健康維持に効果的な運動は何か。日本医科大学名誉教授の太田成男さんは「ミトコンドリアを増やし糖代謝の改善にも寄与する運動がある。
普段運動をあまりやっていないという人でも、ウォーキングをベースにすぐに簡単に実践できる」という――。
※本稿は、太田成男『弱った体ががらりと変わる 本当の「解毒力」』(祥伝社)の一部を再編集したものです。
■お金をかけずに手軽にできる体にいい運動
「運動は体にいい」というのは、おそらく誰もが理解していることでしょう。ところが、わかっていても多忙な生活のなかで運動を継続するのは簡単ではありません。
長時間走ったり、ジムで重いウェイトを扱ったり、毎日決まったルーティンを続けるのは心理的な負担が大きく、人によってはストレスになってしまうこともあります。健康のための行動が負担になってしまったら、本末転倒にほかなりません。
そこで注目されているのがインターバル運動です。
私がお勧めするのも、とにかくインターバル運動です。お金もかからず、自分に合った設定をすることで老若男女誰でも手軽に実践でき、しかも体内の仕組みを利用して健康効果をもたらす最も優秀な方法だからです。
インターバル運動とは、短時間の負荷(高い運動強度)と、回復の時間(低い運動強度)を交互に繰り返す方法です。たとえば、早歩き30秒と通常歩行60秒を数セット繰り返すといった具合です。個人の体力に応じて強度を調整できるため、年齢や運動歴を問わず取り組める柔軟さが、その長所です。

なぜ、この「短い刺激」と「小さな休憩」の繰り返しが、健康効果を大きく引き出すのでしょうか。そのカギは、ミトコンドリアとエネルギー代謝にあります。
■慢性的な炎症体質が改善に向かう効果も
私たちの体は、運動強度が上がると、瞬間的に大量のエネルギーが必要になります。このとき、ATP(エネルギー通貨)が急いで使われます。
短い高強度の運動は、「エネルギーが足りない。もっとエネルギーが必要です」という刺激を与えます。すると、ミトコンドリアを増やしてATPの数を増加させ(生合成)、その質が高まり(機能改善)、結果、細胞全体の代謝能力が底上げされていくのです。
一方で、長時間高強度の運動を続けるとどうなるでしょうか。
ミトコンドリアは疲弊し、活性酸素が過剰に発生します。その結果、酸化ストレスの悪影響のほうが大きくなり、健康にとって逆効果となる可能性があるのです。
だからこそ、インターバル運動の仕組みが役に立ちます。
短い刺激と休息を繰り返すことで、体は壊れる直前で「修復に入る余地」を保つことができるのです。

インターバル運動の利点は、とにかく「適度な酸化ストレス」を発生させること。これにより抗酸化酵素(活性酸素を無毒化し、細胞を酸化ストレスから守るタンパク質)の生成や解毒システムが強化され、体が鍛えられていきます。この作用は、免疫の閾値を整え、慢性的な炎症体質を改善に向かわせることも期待できるのです。
■ウォーキングをベースとした簡単な方法
また、インターバル運動は、糖代謝の改善にも寄与します。
短い高強度の負荷は、筋肉内のグリコーゲンを消費し、細胞内への糖の取り込み効率を上げ、インスリン感受性、すなわち体がインスリンにどれだけ効率よく反応するかを示す指標を向上させます。これは、糖尿病やメタボリックシンドロームの予防にも好影響をもたらします。

また、血糖値の乱高下が収まり、異物として体内で悪さをする終末糖化産物(AGEs)の蓄積が抑えられ、細胞レベルの劣化を遅らせる効果も期待できます。

さらにインターバル運動はケトン体代謝を呼び起こすスイッチにもなります。ケトン体とは、糖分が不足している際に代わりとなってエネルギー源の働きをする物質のことです。
やや強めの運動で筋グリコーゲンが使われると、体は燃料の選択を迫られ、脂肪酸やケトン体の利用率が上がっていきます。その結果、燃料の柔軟性(メタボリック・フレキシビリティ)が回復し、ブドウ糖に依存した代謝から、脂肪とケトン体も使える代謝に移行することで、疲れにくく、回復しやすい体質が育つわけです。
具体的なやり方は、決して難しいものではありません。


たとえば、ウォーキングをベースとした方法は次のとおりです。普段運動をあまりやっていないという人は、まずはこれを参考に始めてみてください。
【方法】
①普段の歩行ペースを基準に「少し息が上がるペース」で30秒歩く

②その後、呼吸を整えるように60秒歩く

③これを10セット、約15分で繰り返す
たったこれだけです。
普段歩くペースを基準にするため、誰でもこのフォーマットを応用できます。
■階段の上り下りを取り入れてみてもいい
よく「有酸素運動は20~30分やらないと意味がないと聞きましたが大丈夫ですか?」という質問を受けますが、15分でも問題ありません。15分という短い時間でも、ミトコンドリアは「刺激」を受け取り、代謝の回路が動き始めるので安心してください。
体力がついてきたら、さらに負荷を上げていきます。たとえば次のような要素を取り入れて、インターバル運動にチャレンジしてみましょう。
・階段の上り下りを取り入れてのインターバル運動

・スロージョギングでのインターバル運動

・自転車を使ってのインターバル運動

・ジムのランニングマシンを使ってのインターバル運動
このように応用の仕方は、自分の体調や状況に合わせてさまざま選べます。重要なのは「息が軽く上がるけれど、全力ではない」というラインを守ること。これこそ、マイルドな還元力が最も有効に働いている状態です。
インターバル運動がほかの運動と異なるのは、還元力を高めるための「余白」をつくることにあります。

■1日にたった15分だけ、呼吸が変わる時間を
長時間運動をした結果なかなか疲労が抜けない、というのを一度は経験したことがあるのではないでしょうか。それは、修復に必要なATPや栄養が不足し、還元フェーズが始まっていない状態です。
還元フェーズに入るかどうかが、「老化か健康か」の境界線です。短い刺激なら、体はすぐに回復モードに入り、強化と修復が調和した状態を保つことができます。
インターバル運動は、努力型の激しい運動ではなく、体の仕組みを上手に利用する運動です。人は、短い刺激で変わることができます。細胞は、負荷と回復のリズムで若返ります。そして還元力は、回復の余白があって初めて働きだすわけです。
1日にたった15分だけ、呼吸が変わる時間をつくってみる。その小さな積み重ねが、酸化と還元のバランスを取り戻し、未来の健康の礎となるのです。
ミトコンドリアが増えだすには、長い時間を要しません。わずか2週間です。
運動を始めると2週間くらいで、呼吸、心拍数、疲れ具合など体の様子が変わることを実感できると思います。

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太田 成男(おおた・しげお)

日本医科大学名誉教授

順天堂大学客員教授、薬学博士。1951年、福島県生まれ。74年、東京大学理学部化学科卒業。79年、同大学大学院薬学系研究科博士課程修了。スイス連邦バーゼル大学バイオセンター研究所研究員、自治医科大学講師・助教授などを経て、94年、日本医科大学教授に就任。2007年、医学誌『Nature Medicine』に論文を発表して以来、世界の水素研究をリードする。日本ミトコンドリア学会名誉理事長、日本分子状水素医学生物学会名誉理事長、国際水素医学生物学会名誉理事長など多くの要職を兼任。

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(日本医科大学名誉教授 太田 成男)
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