世界の中央銀行関係者が集まるジャクソンホール会合が近づいている。7月FOMCでは3人の委員が利上げを主張したが、追加利上げ観測は後退した。
わずか10日ほどで変わったFRBへの見方
毎年夏になると、金融市場の注目を集めるのが米国ワイオミング州で開催されるジャクソンホール会合です。今年は8月27~29日に開催され、世界各国の中央銀行関係者や経済学者などが集まります。過去にも米連邦準備制度理事会(FRB)議長の発言をきっかけに、米国債利回りや為替、株式市場が大きく動いてきました。
今回も米国の金融政策が最大の焦点です。7月に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)から米雇用統計発表までわずか10日ほどで市場の見方は変わってきました。
7月29日のFOMCでは、政策金利を3.50~3.75%に据え置きました。ただし決定は9対3で、反対した3人の委員はいずれも0.25%の利上げを求めています。
ウォーシュFRB議長も7月FOMCで2%のインフレ目標を改めて強調し、声明文も物価への警戒を残す内容でした。この時点では9月会合での追加利上げが現実味を帯びていました。
ところが、流れを変えたのが8月7日に発表された7月の米雇用統計です。非農業部門雇用者数は、市場では増加が見込まれていたものの、実際には2万3,000人減となりました。
この雇用統計の結果を受けて、市場では9月FOMCでの利上げを織り込む動きが後退しました。7月末までは「もう一段の利上げが必要ではないか」とみていた市場が、「雇用が弱い中で本当に利上げできるのか」と考え始めたわけです。
だからこそ今回のジャクソンホール会合は重要です。FRBが引き続きインフレを警戒し、追加利上げの可能性を残すのか。それとも雇用の弱さを踏まえ、これ以上の金融引き締めに慎重になるのか。FRBがどちらに軸足を置くのかを見極める場になりそうです。
「米ハト派・日タカ派」なら日米金利差は縮小へ
一方、日本では日本銀行(日銀)が金融政策の正常化を進めています。7月の金融政策決定会合では政策金利を据え置きましたが、高田創審議委員は0.25%の追加利上げを主張しました。また、植田和男日銀総裁も、会合後の記者会見にて「構造的なタカ派(持続的なインフレ圧力に備えた継続的な利上げを重視する政策スタンス)」姿勢は貫いています。
もちろん、日銀がすぐに追加利上げへ動くと決まったわけではありません。国内景気や賃金、物価、海外経済の動向を確認する必要がありますし、一定の独立性は担保しつつ高市政権とのコミュニケーションも重要なポイントです。
それでも、FRBが雇用の弱さを理由に追加利上げへ慎重になる一方、日銀が利上げ余地を残せば、日米の金融政策には温度差が生まれます。
そこで重要になるのが日米金利差です。これまで円安を支えてきた理由の一つが、米国の金利が日本より大幅に高かったことでした。米金利に低下圧力、日本金利に上昇圧力がかかれば、日米金利差が縮まり、ドル買い・円売りの巻き戻しにつながる可能性があります。
足元のドル円は金利差だけで方向性は決まりません。景気見通しや投資家のリスク姿勢、実需、政府・通貨当局の動きも影響します。2026年夏には、急速なドル高・円安に対して日米が協調して円買い介入に動く異例の展開もありました。
それでも、ジャクソンホール会合で「FRBは利上げに慎重」「日銀は追加利上げ姿勢を維持」という組み合わせが鮮明になれば、ドル円には円高圧力がかかりやすくなるでしょう。
円高、国内金利上昇が追い風の企業は?
