個人投資家にとって、株式を通じた企業への投資は、株価が買ったときよりも上昇した際に売買益が期待できるだけでなく、配当や株主優待を得られるというメリットがある。一方、企業にとっても個人株主が増えることで、株価の安定化や長期保有の傾向が高いファン株主の増加といったプラスの効果が期待できる。
そのため、近年は個人投資家向けの施策に取り組んでいる企業が増えており、ライフスタイルブランド「無印良品」を手掛ける良品計画もそのひとつだ。
2021年頃から個人投資家とのコミュニケーションにつながる取り組みに力を入れ、2025年9月1日には、1株を分割して発行済みの株式数を増やす株式分割を行った。1株が2株に分割されたため、分割直前に60万円台だった最低投資金額が30万円台に下がった。
良品計画が個人投資家の存在を重視し、取り組みを始めた経緯について、同社経営企画部IR課課長の星野弘さんに聞いた。
より多くの「ファン株主」とつながるための株式分割
良品計画のなかで株式分割に関する議論が始まったのは、2025年3月頃のことだったという。
「当時は株価も業績も好調で上昇局面にあり、東証が“望ましい投資単位”として示している『50万円未満』という水準を超える可能性が出てきたので、分割を検討しようという話が出てきました。投資単位を下げることでより多くの個人投資家の方々に興味を持っていただき、ファン株主を増やしていくことで、企業価値も上がっていくという思いから動き出しました」(星野さん・以下同)
ファン株主の増加が、なぜ企業価値の向上につながるのか。その理由は「対話」にある。
「当社の基本方針のひとつとして、株主を含むステークホルダーの方々との対話を行い、そこでいただいたご意見を企業活動に反映しながら、社会に対していいインパクトを出していくという考え方があります。特に当社の個人株主の方々は、株主でありお客様でもあるという方が多いので、そのような方々との接点を増やしていくことはプラスに影響すると考えています」
ここ数年、個人株主の数は右肩上がりで増えているなか、株式分割によって増加率がさらに上がっているとのこと。
「2026年2月末現在で個人株主の人数は22万人ほどとなり、10年前と比べると30倍を超える勢いで増えてきています。直近半年に絞って見てみると4万人近くは増えているので、株式分割の効果も大きかったと感じています。かつては短期保有の株主の方が多かったのですが、近年は長期で保有してくださる方の割合も増えてきました。
「100株以上保有」という基準をあえて見直さなかった「株主優待」
良品計画の個人株主増加の理由は、株式分割だけではない。多くの株主から評価されているのが、株主優待だ。良品計画の株式を100株以上保有していると、買い物の際に7%割引になる優待クーポンが配布される。
株式分割によって、これまで100株保有していた株主は200株保有することになったが、優待クーポン配布の基準は「100株以上保有」から変更しなかった。
「株主の方々に平等な優待でありたいという思いから、『100株以上保有』という基準は変えませんでした。それによって、より多くの方に優待を活用していただきやすくなったと思っています」
ポイントとなるのは「平等」。株式の保有数にかかわらず、投資してくれていることに対する感謝の意味を示すものとなっているのだ。
「7%は、株主優待としては比較的高い割引率ではないかと考えています。また、日常的にご利用いただきたいという思いから利用頻度の制限や限度額などは設けていないので、クーポンが使用できる期間中であれば、いつでも何度でも7%割引でお買い物をしていただけます。2024年に割引率を5%から7%に引き上げたのですが、その反響が大きく、日頃から無印良品などでお買い物をしてくださっているお客様が株主になるきっかけになったと感じています」
コストカット以上に大切にしたい“株主との接点”
株式分割や株主優待の拡充によって個人株主が増加すると、その分だけ株主総会の招集通知をはじめとする通知書類も増え、印刷や郵送にかかるコストが上がる。企業としては懸念材料になる点であり、良品計画でも議論された。
「事務的なコストが増えることを気にする声は、確かにありました。また、個人株主が増えるとお問い合わせの件数も増え、オペレーションに負荷がかかるのではないかという声もありました」
