、まずは仕入れ代金の支払いが発生し、その後で売れた製品・サービスの売掛金を回収します(図表8)。
一般的に、CCCはプラスの値になるケースがほとんどです。まずは仕入れ代金の支払いが発生し、その後で売れた製品・サービスの売掛金が回収できる、という流れになるためです。
CCCがプラスということは、仕入れから入金までの期間に資金の不足が生じるため、その間の運転資金が必要になることを意味します。
たとえば、商品を仕入れて売れるまでに平均で2カ月(60日)かかるとします。この2カ月はいわゆる在庫として保管している期間です。
そして、売れてから資金を回収するまで平均で15日かかるとします。ここでは現預金だけでなく、クレジットカードの支払いも想定していることから売れてもすぐに入金できない状況を想定します。つまり、商品を仕入れてから入金までは平均で75日かかることになります。
他方、仕入れた商品の支払いは30日後だとします。すると、商品を仕入れてから30日後に支払いが発生する一方で、入金があるまでは75日(棚卸資産回転日数60日+売上債権回転日数15日)あることから、75日−30日=45日間の資金ギャップが存在してしまいます。これがCCCの意味するところです(図表9)。
つまり、CCCが短くなればなるほど、資金ギャップはなくなるということです。
■「宝の山」が変わってしまったワケ
このCCCについて、ヴィレッジヴァンガードはなんと263日です(図表10)。
ヴィレッジヴァンガードのCCCはかなり長いです。参考までに、小売業のドン・キホーテは17日、首都圏において専門店やディスカウントストア、スーパーマーケットなどの小売業を展開している株式会社オリンピックグループは26日、100円ショップのセリアは31日、生活用品を含め、多様な商品を扱うイオンでさえ46日です。ヴィレッジヴァンガードの263日の長さが、いかに際立っているかがわかります(図表11)。
では、なぜこんなにもヴィレッジヴァンガードのCCCは長いのでしょうか。
その理由は、ヴィレッジヴァンガードではサブカル関連の商品や、流行に必ずしも左右されない雑貨等を多く扱っているからです。すなわち、仕入れたとしてもすぐに売れるわけではない状態の在庫が多く滞留しているということです。
このような商品の取り扱いはかつて同社の大きな強みになっていました。店頭にはスタッフが仕入れた「いつか売れるかもしれない」商品が積み上がり、ときに「掘り出し物」として並べられていました。思いもよらない商品の組み合わせや出会いは顧客の購買意欲を刺激したはずです。
しかし、流行の移り変わりが早い令和の時代にはこのスタイルが響かなくなり、「宝の山」だったはずの在庫の山が、資金繰りを圧迫する「重荷」に変わってしまったのです。
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村上 茂久(むらかみ・しげひさ)
ファインディールズ代表
GOB Incubation Partners CFO。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。経済学研究科の大学院(修士課程)を修了後、金融機関でストラクチャードファイナンス業務を中心に、証券化、不動産投資、不良債権投資、プロジェクトファイナンス、ファンド投資業務等に従事する。2018年9月よりGOB Incubation PartnersのCFOとして新規事業の開発及び起業の支援等を実施。加えて、複数のスタートアップ企業等の財務や法務等の支援も手掛ける。2021年1月に財務コンサルティング等を行うファインディールズを創業。
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(ファインディールズ代表 村上 茂久)

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