円高と聞くと、「日本株にはマイナス」と考える人も多いかもしれません。確かに、自動車や機械など海外で稼ぐ輸出産業には逆風になります。
例えば海外で1ドルの利益を稼いだ場合、1ドル=160円なら160円ですが、150円になれば150円です。実際の業績は為替予約や海外での生産コストなども影響しますが、円安メリットを受けてきた輸出企業ほど、急速な円高は警戒材料になります。
しかし、海外から商品や原材料を仕入れる企業には追い風です。ドル建て100ドルの商品なら、1ドル=160円では1万6,000円ですが、150円なら1万5,000円。
企業は在庫があるほか、為替予約をしているため、業績への反映には時間差があります。それでも円高が一定期間続けば、海外から商品を調達する企業には仕入れ環境改善の恩恵が出てきます。
もう一つ見ておきたいのが金融関連企業です。こちらは円高そのものではなく、日銀の金融政策がポイントになります。国内金利が上昇すれば、銀行では貸出金利の上昇を通じて利ざや改善が期待できます。
生命保険会社は国内金利の上昇によって、新規で購入する債券の利回り改善につながる一方、既存債券の価格下落を招きます。生保にとって望ましいのは、金利の急騰ではなく緩やかな正常化です。
「米ハト派・日タカ派」となれば、自動車など円安メリット株から、国内金利上昇の恩恵が期待できる金融関連企業へ。さらに円高で輸入コスト低下が期待できる小売や食品などの内需株へ資金が移る可能性があります。
ジャクソンホール会合後に円高が進んでも東証株価指数(TOPIX)が底堅く推移するようなら、東京市場の物色対象が変わり始めたサインとして注目したいところです。
「米ハト派・日タカ派」シナリオで注目の日本株5選
そこで今回は、「米ハト派・日タカ派」というシナリオで注目したい5銘柄を、円高と国内金利上昇という二つの切り口から見ていきます。
銘柄名 証券コード 株価(円)
(8月12日終値) 特色 神戸物産 3038 2,803.5 円高で輸入コスト低下が期待できる「業務スーパー」 良品計画 7453 4,495 円高メリットに加えて本業の成長にも注目 三菱UFJ FG 8306 3,606 国内金利上昇が追い風になるメガバンク 第一ライフグループ 8750 1,877 緩やかな金利上昇なら運用環境改善へ ニトリHD 9843 2,941.5 円高メリット銘柄の代表格
神戸物産(3038)
同社は「業務スーパー」を全国で展開し、国内の自社グループ工場で製造する商品に加え、世界各国から直接輸入した商品を販売しています。約50カ国の海外協力工場から商品を調達しており、円高が進めば輸入商品の仕入れ負担が軽くなる可能性があります。
2025年11月~2026年4月は売上高が前年同期比5.1%増の2,861億円、営業利益は同10.2%増の210億円となりました。新規出店に加え、既存店への商品出荷も堅調です。
物価高が続く中、消費者の節約志向は業務スーパーにとって追い風です。そこに円高による仕入れ環境の改善が加われば、収益面でもプラスに働く可能性があります。ただし、仕入れ時期や在庫の関係から、為替変動が業績へ表れるまでには時間差があります。
良品計画(7453)
同社は「無印良品」を国内外で展開しています。衣料品、生活雑貨、食品など幅広い商品を扱っており、海外から調達する商品の仕入れコストは為替の影響を受けます。
7月に2026年8月期業績見通しを上方修正しました。国内事業の営業総利益率の改善が続いているほか、海外事業も伸びています。
海外店舗で稼いだ売上高や利益は、円高になると円換算額が小さくなりますので、単純な「円高メリット株」ではありませんが、国内の仕入れコスト改善と本業の成長が重なれば、小売株の中でも注目されやすいでしょう。
三菱UFJ FG(8306)
同社は国内最大級の金融グループで、日銀の金融政策正常化を考える上で注目したい銘柄です。超低金利時代には、銀行の本業である預貸金ビジネスで十分な利ざやを確保しにくい状況が続きました。
2026年4~6月には、国内貸出の利ざやは約0.6%内で推移しています。純利益も前年同期比48%増となり、国内金利上昇による収益環境の変化が数字にも表れています。
企業の設備投資や買収や合併(M&A)などに伴う資金需要が続けば、貸出残高の増加も収益を支えます。日銀の追加利上げ観測が強まれば、円高が輸出株の重しになる一方、銀行株には資金が向かいやすくなる可能性があります。
第一ライフグループ(8750)
同社は国内生命保険大手で、国内金利の正常化によって事業環境が変わる企業です。生命保険会社は保険料を長期間運用するため、国債をはじめとする債券の利回りが収益に影響します。
国内金利が上昇すれば、新たに購入する国債などから以前より高い利回りを得られる一方、すでに保有している債券価格は下落します。金利が急上昇すれば含み損が膨らむ可能性もあり、「金利上昇=全面的な追い風」ではありません。
ただ、日銀が景気や市場への影響を確認しながら緩やかに利上げを進めれば、高い利回りの債券へ徐々に資産を入れ替えられます。中長期では運用環境の改善が期待できるため、金利上昇のスピードにも注目したいところです。
ニトリHD(9843)
同社は家具やインテリア用品を中心に展開し、海外で生産・調達した商品を日本国内で販売しています。プライベートブランド商品の多くを開発輸入しているため、円高が続けば仕入れ負担の軽減につながります。
一方、海外店舗も展開しているため、海外事業の売上高や利益は円高になると円換算で目減りします。また、為替予約によって為替変動の影響を一定程度抑えているため、円高の効果がすぐ業績に表れるわけでもありません。
それでも円高基調が一定期間続けば、仕入れ環境は徐々に改善します。
(田代 昌之)

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