コストの増加は免れないものだが、社内で議論を重ねた結果、それ以上に個人株主が増えることの効果のほうが大きいという判断になったそう。
「個人株主が増えることによって、優待を利用してお買い物してくださる方やその回数が増えると、我々の売上にもつながります。
招集通知などを電子化してコストを抑える方法もあるが、あえて紙で届けることで個人株主とのつながりを強くしたいという思いのもと、郵送を継続しているとのこと。
「招集通知や『MUJIレポート(統合報告書)』のデザインを統一し、ブランドイメージを大切にしています。招集通知のデザインは10年以上変わっていません。電子化したり簡略化して薄くしたりして、コストカットする方法もあるのですが、年に1回株主の皆さんに改めて当社のことを知っていただく機会なので、情報量も厚めにして、できるだけちゃんとお伝えしたいという思いでフルバージョンの資料をお届けしています」
株主優待のクーポンは、2026年5月に「MUJIアプリ」で利用できるように電子化された。ただし、これはコストカットのためではなく、より利便性を上げるための措置。
「かつての紙製の優待クーポンは有人レジでのみ対応しており、セルフレジやネットストアでは使えなかったため、利用が限定されていた部分がありました。電子化することで、セルフレジやネットストアでも使用できるようになったので、より多くの方にストレスなく気軽に利用していただけるのではないかと思っています」
年に数回開催している「株主との対話の場」
株主を対象に、年に数回開催されている「株主ミーティング」。
株式分割や株主優待以外にも、良品計画が個人株主との接点として実施している取り組みがある。2021年からスタートした「株主ミーティング」だ。
「株主総会はどうしてもかしこまった質問に偏りがちなので、もう少しフランクな形で商品や店舗などに関する質問もいただきながら、対話できる場を設けたいと考えて開始しました」
2021年から2022年にかけては、株主総会後のイベントとして実施した。しかし、2022年に総会の開催日を平日から祝日に変更したことで参加者が100人強だったところから600人ほどに増加し、「株主ミーティング」の参加者も大幅に増えたことがきっかけで、2023年から全国各地で場を設けるようになっていった。
フランクな雰囲気で実施されている「株主ミーティング」。
「現在は年に数回、全国各地の店舗や本社などで開催しています。2023年の開始以来、累計52回開催し、約1800人の株主の皆様と直接対話してきました。『株主ミーティング』では当社全体の方針だけでなく、開催する店舗の取り組みや店長の思い、現場の声も届けるような内容を心掛けており、参加者の方々からも非常に好評です。イベントの半分以上は対話の時間としていて、できるだけ皆さんからのご質問やご意見に答えられるようにしています」
「株主ミーティング」では経営や配当、株主優待に関する質問だけでなく、「こういう商品があったらうれしい」「愛用していた商品がなくなって悲しい」「この店舗のオペレーションに感動した」といった話題も出てくるそう。ここで得た声をもとに、経営や商品開発などに結び付けていくのだ。
最後に星野さんは、「今後は新たな取り組みにもチャレンジしていきたい」と話してくれた。
「以前、当社の事業活動のひとつとして保全活動を行っている千葉の棚田に株主の方々をご招待して、田植え体験をしていただいたことがあり、大変好評でした。当社の商品を製造している工場の見学なども、株主の方からのご要望を数多くいただいているので、実現したい気持ちもあります。当社の商品や店舗はもちろん、事業活動にも触れていただき、当社がどのように社会に対していいインパクトを出そうとしているか、伝えていく機会を増やしていけたらと思っています」
お客様の声をもとに商品開発や店舗運営をしているからこそ、ファン株主を増やしていく意味を見出している良品計画。今後、さらに株主とのつながりを強め、企業としての魅力も増していくことだろう。
(取材・文/有竹亮介 撮影/森カズシゲ)

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